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ライバルとの再開

【フレスガドル・ギルド本部】


ギルドの扉が重く開かれ、冒険者たちの喧噪の中、アルノアとシエラが姿を現す。

彼らの帰還に、周囲の冒険者たちが振り返り、ざわつきが広がる。


「あれって……」「蒼波の羅針盤と行動してたって噂の……」


気にする様子もなく、二人はギルド本部の奥へと足を進めた。

無言のまま階段を上がり、最上階にある執務室の扉をノックする。


「入れ」


低く、落ち着いた声が返る。


部屋の中にいたのは、フレスガドル冒険者ギルドのマスター――アイズ。

眼光鋭く、整った金髪をなびかせている。

彼女は書類を閉じ、二人に視線を向ける。


「……帰ったか。状況を聞かせてもらおうか」


アルノアは静かに頷き、ギルド長机の前に立つと、深く一礼してから語り始めた。



リヴァイアサンの異変。

黒いオーラを纏った異形の姿。

仲間を救うために自らを犠牲にした冒険者、カイアス。

そして、その影に現れた謎の男――スプラグナス。


重い空気が部屋を包む中、アイズは長く黙っていた。

やがて、深く背もたれに寄りかかり、目を細める。


「……黒いオーラの膨張。そして異常な変異。ここまでの規模になると、タワー内部の異変とも無関係ではないかもしれん」


彼は指を組みながら、アルノアへと視線を向けた。


「そして君……リドルスのギルドから、君の力について簡単な報告が来ている。

“既存の属性に属さない純白の魔力を扱う可能性がある人物”と」


その言葉に、シエラがわずかに身を硬くする。

アルノアは視線を伏せ、少しだけ間を置いた後、口を開いた。


「……はい。まだ全てを語るには時期尚早ですが、確かに僕の力は通常の魔力とは異なります。

それは、ある存在から受け継いだもの……破壊神に抗おうとした、かつての“存在”の力です」


アイズの眉がわずかに動く。


「その“存在”については、いずれ全てを明かします。ただ、今の僕はその力のほんの一部しか引き出せていません。

今回のリヴァイアサン戦で、それを痛感しました。だからこそ……次は“風の遺跡”へ向かうつもりです」


「……そうか」


アイズはしばし沈黙した後、立ち上がった。


「報告を感謝する。君が何者であろうと、今はフレスガドルの一員だ。――背負うべきものは大きいかもしれないが、それでも逃げずに前へ進んでくれると信じている。風の遺跡への遠征、準備が整い次第、許可を出そう」


「ありがとうございます」


アルノアは静かに頭を下げた。

その隣で、シエラも深く礼をする。

彼女の横顔には、どこか誇らしげな表情が浮かんでいた。



ギルドの扉が開かれたのは、昼過ぎのことだった。報告を終えたアルノアとシエラが、次の準備のために作戦室に戻ろうとしていたその時——。


「やっぱり、ここにいたか」


低く、しかし馴染みのある声が響いた。振り向いたアルノアの視線の先に立っていたのは、フレスガドルの学園時代、ライバルとして幾度もぶつかり合った男——リヒターだった。


「……リヒター」


「あのときと変わらねぇな。いや、むしろ前よりも目つきが鋭くなってる。何かあったな?」


リヒターは肩にかけたコートを軽く払うと、迷いなくアルノアに歩み寄る。金色の髪が光を受け、揺れるたびに雷鳴のような存在感を放つ。


「お前が関わったという“黒いオーラ”の噂、風の遺跡、それに……破壊神の気配まで感じたと聞いて、俺もじっとしていられなかった」


「風の遺跡のことまで……情報が早いな」


「風の加護に選ばれた者は、風の揺らぎに敏感なんだよ。最近、遺跡の方角から異様な乱れを感じてな。俺の魔力が反応したってことは、あそこに“何か”がある」


リヒターは真剣な瞳でアルノアを見据える。


「俺も行く。あの遺跡には、俺の力の源がある……それだけじゃねぇ。どうやらお前の力にも、関わってきそうな気がしてる」


シエラが静かに一歩前に出る。精霊の感応が彼女にも何かを囁いているのか、リヒターを見つめながら静かに言った。


「……風の精霊たちもざわめいてる。あなたの魔力……確かに、あの遺跡と共鳴している」


「で、アルノア。答えは?」


リヒターはわずかに口元を吊り上げた。


アルノアは迷わず答えた。


「一緒に来てくれ。俺も、まだこの力の意味をすべて知ってるわけじゃない。けど……お前となら、進める気がする」


「フッ、いい返事だ」


リヒターは手を差し出し、アルノアがそれをしっかりと握り返す。


かつてのライバルは、いま再び――同じ目標へ向かう仲間となった。



朝靄のかかるフレスガドルの街並みに、太陽の光が徐々に差し込んでくる。

ギルド前の広場には、すでに出発の準備を終えた冒険者たちの姿があった。


アルノアは腰の短剣を確かめ、荷を背負いながら静かに前を見据えている。

その隣には、羽織を翻すようにしてシエラが立っていた。

彼女の髪には風を感じさせる軽やかさがあり、これから向かう「風の遺跡」への気配と、どこか呼応しているようだった。


「本当に行くのか? あそこは未踏域に近い場所だって話です。」


ギルドマスター・アイズの言葉に、アルノアは頷く。


「ええ。短剣の力、そしてあの黒いオーラの正体を知るためにも……避けては通れない場所だと思っています。」


「……そうか。君が決めたのなら、私から言えるのは一つだけだ。帰ってこい。生きて、またここに戻って来てください。」


アイズの言葉に、アルノアは短く礼を返した。


そこに、肩を大きく回しながら現れたのが、リヒターだった。風の魔力が彼の周囲に自然と漂い、その気配はすでに冒険者としての域を超えつつある。


「おい、出発遅れるぞ。俺はもう風の鼓動が聞こえちまってんだからな!」


「せっかちだな、リヒター……」


シエラが小さく笑い、アルノアも苦笑する。


リヒターは前を向いて言った。


「行こうぜ。あの時みたいに、バカみたいに全力でぶつかってさ……今度は“もっと深い力”を引きずり出すんだろ?」


それに応えるように、アルノアは風の気配を感じながら、一歩踏み出す。


「ああ、行こう。俺たちの次の戦いへ。」


こうして、アルノア、シエラ、そしてリヒターは――風の遺跡へと向け、新たな冒険へ旅立った。


雲間を駆ける風が、まるでその背を押すかのように静かに吹き抜けていった。


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