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実力の証明

ラウドは額の汗を拭うことなく、大剣を握りしめたままアルノアを睨みつけた。


(このままじゃ、体力も魔力も消耗させられるだけ……。なら、一気に決めるしかねぇ!)


息を大きく吸い込み、全身に力を込める。大剣の刃先に赤々とした炎が宿り、それは次第に熱を帯びながら渦を巻き始めた。


「ふん……それなりに強いのは分かったよ。」


ラウドの唇が歪む。


「だが、俺の火力はまだまだ上がるぜ!」


ゴォッ!


まるで炎の竜が目覚めたかのように、ラウドの魔力が爆発的に高まる。剣を中心に燃え盛る炎は広がり、彼の周囲の温度を一気に引き上げた。


観戦していた冒険者たちがざわめき始める。


「お、おい……。これ大丈夫か?」

「ラウドの本気だぞ? あの白髪のやつ、マジでやばいんじゃねえか?」

「怪我どころじゃ済まねえぞ、マスター、止めた方がいいんじゃ……」


訓練場に緊張が走る。しかし——


「……」


グレッグは微動だにせず、まっすぐアルノアを見据えていた。


「……止めないのか?」と、誰かが問う。


しかし、グレッグはゆっくりと腕を組み、低く笑うように言った。


「……いや。見てろ。」


その言葉に、ギルドの冒険者たちは再びアルノアの方を注視する。


そして、その中心に立つ青年は——まるで何事もないかのように、静かにラウドを見返していた。


 ラウドの身体が炎の軌跡を描きながら、爆発的な推進力で加速する。


「喰らえッ!!」


轟音とともに振り下ろされた大剣は、まるで爆発そのものを纏ったような威力を持ち、アルノアの眼前に迫る。


だが——


アルノアは動じることなく、大鎌《黒穿》に雷と氷の魔力を纏わせた。


次の瞬間、ただの一振り。


それは、単純でいて、しかし極めて洗練された動作だった。


バチンッ——!


大剣と大鎌がぶつかり合う。


だが——そこにあったはずの凄まじい衝撃音も、炎が爆ぜる音も、雷が弾ける音も、何も聞こえなかった。


——シン……と静寂が降りる。


観客たちは呆然とし、誰もが目の前の光景を理解できずにいた。


「え……? 何が起こった……?」

「おい、魔力の衝撃が……消えた……?」

「いや、確実にぶつかってたぞ!? なのに、どうして——」


ラウドは目を見開いたまま、大剣を握る手に力を込める。だが、魔力は既に霧散していた。


対するアルノアも、何事もなかったかのように静かに大鎌を構え直す。


「…………ッ!」


ラウドは歯を食いしばりながら後退する。


グレッグはその様子を見て、自然と笑みを浮かべた。


「あいつ……とてつもない魔力コントロールだな。」


まるで、ぶつかる直前の一瞬で、互いの魔力を無理やり打ち消したかのようだった。


そんなことが可能なのか?


観客たちは信じられないという顔でアルノアを見つめる。


だが、本人は相変わらず淡々とした表情のままだった。


「魔力相殺か…」

 グレッグは呟くように言葉を漏らす。


 グレッグの言葉に、観客たちはますます困惑した表情を浮かべる。


「どういうことだ?」

「魔力が打ち消し合う……?」

「そんなの狙ってできるのか?」


ざわめきが広がる中、グレッグは腕を組みながらゆっくりと説明を始めた。


「俺も戦闘で完全に再現できるわけじゃないが——正確に同じ魔力量で、なおかつ真逆の方向から魔力をぶつけ合うと、全てが打ち消し合うことがあるんだ。」


「……そんなことが?」


「まれにな。意図せず起きることはある。例えば、相手の魔力の発動タイミングと自分の魔力の放出が偶然一致した時とか……だが——」


グレッグはアルノアを見やる。


「あいつは明らかに意識してやっていた。」


「!!?」


観客たちの驚きが膨れ上がる。


「つまりどういうことかっていうと——あいつはラウドの魔力を完全に見切り、その上でピタリと同じ圧力の魔力を練り上げたんだ。しかも、一瞬で、なんのモーションもなく、だ。」


「っ……!」


その言葉に、ラウドは奥歯を噛みしめた。


(見切られてた……? 俺の魔力の総量も、圧力も、すべて……?)


彼は信じられないというようにアルノアを睨む。しかし当の本人は、涼しい顔のまま、大鎌を軽く肩に担いでいた。


観客の中にも、ようやくその意味を理解し始めた者がいた。


「……ってことは、アルノアってやつは——ラウドよりも魔力量も魔力制御も上ってことか?」


「いや、それどころじゃねぇ……ラウドはSランクパーティの一員だぞ? そいつの魔力を完全に打ち消せるって、どれだけの精度が必要なんだよ……」


「……フレスガドルの推薦って、そういうことか……」


ざわめきが静まり、ギルド内に異様な空気が漂う。


そして、グレッグは静かに言い放った。


「ラウド、お前は今、“見せつけられた” んだよ。」


「……!」


「単なる強さじゃない。魔力の扱いそのものの次元が違うってことを、な。」



ラウドは幼少の頃から冒険者として活動していた。学校にはほとんど通わず、Sランクパーティの手伝いをしながら育ち、その実力を証明してきた。


彼はこれまでに数多くの強者を見てきた。しかし、同世代で自分より強い相手には一度も出会ったことがなかった。


だが今、目の前にいる白髪の青年——アルノアは、あまりにも簡単にラウドの攻撃をさばき、魔力すらも完璧に相殺してみせた。


「そんなはずねぇ……!」


ラウドは唇を噛みしめる。偶然だ、何かの間違いだ。そう思いたかった。


「魔力相殺? そんなのたまたまに決まってる!」


しかし、心の奥底では理解していた。アルノアは自分より上の領域にいる。


その事実を認められず、ラウドの感情が爆発した。


「うおおおおお!!」


怒りと焦燥がない交ぜになった魔力が、彼の中で暴走を始める。


「やべえぞ! 魔力が勝手に解放されてる!」

「ラウドのやつ、魔力解放なんてできねぇはずなのに……!」


周囲の冒険者たちが騒ぎ始める。


グレッグは歯を食いしばった。


「違う……あれは”魔力解放”じゃねえ。“暴走”だ!」


制御を失った魔力がラウドの体を蝕み、炎の奔流が無差別に広がろうとする。


「ここは街の中だ! 何とかして止めるぞ!」


冒険者たちが意識を切り替え、行動しようとしたその瞬間——


アルノアの体から、圧倒的な氷の魔力が溢れ出した。


「——凍れ。」


その一言と共に、白銀の冷気が爆発的に広がる。


ラウドの暴走する炎が、一瞬で凍りついた。


「なっ……!?」


赤々と燃え盛っていた魔力が、氷に飲み込まれ、静寂が訪れる。


「ば……バカな……! 俺の炎が……凍った!?」


驚愕するラウドの体を、氷の魔力が包み込む。まるで燃え盛る激情そのものを押し殺すかのように。


観客たちも息を呑む。


「す、すげえ……」

「ラウドの暴走する炎を、一瞬で……」


グレッグはその光景を見つめ、思わず呟いた。


「……圧倒的な魔力量の差……それだけじゃない。あいつの氷は、“ただ冷たい”だけじゃねえ。“全てを凍らせる氷”だ。」


ラウドは膝をつき、荒い息をつく。


「クソッ……!」


そんな彼に、アルノアは静かに言った。


「力に振り回されるな。悔しいなら、強くなれ。」


その言葉が、ラウドの胸に突き刺さる。


初めての敗北感。


それをどう受け止めるか——


ラウドは、ただ拳を握りしめることしかできなかった。

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