パーティ登録
「新たなパーティ登録」
アルノアとシエラはギルドの扉を押し開け、中へと足を踏み入れた。
ギルド内はいつものように活気に満ちている。
掲示板には討伐依頼や探索任務の張り紙が並び、カウンターでは受付嬢が忙しなく対応していた。
周囲では冒険者たちが依頼について話し合ったり、酒を飲んで盛り上がっている。
しかし、そんな中でひときわ大きな声が響いた。
「おう! アルノア!」
そう言って手を振りながら近づいてきたのは、Aランクパーティ 「銀翼の鷹」 のリーダー、マルク だった。
30代半ばのガタイのいい男で、短く刈り込まれた金髪と鋭い青い目が特徴だ。
彼のパーティ「銀翼の鷹」は、フレスガドルのギルド内でもトップクラスの実力を誇るチームの一つだった。
「へえ、お前が誰かと一緒に歩いてるなんて珍しいな!」
そう言って、マルクはアルノアの隣にいるシエラをじろりと見た。
「隣の美人さんは誰だ? もしかして彼女か〜?」
マルクがにやりと笑いながら言うと、周りにいた冒険者たちも興味深そうにこちらを見てくる。
「……違いますよ」
アルノアは面倒くさそうな顔をしながら即答した。
「ほう、そうかそうか。だがその反応、ますます怪しいな!」
「違うと言ってるでしょうが……」
アルノアがため息をつくと、シエラが無表情のまま口を開いた。
「私はシエラ。精霊術士よ。アルノアとパーティを組むことになったわ」
「おお、そうなのか! そりゃ驚いたな」
マルクは目を丸くし、感心したように腕を組んだ。
「アルノアが単独で動いてるのは知ってたが、ようやく相棒を見つけたってわけだな。お前のことを気にしてた奴も多いんだぜ?」
「……まあな」
アルノアは軽く肩をすくめた。
「で、パーティの登録に来たってわけか」
「ええ」
シエラが頷くと、マルクはニヤリと笑った。
「なら、お前たちの腕を見せてもらう機会もすぐにありそうだな。パーティ組んでもBランクのままなら軽い仕事もあるだろうが、すぐにAランク相当の依頼も回ってくるぜ」
「そのつもりだよ」
アルノアは真剣な表情で言う。
「……ほう。気合入ってんな」
マルクはしばらくアルノアの目を見ていたが、やがて笑みを浮かべた。
「まあ、何にせよ期待してるぜ。アルノア、お前ならすぐにでもAランクになれる器だしな」
「ありがとよ。けど、まずは今のパーティをちゃんと形にするところからだ」
「いい心がけだ」
マルクは軽く手を振りながら言った。
「じゃあ、登録を済ませてこいよ。また近いうちになんか面白い仕事でも紹介してやるさ」
「分かった。じゃあな、マルク」
そう言って、アルノアとシエラはギルドのカウンターへ向かう。
「パーティ登録」
アルノアとシエラはギルドのカウンターに向かった。
受付嬢は明るい笑顔で迎え、すぐに手続きを始める。
「アルノアさんがリーダーで、シエラさんをメンバーに登録しますね。シエラさんもCランクですし、学園代表の実績もあるので、アルノアさんのBランクでパーティも登録致します」
手際よく書類を作成しながら、受付嬢が顔を上げて尋ねた。
「パーティ名はありますか?」
「……えっ?」
アルノアはビクッとする。まったく考えていなかった。
横にいるシエラを見るが、彼女はいつもの無表情のまま、淡々と待っているだけだ。
「……すぐ決めなきゃダメですか?」
「いえ、長くパーティを続けていく方は、あった方がイメージがわかりやすいだけです。今は『アルノアパーティ』で登録しておきますので、決まったら教えてくださいね」
「助かります……」
アルノアは小さく息をつく。
(パーティ名か……そんなこと考えてなかったな)
シエラを見ると、彼女はじっとアルノアを見つめていた。
「アルノア、どうするの?」
「うーん……ちょっと考える。せっかくだし、適当には決めたくないしな」
「そう」
シエラは軽く頷いたが、それ以上は特に何も言わなかった。
「それでは登録完了です!」
受付嬢が手続きを終え、笑顔で書類を差し出す。
「正式にギルドに認められたパーティとなりますので、依頼を受ける際はパーティ単位での対応も可能になりますよ」
「分かりました、ありがとうございます」
(パーティ名……何かいいの、考えないとな)
アルノアはふと、シエラの横顔を見ながらそう思った。
アルノアは在学中にパーティの誘いを受けなかったが、卒業後はその実力を見込まれ、多くのギルドから声をかけられていた。
一方で、フレスガドルの他のメンバーは在学中のダンジョン攻略授業などを通じて実力を認められ、多くが卒業前にパーティに所属していた。
シエラは卒業後これまで、誰ともパーティを組んでいなかった。
感情が表に出にくいせいで、初対面の相手には冷たい印象を与えがちだったし、実際に誤解されることも多かった。
だが、それ以上に彼女がパーティを避けてきた理由は、自身の力への不安だった。
彼女が契約している精霊たちは強大で、その力は時に彼女の制御を超えてしまうことがあった。
かつてフレスガドル代表決定戦の決勝で、精霊が暴走し、制御を失いかけたことがある。
そのとき助けてくれたのがアルノアだった。
今度は自分が彼を助けたい。
そう強く願ったからこそ、彼女はパーティを組む決意をしたのだった。
こうしてパーティが結成された。




