最初の強敵
ダンジョンの中層、セーフティーゾーンと呼ばれるエリアにたどり着くと、そこには3人の冒険者たち が待っていた。
「おーい、エギル!ミア!ラウド!」
元気な声が響く。
彼らは蒼波の羅針盤のAランクメンバー で、それぞれ盗賊、タンク、ヒーラー の役割を担っている。
最初に駆け寄ってきたのは、細身の男。
黒い軽装の装備に身を包み、腰にはいくつもの短剣を携えていた。
「よう!待ってたぜ! こっちは特に問題なかったぞ!」
彼の名はゼルド 。
敏捷性に優れた盗賊 で、情報収集や奇襲を得意としている。
次に、どっしりと構えた大柄の男が近づいてくる。
全身を重厚な鎧で覆い、大盾を背負っている。
「エギル、無事で何よりだ。そっちは順調か?」
彼の名はガルス 。
防御特化のタンク で、仲間の盾となる役割を担っている。
最後に、優しげな微笑みを浮かべた女性が歩み寄ってきた。
白と青のローブをまとい、杖を手にしている。
「みなさん、お疲れ様です。何かあったらすぐに治療できますからね」
彼女の名はエリス 。
回復魔法に長けたヒーラー で、冷静な判断力も持ち合わせている。
ゼルドがアルノアとシエラに目を向けると、興味深そうに口元をゆるめた。
「そっちの二人が今回の助っ人か? 推薦されてきたんだってな。どれ、腕前はどんなもんか……」
「ゼルド、無礼はやめておけ」
ガルスがたしなめるが、ゼルドは「冗談だって」と笑いながら手を上げる。
エギルが軽く息をつくと、改めて全員に向き直った。
「……よし、全員そろったな。ここからが本番だ。準備を整えて、ダンジョンの異変とボスの討伐に挑むぞ」
メンバー全員が気を引き締め、いよいよ本格的な攻略が始まるのだった。
ダンジョンの中層以降 に進むと、大型のモンスター が多く生息していることがすぐに分かった。
しかし、真に厄介なのは別にいた。
「問題はこいつらだよ……ヴォルナフィッシュ だ」
エギルが鋭い視線を周囲に巡らせながら説明する。
ヴォルナフィッシュは、小型ながらもこの中層で生存できるほどの戦闘力を持つ魔魚だ。
特徴は以下の通り。
•小型で素早い :他のモンスターに比べ圧倒的な機動力を持つ
•群れで行動する :単体ならまだしも、大量に襲ってくるため対処が難しい
•漁夫の利を狙う :大型のモンスターとの戦闘中に奇襲を仕掛けてくる
「コイツらは、デカいヤツと戦ってる時に不意打ちしてくるんだ。タンクや魔法使いがシールドで戦闘スペースを確保しないと厳しい」
ぜルドが腕を組んでうなずいた。
「だから俺たちは、前線を維持しつつ後衛を守る役割も果たさなきゃならん。エリス、ヒールの準備は?」
「いつでも大丈夫よ」
エリスが微笑みながら杖を握る。
アルノアとシエラも戦闘の準備を整える。
「とにかく、ヴォルナフィッシュの群れをどうさばくかが鍵 だな」
アルノアは冷静に周囲の水流を見ながら、戦いのイメージを固めていった。
「……なら、俺が先に動いてみるよ」
アルノアが静かに前へ進み、ヴォルナフィッシュの群れへと向かう。
アルノアの大氷結とエギルたちの驚き
「ゼルドさん、索敵を頼む」
アルノアが短く指示を出すと、ゼルドは目を閉じ、微細な魔力の波を周囲に広げた。
「……ヴォルナフィッシュの群れが水流の中で待ち構えてるな」
ゼルドが確認すると、アルノアは静かに白いオーラ を放ち始める。
「なら——」
「大氷結!」
瞬間、アルノアの魔力が一帯を覆い尽くし、水流そのものを一気に凍結させた。
ヴォルナフィッシュの群れは凍りつき、水の中に潜んでいたモンスターたちの動きも封じられる。
「……飛び出してくる心配は減ったな」
アルノアは冷静に状況を見極める。
「大型モンスターは力技で抜けてくるかもしれないが、小型のやつらはほぼ無力化したはずだ」
ギルドでの戦闘を直接見ていなかったエギルとミア は、この圧倒的な氷魔法に目を見開いた。
「……氷属性とは珍しいな」
エギルが腕を組みながら感心する。
「水属性使いの一部しか扱えない派生属性 だっていうのに、あの速度と規模で発動するなんて……」
ミアも目を細めてアルノアを見つめる。
「アルノア、あんた相当やるわね」
アルノアはそれに対して特に驚いた様子も見せず、ただ前を見据えていた。
このダンジョンにはまだ何かがある。
それを確かめるまでは気を抜けない。
「さぁ、進もう」
ダンジョンを進む中、一行は明らかにこれまでとは異なる威圧的な魔力を感じ取った。
「——来るぞ!」
鋭い魔力の波動とともに、水流が荒々しく渦巻き、巨大な影がその奥から現れる。
《水牙竜ハイドレイヴァ》!
エギルが叫んだ。
「もう復活しているのかい……!」
ミアが険しい表情で続ける。
「前回、私たち蒼波の羅針盤 で討伐したはずなんだが……ボスを倒せていないから、ダンジョンの復元力で再生されたみたいだね」
「だが……前回の討伐から一ヶ月も経っていない。
それなのにもう復活するなんて……このダンジョン、やはり何かがおかしい」
「想定外の消耗戦になるぞ!」
エギルの声に、一行は即座に戦闘態勢を整えた。
ハイドレイヴァの鋭い水牙が光を反射し、渦巻く水流の中で巨大な爪がうねる。
水龍の巣窟《深潭ノ渦》
このダンジョンは、水龍系の強力な魔物 が支配する場所だった。
そして、その最奥には 《リヴァイアサン》 という伝説級の水龍が君臨している。
今回、前に立ちはだかったのは《水牙竜ハイドレイヴァ》
「こいつは頭が複数ある水龍だ」
エギルが説明する。
「それぞれの頭が独立して魔法を行使してくる。
まるで別々の魔法使いが同時に襲ってくるようなものだ!」
ゴゴゴゴ……!
ハイドレイヴァが咆哮すると、水流が爆発的に巻き起こり、一帯の水位が急激に上昇する。
頭のひとつが 高圧水流の槍 を形成し、別の頭が 氷嵐 を生み出し、もう一つの頭は 帯電した水雷 を纏い始めた。
「複数属性の水魔法……!」
シエラが驚き、アルノアも表情を引き締める。
——このダンジョンの水龍たちは、ただの水属性ではない。
それぞれが複数の派生魔法を扱う特異な存在だった。
「戦い方を間違えれば、一気に崩されるぞ!」
エギルの警告と同時に、ハイドレイヴァが一斉に攻撃を放ってきた。
この強敵を前に、一行はどう立ち向かうのか——。




