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共闘依頼

ギルドマスターの部屋に足を踏み入れると、そこには静謐な空気が満ちていた。壁際には膨大な数の研究書類や書物が整然と並べられ、机の上にはモンスターの生態や異常発生に関する詳細な研究記録が広げられていた。ギルドマスターが単なる管理者ではなく、知識と経験を兼ね備えた人物であることが一目で分かる空間だった。


アルノアとシエラが席につくと、秘書と思われるギルド員が静かにお茶を運んできた。湯気の立つカップを手に取りながら、アイズは穏やかな口調で話を始める。


「本題に入りましょう。現在、フレスガドル近郊にある中規模のダンジョンで、通常とは異なる強化種のモンスターが出現しています」


「強化種……?」


アルノアが聞き返すと、アイズは手元の書類を軽く指でなぞりながら頷いた。


「ええ。通常のモンスターよりも著しく戦闘能力が向上しており、討伐に向かった冒険者の報告では、まるで別種のような動きを見せるものもいるとか。すでにフレスガドルの中位から上位ランクのパーティに討伐を依頼していますが、特に港町の近くにあるダンジョンの状況が悪化しており、厳しい状態が続いています」


アイズは手元の書類を2人の前に差し出した。そこには、討伐に向かったパーティが記録したモンスターの特徴や、異常な攻撃パターンの詳細が記されていた。


「……このダンジョンのモンスターは、通常の討伐対象と比べて明らかに変異しています。その原因を突き止めるためにも、慎重に調査と討伐を進めたい。アルノアさん、シエラさん。お二人はすでにフレスガドルでも注目される実力者です。もし興味があれば、この依頼を受けてもらえませんか?」


アイズは柔らかく問いかけながらも、その視線には真剣な色が宿っていた。ギルドマスター自らの推薦ということは、それだけこのダンジョンの異変が深刻であり、実力者を求めているということだろう。


アルノアはシエラと軽く視線を交わした。お互いに無言ながらも、「どうする?」と問いかける意図は伝わってくる。


「……興味はあります」


アルノアは短く答えた後、真剣な表情で続ける。


「ただし、強化種が出現している理由や、これまでの討伐結果をもう少し詳しく知りたい。もし何か手がかりがあるなら、事前に押さえておきたいので」


その言葉に、アイズは満足げに微笑んだ。


「ええ、もちろんです。では、詳細をお話ししましょう」


依頼の内容は、フレスガドルの港町リドルス近郊にある中規模ダンジョンのモンスター討伐だった。すでに上級パーティが先行して討伐を進めていたが、黒く変異したモンスターが出現し、防御力が異常に高く、完全に殲滅することが難航しているという。


特に問題となっているのは、ダンジョンの最深部に棲息するボスモンスターだった。そこは水域に囲まれた地形となっており、戦闘が非常に困難な上、ボス自体も異常なまでに硬い殻を持ち、まともなダメージを与えることができないとの報告が上がっていた。そのため、すでに戦闘を行っている上級パーティから追加の戦力としてサポート要請が出され、ギルドが新たに助力を送ることを決定した。


そして、その任務を任されたのがアルノアとシエラだった。


「変異種……また妙なものが出てきたな」


依頼内容を確認したアルノアは、手元の書類を見ながら呟く。


「防御力が高い敵と水域戦……厄介ね」


シエラも淡々とした口調で言葉を紡ぐ。


アイズは2人の様子を見ながら頷いた。


「ええ。特に最深部のボスは、まともに戦うには相当な手間がかかるようです。ただ、アルノアさんとシエラさんなら、この状況を打破できる可能性が高いと判断しました」


「……まあ、やってみますよ」


 アルノアは依頼書と研究書を交互に見つめながら、黒く変異したモンスターという点に疑念を抱いていた。研究書には、通常の個体とは異なり、黒い紋様が身体に広がったモンスターの図が描かれている。その姿に見覚えがあった。


(……こいつは、破壊神が関係しているのか?)


アルノアは心の中でエーミラティスへ問いかける。今まで破壊神の影響を受けたモンスターと戦ってきた経験がある以上、今回の異変も無関係とは思えなかった。


エーミラティスの声が脳内に響く。


「確証はないが、霞滅とやらが動き出し、同時に黒い魔物が現れたとなると、タイミング的には関係がないとは言えんな」


破壊神の力に侵食された魔物は、ただ強化されるだけではない。理性を失い、本能のまま暴れることもあれば、まるで何者かに操られているかのように的確な動きを見せることもある。もし今回の変異種が同じ系統のものならば、通常の戦術は通用しない可能性が高かった。


「魔物に何をしているかは分からぬが、どちらにせよ行ってみるのが良さそうじゃな」


エーミラティスの言葉に、アルノアは小さく頷く。


「……そうだな。状況を見て、何かしらの手がかりが得られるかもしれない」


このダンジョンでの戦いは、ただのモンスター討伐では済まないかもしれない。霞滅が関与しているならば、さらなる異変や罠が待ち受けている可能性もある。


「どうしたの?」


アルノアの沈黙に気づいたシエラが、無表情ながらも問いかける。


「いや……少し気になることがあるだけだ。とにかく、まずはリドルスへ向かおう」


そう言ってアルノアは席を立ち、シエラと共にギルドを後にした。


アルノアは軽く息をつきながらも、どこか戦いを前にして高揚するような雰囲気を纏っていた。一方のシエラも静かに頷き、準備に入るべく席を立つ。


こうして2人は、フレスガドルの港町リドルスへ向かい、ダンジョンの変異種討伐へと挑むことになった。


 

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