アルノアvsラウド
訓練場へと移動すると、なぜかすでに多くの冒険者たちが集まっていた。
「おい、やっぱり訓練場だってよ」
「Sランクパーティのラウドと戦うかもしれないって聞いたぜ」
「マジか? こりゃ見ものだな……!」
ざわめきながら次々とギャラリーが増えていく。どうやら、フレスガドルから来た新人冒険者が実力を試されると聞きつけ、野次馬根性で集まってきたらしい。
訓練場の中央に立つグレッグが、場を仕切るように口を開いた。
「さて、アルノアとシエラ。お前たちの戦闘能力について教えてくれ」
その言葉に、まずシエラが静かに一歩前に出る。淡々とした口調で話し始めた。
「私は精霊魔法を使います。様々な精霊の力を借りることで、多種多様な魔法を行使することができますし、応用の幅も広いです」
淡々とした説明だったが、その言葉の重みは周囲にも伝わった。精霊魔法は使いこなせる者が少なく、単純な攻撃魔法よりも遥かに高い技術を必要とする。
続いて、アルノアが視線を上げながら口を開く。
「俺は大鎌を使った近接戦闘がメインです。それに、属性付与で武器の特性を強化しながら戦う。さらに、氷と雷の魔法を使えば、中遠距離での戦闘も可能です」
その言葉に、訓練場にいた冒険者たちが少し驚いたような表情を見せた。
「大鎌使い……珍しいな」
「しかも氷と雷の複合属性? 両方使えるのか……?」
彼らの反応をよそに、グレッグは興味深げに腕を組みながら頷く。
「なるほどな。では、実際にどれほどの実力か見せてもらうとしようか」
そう言うと、彼はゆっくりとラウドの方を見やった。
「ラウド、お前が相手をしてやれ。ちょうど不満そうだったしな?」
ラウドはニヤリと笑いながら大剣を肩に担いだ。
「言われなくてもそのつもりだぜ。フレスガドルの新人ってのがどれほどのもんか、確かめてやるよ」
訓練場の空気が一気に張り詰める。
アルノアとラウド、二人の間に緊張が走った。
アルノアは静かにラウドを見つめながら問いかけた。
「戦うのは俺でいいのか?」
挑発するでもなく、ただ確認するような口調だった。
ラウドは当然だろと言わんばかりに大剣を肩に担ぎ、鼻で笑った。
「当たり前だろ。そっちの精霊魔法の嬢ちゃん相手に、俺が大剣振り回すわけにもいかねぇしな」
アルノアは肩をすくめると、ゆっくりと大鎌を取り出した。その動作に、周囲の冒険者たちがひそひそと囁き合う。
「ラウドのやつ、キレてるよな。あの白髪の兄ちゃん、手加減なしでぶつかられるんじゃねぇか?」
「だとしたら、やばいな……ラウドは個人でもBランクだし、Sランクパーティにいることで高難易度の任務にも参加してる。Aランク目前って話もあるくらいだ」
「まぁでも、フレスガドルの推薦で来たってことは、それなりに強いんだろ? いい勝負くらいにはなるんじゃないか?」
そんな中、一人の冒険者がぼそりと呟く。
「……それにしても、あの白髪の兄ちゃん、どこかで見たことある気がするんだよな」
訓練場の空気が次第に高まっていく中、グレッグが両者を見回し、戦闘開始の合図を送る。
グレッグは腕を組みながら二人を見つめ、軽くため息をついた。
「……大怪我はさせるんじゃないぞ?」
そう言いながらも、彼の目は戦いの行方に強い関心を持っていた。
「では——試合開始!」
その瞬間、アルノアは迷うことなく大鎌を構え、刃全体に冷気をまとわせた。淡い蒼色の輝きが鎌の周囲に広がり、空気が冷たくなる。
対するラウドも負けじと大剣に炎を纏わせる。赤熱した剣が唸るように輝き、熱気が立ち上った。
互いの視線が交わる。
「行くぜ!」
ラウドが先手を打つ。
「火球!」
彼が叫ぶと同時に、彼の前方に複数の火球が生まれた。それぞれ直径50センチほどの火球が瞬時に形成され、アルノア目がけて放たれる。
火球は一直線に飛び、アルノアを包囲するように軌道を描く。訓練場の観客たちが息をのんだ。
「おお、いきなり魔法連発かよ……!」
「ラウドの火球、威力も速度もやばいぞ!」
だが、アルノアの表情は微動だにしない。むしろ、目を細めた。
試合の行方を見守る者たちの期待が、一層高まっていった。
アルノアはその場から一歩も動かず、静かに魔力を放出する。
「氷結」
その声とともに、アルノアの周囲に冷気が広がった。吹きつける冷気は地面を白く染め、飛来する火球すら凍りつかせる。火球は途中で軌道を失い、霜に覆われたまま砕け散った。
「——なに?」
ラウドは目を細める。炎属性の魔法が、ここまで容易く無効化されるとは思っていなかった。
「へぇ……。氷属性は確かにそれなりに強いみたいだな。」
しかし、ラウドは即座に態勢を立て直し、すぐさま大剣を振り上げる。
「じゃあ、動きはどうかな?」
火球を放ちつつ、ラウド自身が猛然と駆け出した。大剣を両手で握りしめ、一撃で相手を押し潰すような勢いで振り下ろす。
——それでも、アルノアは動かない。
観客の誰もが、次の瞬間アルノアが吹き飛ばされると思った。
ガキンッ!
しかし、衝撃音が響いた瞬間、ラウドの大剣はアルノアの大鎌によって完璧に受け止められていた。
「なっ……!」
ラウドが驚く間もなく、アルノアは最小限の動きで鎌を振り、ラウドの剣を滑らせるように弾く。力押しの攻撃を完全に受け流されたラウドは、一瞬体勢を崩した。
「すごい……!」
ギャラリーがどよめく。
「ラウドの猛攻に耐えてる……!? いや、ただ耐えてるんじゃない……!」
「魔法と剣さばき、どちらにも対応している……!」
「凄まじいコントロールだ……!」
誰もが衝撃を受ける中、アルノアは静かにラウドを見据えた。
「……次はどう来る?」
その余裕に、ラウドは無意識に歯を食いしばるのだった。




