↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き戦神の冒険譚   作者: ルキノア
冒険者駆け出し編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/123

テスタメント

空間が凍りついたかのような緊張感が戦場を包む中、スプラグナスはゆっくりと腕を広げた。

その身を覆っていたマントが風もないのにふわりと舞い上がり、彼の胸元にぶら下がる黒銀の十字架が不気味に輝きを放つ。


「おやおや、どうやらリヴァイアサンも限界のようだ。……ならば、少し手助けをしましょう」


その言葉に合わせ、スプラグナスが指を鳴らした瞬間――

空気が変わった。


いや、“空気”ではない。空間そのものが、深淵に引き込まれるような錯覚を全員が感じ取った。

突如としてリヴァイアサンの体を包む黒いオーラが暴走を始める。


それはもはやオーラというより、黒く濁った“液体”のような禍々しさで、鱗の隙間に染み込み、

骨の髄へと侵食していく――いや、**“書き換えている”**ようにすら見えた。


「これこそが神の胎動だ。

――名もなき破壊神の“試しの獣(テストメント)”として、お前に相応しい姿を与えよう、リヴァイアサン」


ドクン、と重い音が鳴った。

それは鼓動ではなかった。大地そのものが脈動しているかのような“神性の脅威”の音だった。


リヴァイアサンの目が赤黒く染まり、口元から黒い霧を吹き出す。

その身体は膨張し、背びれが鋭く伸び、鱗が刃のように変貌していく。


「こ、こんなの……ッ!」


ミアが思わず後ずさる。エギルも眉をひそめ、即座に指示を飛ばす。


「全員、距離を取れ! 一度体制を整えるぞ!」


遅れて水が爆ぜた。リヴァイアサンが放った波動により、周囲の地形が激しく変動する。

黒い水柱が天井を突き破り、蒼く沈んだ空間が、深海の悪夢のような様相を見せ始めた。


スプラグナスは高所に跳躍し、全員を見下ろす。


「さあ、あなた方の選ばれた“希望”とやらが、どこまで抗えるか。……興味がありますよ?」


その目は笑っていた。

リヴァイアサンの完全覚醒。

――それは、これまでの戦いがただの“準備運動”でしかなかったと、全員に突きつける絶望だった。


⸻


轟音――!


リヴァイアサンが放った咆哮と共に、黒の水圧衝撃波が四方へと炸裂した。

空間ごと押し潰すようなその一撃を、シエラの風の加護がかろうじて弾く。


「みんな、踏みとどまって!」


彼女の精霊魔法が風の壁を作り出し、直撃を防ぐも、全員が体勢を崩しかけた。


「……やべぇな、マジでこれ、洒落になってねぇぞ……!」


ラウドが汗を垂らしながら呟く。その両腕には、炎と水が同時展開されていた。

対極属性の融合――本来不安定なはずの術式が、彼の高い適性で強力な攻撃魔法へと変換される。


「業炎氷刃(ごうえんひょうじん)――裂けろ!」


ラウドが放つ、赤青の双属性砲がリヴァイアサンに炸裂するが、黒い鱗はわずかに焦げるのみ。

その直後、リヴァイアサンが空間ごとえぐるような尾撃を振るった。


「ガレス、今だ!」


「おうよ!」


轟砕(ごうさい)――巨大な戦斧が、斬撃というより“叩き潰す”勢いで、リヴァイアサンの横腹にめり込む。

ガレスの一撃に、微かにひびが走る。


「効いてる! 続けて!」


エリスが叫び、同時に広域回復術(マスヒール)を展開。

傷を負ったミアが即座に立ち上がり、味方のフォローへと走る。


「こっちに任せて、攻撃は集中して!」


そして前線――

アルノアとシエラが、白銀の閃光を纏って跳び込む。


「――白雷氷刃(はくらいひょうじん)ッ!」


アルノアの大鎌に、白き魔力が奔る。

氷と雷、相反する力を融合させた異形の斬撃が、リヴァイアサンの眼下を貫いた。


同時に、空を駆けるシエラが両手を広げ、精霊たちに命ずる。


「精霊たちよ、彼の刃を貫通せし力へ――:雷風嵐(サンダーストーム)!」


暴風と雷の乱舞が、アルノアの軌道を支える。

精霊の導きで、空中機動すら可能となった彼の斬撃は、リヴァイアサンの硬質な防御のわずかな隙間を突いていく。


「……このままいけるか!」


エギルが駆けながら剣を構え、ゼルドと共に左右から挟撃を仕掛ける。

カイアスも大剣に風を纏わせ、空を斬るような斬撃を放つ。


「貫け――風牙斬!」


再びリヴァイアサンの一部が削れ、黒いオーラが散った。


確かに、攻撃は通り始めている――


だがそれでも、リヴァイアサンは崩れない。


「まだ……まだかよ……!」


全員が渾身の力をぶつける中、アルノアは胸に手を当てる。

体内に眠る“白の核”――エーミラティスの力が、徐々に熱を帯び始めていた。


「シエラ、合わせてくれ」


「……もちろん。あなたとなら、どこまでも行けるわ」


二人が空中で交差し、魔力が絡み合う。

一撃を放つ準備が整う――だがその時


リヴァイアサンの口元に、再び“黒の渦”が集い始めた。


「――来るぞ!」


全員が、次の一撃に備えようと身構える。


だがその渦は、攻撃ではなかった。

“再生”だった。


「なっ……」


破壊されたはずの部位が、黒く塗りつぶされながら再生していく。


スプラグナスが、どこか楽しそうに呟いた。


「さあ……次の絶望の幕が、開きますよ」


⸻


ドクン――


空間そのものが鼓動するような重圧が、ダンジョン内に響いた。


再生されたはずのリヴァイアサンの身体が、さらに“塗り潰されていく”。

鱗一枚一枚が、漆黒の鎧のように硬質な質感へと変化し、眼は紅に輝いた。


「……まずい」


アルノアが低く呟く。


ただの再生ではない。これは“進化”だ。

いや、“覚醒”という言葉ですら、生ぬるい。


リヴァイアサンは今――黒の神性とでも言うべき存在に変貌を遂げつつあった。


「これが……黒きオーラの真の姿か……」


カイアスが剣を構えながら唇を噛む。

その圧だけで、全員の動きが鈍る。


「くっ、精霊の結界が……押し負ける……!」


シエラの魔法障壁が、圧倒的な黒の波に押されて軋んでいた。

その向こう、スプラグナスはフードを脱ぎ、長い銀髪を揺らしながら楽しげに笑う。


「これが“主”の意思です。崩壊はもう止まらない。

貴方たちは、この海の底で“初めの一歩”に沈むのです」


リヴァイアサンが咆哮する。


――ドオォォォォン!


地鳴りと共に、水流の壁が全方位に発生。

それは圧倒的な“断絶”――視界を、音を、空気すら遮断する檻。


「全員、離れて!」


エギルが叫ぶも、各自が各個撃破の危機に陥る。


水の牢獄の中、ゼルドとラウドが背中合わせで防戦。


「これ、俺たちヤバくねぇか……?」


「今さらだ」


ラウドが苦笑し、同時に火と水の斬撃を交差させる。だが、それすら水に吸い込まれて消えていく。


「完全に属性を吸っていやがる……!」


別の空間では、ガレスが斧を振るい、エリスが全力で回復魔法を飛ばすも、リヴァイアサンの尾の一撃だけで数十メートル吹き飛ばされる。


「……くっ、くそがッ!」


カイアスが黒の壁に向かって大剣を振るう。


「なにが……神性だ……てめぇごときに……!」


怒りとともに風の刃が吹き荒れるが、それすらも吹き飛ばされる。


そして――中央。


アルノアとシエラも、攻撃のリズムを完全に崩されていた。


「アルノア……」


「大丈夫だ。まだ……終わりじゃない」


アルノアの中で、エーミラティスの白い魔力が震えている。

だが、それすらも“届かない”と理解していた。


「これは……次元が違う」


膝が震える。


それでも、負けられなかった。


――その時。


スプラグナスがリヴァイアサンに手を翳し、囁く。


「魂に喰らいつきなさい。完全な“器”になるのです」


黒いオーラがリヴァイアサンの体内に沈み込む。

その瞬間、目が一度、白く染まり――


「――やめろッ!!」


カイアスが叫びながら飛び出す。


「こいつは……もう違う! リヴァイアサンじゃねぇ、何かに……取り込まれてる!」


カイアスの脳裏に浮かぶ――あの時の記憶。

船が飲み込まれ、仲間たちが消えていったあの光景。


その中で、最後に“笑っていた男”――


スプラグナスが、何かに“取り込まれていた”ことを、ようやく理解する。


「貴様……初めから……!」


スプラグナスが一歩前に出る。


「気づくのが遅い、カイアス。貴方たちは……“選ばれなかった側”なのです」


そして、リヴァイアサンの口が開く。


黒き波動――それは、全てを呑み込む“絶対の破壊”。


「来るぞッ!」


エギルが叫ぶ。


「全員、結界を重ねろ! 今を凌げなければ、未来はない!」


全員が死力を振り絞る――

それでも、“勝つための手段”が、まだ見つからなかった。


――希望は、まだ“この場には”ない。


だが、その時。

アルノアの腰に差された短剣が、白と黒に光を放ち始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。