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ハイドレイヴァ

アルノアは即座に状況を把握し、ハイドレイヴァの放った三種の魔法を見極めた。


「水流の槍が右、氷嵐が左、雷撃が中央……っ!」


空間ごと歪めるような魔力の波が襲いかかる。

だが、アルノアは一歩も退かず、白い魔力を一気に展開した。


「凍結展開——《白零結界はくれいけっかい》!」


周囲の水分を瞬時に取り込み、空間全体を冷却、氷の壁を連続で展開していく。

氷嵐は凍気に包まれて威力を相殺され、水流の槍は砕け散り、雷撃すら氷の膜に吸収されて散った。


「こいつ、全部の攻撃を止めやがった……!」

エギルが思わず声を漏らす。


だが、アルノアはすでに動き出していた。

氷結魔法を攻防一体で使い、足場のない水場に凍結の道を作り出し、ハイドレイヴァの懐へと迫る。


「シエラ、今だ!」


「ええ——《水精霊のアクア・フレッシュ》!」


シエラは高濃度の水属性精霊魔法を詠唱し、一気にハイドレイヴァの首のひとつに集中射撃を浴びせた。

それは物理では届かない位置からでも、精霊たちの力で直接魔力を貫通させる魔法だった。


ギュオオォォォン!


頭のひとつがよろめく。

そこにアルノアが滑り込むように接近し、凍気を纏った剣を振り抜いた。


「《霜断そうだん》!」


剣から放たれた氷の斬撃が、傷ついた頭部に直撃し、氷の結晶となって砕けた。


——一つ、ハイドレイヴァの頭が崩れ落ちる。


「あと二つ!」

シエラが声を上げ、精霊たちと再度連携を取る。


アルノアとシエラ、二人の連携は、この厄介な多頭龍に対して的確に対処していく。

その姿に、エギルたちSランク冒険者すら思わず唸る。


「……おい、あの二人、想像以上だぞ」

ミアが剣を握りしめ、笑うように言った。

「ラウドが負けたのも納得だわ」


アルノアとシエラの連携でハイドレイヴァの頭の一つを撃破した直後、残る二つの首が怒りに燃えるように咆哮をあげた。

その咆哮に反応するかのように、ダンジョンの天井から大量の水が降り注ぎ、再び周囲を水で満たしていく。


「——来るぞ!」

アルノアの声と同時に、ハイドレイヴァの口から三属性混合の魔力が収束し、極大魔法が形成され始める。


その瞬間、背後から雷鳴のような声が轟いた。


「へっへっへ!待たせたなぁ!」

ぜルドが影のように飛び込み、残った頭のひとつに跳ねるように接近、

「《迅雷穿牙じんらいせんが》ッ!!」

雷を纏った短剣が首筋を貫き、魔法のチャージを妨害する!


続いて、ガルスの咆哮とともに巨大な盾が地面を揺らすように叩きつけられた。

「《魔障壁・鉄壁ノてっぺきのたて》!!」

巨大な水圧を打ち返す、魔力の壁が展開され、アルノアたちの前に立ちはだかる!


「助かった、ガルス!」

アルノアが叫び、再び凍気を放つ構えを取る。


上空からはエリスが淡く光る羽根のような魔法陣を展開。

「癒しの光よ、仲間たちに祝福を——《聖煌せいこう》!」


回復魔法と強化魔法を重ねがけし、全員の能力を一時的に底上げする。

ミアも抜剣しながら言葉を叫んだ。


「ラウド、まだやれるわね! 炎の方も頼んだわよ!」


「言われなくてもな!」

ラウドは両手を広げ、炎と水の二重属性魔法を展開する。

「《陽炎爆衝》! 《水竜の矢》!」

爆裂と穿貫の二つの魔法が同時にハイドレイヴァの胴体を撃ち抜き、爆風と水柱が渦を巻く!


そして——


「押し込むぞ!!」

エギルが地面を踏み締め、巨大な岩と水流の槍を融合した魔法を召喚する。


「《剛水岩牙ごうすいがんが》ッ!!」


その魔法はハイドレイヴァの中心部を直撃し、龍の体をよろめかせた。


「シエラ!」

アルノアが呼ぶと、彼女はすでに詠唱を終えていた。


「——精霊たち、ここで決めるわ。《水晶穿陣すいしょうせんじん》!!」


無数の水晶の矢が空間を満たし、ハイドレイヴァを包囲してから一斉に突き刺さる!

そこへ——


「——いけえええぇぇぇ!!」

アルノアの一撃、《嵐雷閃らんらいせん》がトドメの如く放たれた。


白く暴れる雷の閃光がハイドレイヴァの残された頭部を断ち切り、咆哮とともに水龍は倒れ込んだ。


——深潭ノ渦、その奥深くを守っていた中ボス、《水牙竜ハイドレイヴァ》。

その強大な魔力の波動が、静かに消えていく。


「やった……!」

ラウドが息を切らしながら笑い、ぜルドたちが拳を突き上げた。


「さあ、次は本命だな」

エギルが前を見据え、なお奥へと続く道に目を向ける。


アルノアとシエラも、静かに頷いた。

戦いは、まだ終わらない。


ハイドレイヴァの巨体が水中へと崩れ落ちると、ダンジョン全体に重く鈍い振動が響き渡った。

直後、水面に走る魔力の波動。あたりの水が渦を巻き、足元から浮かび上がるように、古代の魔法陣がゆっくりと光を帯び始める。


「来たな。前も、こいつを倒したときに同じ現象が起きた」

エギルが静かに言う。手にした大盾から魔力を解き、警戒を強める。


「けど、今回は規模が違う。前よりもずっと、奥が深い……」

ラウドが苦い表情で呟き、拳を握りしめた。


彼らが初めてハイドレイヴァを倒したとき、ダンジョンは一度沈黙した。

しかし今回は違う。まるでハイドレイヴァの死を契機に、“何か”が目覚めたかのように、周囲の魔力が一斉にざわめきだしていた。


「ダンジョン自体が……形を変えてる」

シエラが足元の水流の変化を感じ取ってそう言った。


まるで壁だったはずの岩盤が音もなく後退し、目の前に新たな道が現れる。そこからは、今までとは段違いの濃密な魔力が吹き出していた。


「俺たちが来たときには、ここまでは開かなかった……まさか、アルノア達との合流が鍵だったのか?」

エギルが目を細める。水流の向きが変わり、奥からひどく重苦しい“気配”が流れ込んできていた。


「アルノア、シエラ。この先は今までとはまるで違うぞ」

「前に俺たちがハイドレイヴァを倒した時ですら、この奥は開かなかった……」


ラウドが真剣な眼差しで前を睨む。彼にとっても未知の領域が、今、目の前に口を開こうとしている。


「精霊たちも……すごく警戒してる。何かがこの先にいる」

シエラの声に、空気が静まる。


「——行こう。ここが《深潭ノ渦》の本当の核心だ」

アルノアの言葉に、全員が頷いた。


強化されたリヴァイアサンが、真なる主としてその奥に潜んでいる。

未踏の最奥、沈黙の水が今、動き出す。

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