静かな朝、そして再び表彰へ
事件から一夜明けたランドレウス。
戦いを終えた者たちには、回復のための自由な時間が与えられた。
アルノアは疲れ果て、半日以上眠り続けていた。
激しい戦いの余韻はまだ身体に残っているものの、ぐっすりと休んだおかげで、多少は回復したようだ。
ゆっくりとベッドから起き上がる。
朝日が差し込む部屋は静かで、昨日までの喧騒がまるで嘘のようだった。
「……ふぅ」
深く息を吐き、体を軽く伸ばしてから部屋を出る。
階段を下り、宿のロビーへ向かうと、そこにはフレスガドルのメンバーたちとランドレウスメンバーがいた。
ユリウス、リリアン、カイン、ゼイン——
そしてエマもロビーのソファに座っている。
アルノアの姿を見つけると、エマがぱっと顔を輝かせた。
「アルノア、起きたんだね!」
「おう、やっとな……」
アルノアが苦笑すると、カインが腕を組みながら微笑む。
「そりゃそうだろうな。あれだけ戦ったんだ、普通なら三日は寝込んでもおかしくない」
ゼインが肩をすくめながらも、どこか安心したような表情を浮かべた。
「改めて、お疲れ様。昨日は本当にすごかったよ」
リリアンが優しく微笑みながら、温かい紅茶を差し出す。
「ありがとう。助かる……」
アルノアはありがたく受け取り、軽く一口すする。
温かい液体が喉を通るたびに、少しずつ体が目覚めていくようだった。
ユリウスが腕を組みながら、冗談めかした口調で言う。
「まったく、どこまでも規格外だよ、お前は。
それにしたって、昨日の戦いは……いや、また後で話すとしよう。今日は表彰式があるからな」
「……そうだったな」
アルノアは少しだけ息を吐く。
「王が改めて時間を作ってくれたんだっけ」
「ああ。今度こそ正式に、お前の功績が認められる」
カインが言うと、エマが嬉しそうに笑った。
「アルくん、すっごくかっこよかったもんね!」
「……そ、そうか?」
エマの素直な言葉に、アルノアは少し気恥ずかしくなる。
ユリウスはそんなアルノアの様子を見て、軽く笑いながら言った。
「さ、そろそろ準備するか。今日の主役が遅刻するわけにはいかないだろ?」
「……そうだな」
アルノアは最後にもう一口紅茶を飲み干し、立ち上がった。
戦いが終わり、今度こそ正式な表彰の時が来る。
――――――――――――――――
ランドレウスの王城。
豪奢な装飾が施された広間には、大会の参加者たちや貴族、王族、そして各国の要人たちが集まっていた。
昨日、一度は中断された表彰式——
しかし、それは単なる優勝者の称賛だけではなく、今大会における重大な事件を踏まえた特別なものとなっていた。
壇上にはランドレウス王と数名の重臣たちが並ぶ。
そして王の隣に立つのは、Sランク冒険者のアイク。
彼は堂々とした態度で、広間に集まった者たちへと告げる。
「まずは、今回の大会において優勝した者たちの表彰を行う」
会場が静まり返る中、王がゆっくりと口を開く。
「ランドレウスで開かれたこの戦技大会において、優勝したのは——」
王の視線がアルノアとアリシアに向けられる。
「フレスガドル学園、アルノア・グレイ、アリシア=グラントのペアである!」
その瞬間、広間に大きな拍手が響いた。
フレスガドルの仲間たちは誇らしげにアルノアとアリシアを見つめる。
壇上に上がったアルノアとアリシアに、王は直々に優勝の証を授ける。
それは美しく刻まれたメダルと、ランドレウスから贈られる報奨金、そして名誉の称号だった。
アリシアは堂々とした態度でそれを受け取り、アルノアもまた静かに受け取る。
「お前たちの実力、そしてこの大会にかけた想い、確かに見届けた」
王の言葉に、アルノアはしっかりと頷いた。
しかし、今回の表彰式にはもう一つの重要な発表があった。
王は重々しい声で続ける。
「そして、もう一つ伝えねばならないことがある。今大会において——『霞滅』という組織が暗躍していた」
会場がざわめく。
「彼らの目的は不明。しかし、大会以前にもに発生していた等の内部での不可解な事件、そして昨日ランドレウスで起こった混乱の背後に、彼らの影があったことが判明している」
王の言葉を受けて、Sランク冒険者のアイクが前に出る。
「我々はすでに『霞滅』について調査を進めている。今回、奴らが何を企んでいたのかは不明だが、塔の中で何かを準備している。そして何らかの力を得ようとしている。」
「それに、元ランドレウスのSランク冒険者バルボリスが霞滅の組織に属していました。彼の態度から同レベルのメンバーがいる可能性が高く。各国間で情報を共有する必要がある。」
アイクはアルノアの方を見て続けた。
「また、彼らは特殊な力を求めているようだ」
「特に、君だ、アルノア
昨日の戦いでお前が見せた力……奴らは間違いなく、それを狙ってくるだろう」
アルノアは無言でその言葉を受け止めた。
王は場の空気を少し和らげるように、改めて語りかける。
「しかし、我々はこの事件を乗り越えた。負傷者は多く出たものの、死者は一人も出ていない」
その言葉に、会場のあちこちで安堵のため息が漏れる。
「これは、ここにいる若き戦士たちの力によるものだ」
王は広間を見渡しながら、全員に語りかける。
「各国の代表たちよ。お前たちは、己の身を顧みずに戦い、ランドレウスを守ってくれた。
それに対し、我が国として最大限の感謝を示したい」
王の合図とともに、冒険者たち、各国の選手たちへ特別な報奨が贈られる。
彼らの勇気と戦いの証として、国からの褒賞金や、名誉勲章が授けられた。
特に、竜との戦いで決定的な役割を果たした者たち——アルノア、アリシア、ロイ、カイゼル、グレイスらには、それぞれ特別な称号が与えられた。
「お前たちは、すでに素晴らしい者たちだ」
王の言葉とともに、再び大きな拍手が巻き起こる。
こうして、正式な表彰式は無事に幕を閉じた。
だが、アルノアの胸には、新たな疑問が残る。
——『霞滅』とは何者なのか?
——バルボリスが言っていた「お前は我々と同じだ」とはどういう意味なのか?
新たな脅威の影を感じつつも、今は仲間たちとこの勝利を喜ぶ時間だった。




