アルノアの輝き
バルボリスの真なる一手
バルボリスが掲げた黒く光る玉。
その不気味な輝きは、まるで生き物のように脈動し、戦場に広がるオーラを吸収し続けていた。
「……これは?」
アリシアが警戒の眼差しを向ける。
それに気づいたバルボリスは、満足そうに微笑んだ。
「こいつには君たちのエネルギーを吸収させている。見ているだろう?」
彼の言葉と同時に、魔物たちが変化を見せた。
全身に黒いオーラが纏われ、筋肉が膨れ上がり、明らかに戦闘能力が向上しているのがわかる。
戦士たちの限界突破によって放たれたエネルギー——
それがすべて、この黒い玉を通じて魔物たちへと流れ込んでいるのだ。
「目的は達したが、せっかくだ。少しだけ遊んでやろう」
バルボリスの足がゆっくりと地に降り立つ。
それだけで、大気が震えるほどの威圧感が広がる。
「……ッ!」
各国のリーダーたちが一斉に身構える。
この場にいる誰もが理解していた。
——こいつは、次元が違う。
戦場を見渡せば、強化された魔物たちが猛威を振るい、仲間たちはさらに追い詰められていく。
そして、戦士たちのオーラが吸収され続けている今、戦況は確実に悪化していた。
「さあ、どこまで持つかな?」
バルボリスは愉快そうに言い放ち、指を軽く弾く。
その瞬間——
黒い玉が不気味な光を放ち、竜まで強化される。
「……マズい!」
アルノアが大鎌を握りしめ、前へ出ようとする。
しかし——
この戦況を打破する術はあるのか?
その時
アルノアの魔力が真っ白な輝きを帯び、戦場を照らし始めた。
それは温かく、しかし強大な力の波動だった。
バルボリスの表情が驚愕に染まる。
「お前……まさか、私が集めたエネルギーを受け取っているのか?」
黒い玉から流れ出るはずのエネルギー——
それが、逆流するようにアルノアの身体へと吸収されていく。
「有り得ん!貴様一体、なんの力を持っている……?」
アルノア自身も戸惑いながら、湧き上がる力を感じていた。
まるで全員の願いが、自分に託されたかのような感覚。
彼の脳裏に、過去の誰かの記憶が一瞬よぎる。
そして、エーミラティスの声が響く——
「お前の力は——“適応”だ。」
アルノアの身体を包む白い光が、さらに強さを増していく。
まるで、この場のすべての力を吸収し、自らのものへと昇華しているかのようだった。
「あやつの不吉なオーラのエネルギー供給を受けたら、普通の者は狂ってしまう。
だが、お主はそのエネルギーにすら適応できる。」
「儂は昔同じ力を見たことがある。」
バルボリスの黒い玉から流れ出る闇のエネルギー——
本来ならば、生き物を侵し、理性を奪うはずのそれが、アルノアの身体を通して浄化され、彼の力へと変わっていく。
バルボリスが信じられないという表情で睨む。
「そんなことが……可能なのか?」
エーミラティスは静かに告げる。
「そして今、お主が強く皆を助けたいと願ったことで——
エネルギーがお主に集まりだしたのじゃ。」
アルノアの瞳が真っ白な光を帯びる。
彼の中で、無限のエネルギーが渦巻いていた。
——これは、ただの魔力ではない。
“適応”とは、すべての力を受け入れ、制御し、自らの糧とする力。
それは、どんな敵と対峙しても進化し続ける力。
アルノアは今、この場にいる誰よりも——
バルボリスの力すらも超える可能性を秘めた存在となったのだった。
そう、アルノアの能力は適応。
戦場にいる全員の思いにすら適応し強くなる。
アルノアはその真の力を、今ここで覚醒させたのだった。
――――――――――
「また会うだろう、“同類”よ」
バルボリスはアルノアを見つめながら、不敵に笑った。
「我々の今回の目的自体は遂げている。」
そう言いながら、バルボリスの周囲に黒い渦が発生する。
異様なオーラが広がり、まるで空間そのものが引き裂かれるかのように波打っていた。
「全てのエネルギーを吸収されるわけにはいかないんだ。
それに、そこの青年——君とはまた会うだろう。」
バルボリスの視線が、アルノアの白く輝く魔力を捉えている。
「君は我々と——“同じ”だ。」
意味深な言葉を残し、バルボリスはその黒い渦へと足を踏み入れた。
そして、消える直前——
「土産を残していこう。」
そう言うと、戦場に残っていた魔物たちが次々と黒い光となり、竜へと吸収されていく。
ゴゴゴゴゴ……!
巨大な竜の身体が膨れ上がり、さらに漆黒のオーラを帯びる。
瞳が妖しく輝き、先ほどまでとは比べ物にならないほどの威圧感を放ち始めた。
バルボリスの姿が完全に消えると同時に——
——竜の咆哮が、戦場に響き渡った。
——グォォォォォォォォォォォッ!!
竜の咆哮が空間を震わせ、圧倒的な威圧感を戦場に叩きつける。
竜の黒いオーラは膨れ上がり、まるで世界そのものを覆わんばかりの暗黒を放っていた。
その場にいる者たちの中には膝をつく者もいた。
しかし、ただ一人、アルノアだけは一歩も引かない。
その瞳は揺るぎなく、戦う意志が魔力となって全身を包み込む。
——真っ白な光が、彼の周囲に広がり始めた。
「アル、無理するな!」
「大丈夫か!?」
仲間たちの声が飛び交うが、アルノアは静かに息を整えた。
「俺は……負けない。」
その瞬間、横から一陣の風が舞った。
「はぁ……本当は街中じゃ、こんなことやっちゃダメなんだけど——」
銀色の髪を靡かせインナーカラーの黄緑を輝かせながら、アリシアがアルノアの隣に立つ。
彼女の瞳には迷いはない。
「——そうも言ってられないわよね。」
そう言うと、彼女の身体から眩い金色の魔力が噴き出す。
「リミット解除——!」
ドンッ!
まるで爆発するかのようにアリシアの魔力が一気に膨れ上がる。
その圧倒的なエネルギーに、周囲の戦士たちが息を呑んだ。
2人の王者が、今ここに揃った。
「行くわよ、アル!」
「ああ、絶対に倒す——!」
白と金の光が並び立つ。
その先に待ち受けるのは、漆黒の竜。
——そして、決戦が始まる。




