バルボリスの目的
アルノアは最初からエーミラティスとの経験共有を最大限に活かすと決めていた。
刹那、全身に圧倒的な戦闘経験が流れ込み、思考と動きが研ぎ澄まされていく。
手にした大鎌に魔力を纏わせる。
それは雷と氷の力を帯び、純白の光を放つ。
「白雷氷刃!!」
雷鳴が轟くような音とともに、大鎌が一閃。
大気を切り裂き、竜の巨大な鱗へと迫る。
同時に、アリシアも全力で魔力を解放した。
オーラが揺らぎ、周囲の魔力が彼女に吸い込まれていく。
「煌岩創造。」
聖なる光が彼女の剣を包み込み、純粋な力の奔流が生まれる。
鉱石魔法を象徴する煌びやかな石が現れる。
竜は鋭い爪を振り下ろし、しなるようなしっぽで広範囲を薙ぎ払う。
その動きには隙がなく、アルノアとアリシアは容易に接近することができない。
さらに、距離を取れば黒いオーラを纏った灼熱のブレスが放たれる。
一撃でも受ければ即戦闘不能――いや、最悪の場合は命を落としかねない。
アルノアは回避しながら冷静に状況を分析する。
「爪としっぽで近寄らせず、離れればブレスで牽制……か。」
アリシアもまた、慎重に動きを見極めながら言葉を発する。
「真正面からの突破は難しい……けれど、私たちなら突破口を作れる!」
二人は一瞬、視線を交わす。
互いの意図を察したその瞬間、次の一手へと動き出した――!
「行くぞ、アリシア!」
「ええ、全力で!」
二人は同時に駆け出した。
竜の鋭い眼光が二人を捉え、瞬時に爪を振り下ろす。
だが、アルノアはエーミラティスとの経験共有により、その動きを見切っていた。
「――ッ!」
アルノアは一瞬で身を低くし、地を滑るように爪の軌道を回避。
その背後では、アリシアが光の魔力を纏った剣を掲げ、爪の側面へと叩きつける。
「オルディナリウム!」
聖なる力が炸裂し、竜の爪が僅かに揺らぐ。
しかし、竜は即座にバランスを取り、今度はしなやかな尾で薙ぎ払う。
二人の間を正確に狙った一撃。
「跳んで、アルノア!」
アリシアの声と同時に、アルノアは足に雷の魔力を纏い、一気に加速。
アリシアもまた、光の翼を展開し、素早く上空へ跳躍する。
轟音と共に尾が大地を削り取る。
もしも直撃していたら、立っていることすらできなかっただろう。
「よし、近づいた!」
アルノアは間髪入れずに大鎌を振り上げ、魔力を解放する。
「嵐雷閃」
蒼白の雷が竜の胴体へと迫る。
同時にアリシアも、鉱物魔法を限界まで高め、一直線に突進。
「光穿の岩槍!」
高速な岩の槍を出し、後ろに続く。
白と青、二つの輝きが竜へと直撃する。
――だが。
「グォォォォォォッ!!!」
咆哮と共に、竜は全身に黒いオーラを纏い、二人の攻撃を弾き返した。
衝撃波が爆発し、アルノアとアリシアは吹き飛ばされる。
「くっ……! まだだ……!」
地面に着地しながらも、アルノアはすぐに立ち上がる。
アリシアも同様に、剣を構え直していた。
まだ倒せない。
だが、確実に竜の動きに乱れが生じている。
「突破できる……!」
二人の闘志は折れない。
そして、次の一手へと進む――。
魔物たちは尽きることなく湧き出し、黒いオーラを纏った狼や騎士が戦場を埋め尽くしていく。
最初こそ優勢だった各国の戦士たちも、徐々に疲弊し始めていた。
「クソッ、いくら倒してもキリがねぇ……!」
ロイが剣を振るいながら叫ぶ。
その傍らでは、カインとゼインが互いに背中を預け合いながら防戦していた。
「こいつら、さっきより動きが速くなってる……!」
カインが驚愕の声を上げる。
ゼインは冷静に周囲を見渡し、
「違う、俺たちが疲れてきてるんだ」
と呟いた。
同じ頃、リヒターは片膝をつきながらも、敵の隙を突いて鋭い風の槍を繰り出す。
ユリウスは指揮を取り続けていたが、彼の額にも汗が滲み始めていた。
しかし、そんな中で、確実に成長する者たちが現れる。
「まだやれる!」
「俺は……強くなれる!」
その様子を見ていたシエラが、僅かに微笑んだ。
「みんなが命懸けの中強くなる」
彼女自身も、以前は後方火力に徹していたが、今は前に出て戦っている。
ランドレウスのエマもまた、今までよりも魔法の詠唱速度を上げ、広範囲の攻撃魔法を展開していた。
成長する者たち。
戦場の極限状態が、彼らを強くしていく。
アルノアはそんな仲間たちの姿を見ながら、胸の奥に熱いものを感じた。
「……負けるわけがない」
全員が限界を超えようとしている。
ならば、自分も負けていられない。
アルノアは再び大鎌を構え、目の前の竜を睨みつけた。
戦場に満ちる不吉なオーラが、一層濃く、強く膨れ上がる。
バルボリスが不気味に微笑みながら、ゆっくりと手を広げた。
「良い力が集まっている。そろそろ目標は達したようだ」
彼の言葉に、戦っていた者たちの動きが一瞬止まる。
しかし、その隙を見逃さないように魔物たちは次々と襲いかかってくる。
「何を……言ってる?」
アルノアが大鎌を握りしめ、バルボリスを睨みつけた。
バルボリスはその視線を楽しむように受け止め、ゆっくりと語り出す。
「お前たちは最高だったよ。限界を超えようともがき、戦場の極限で力を開花させた……」
不吉なオーラがますます広がっていく。
「だが、それこそが私の狙いだったのだ」
戦士たちが成長し、限界を突破するとき——。
オーラは爆発的に増加し、身体の外へと溢れ出る。
極限の集中、無敵感の錯覚、研ぎ澄まされた感覚……。
それらはすべて、膨大なエネルギーの解放を伴っていた。
バルボリスは手を掲げると、戦場に散らばる無数の光を吸い上げるようにしながら続けた。
「そう、それが私の目的……! “極限突破した者のオーラ” こそが、私の求めるエネルギーなのだ!」
周囲の者たちは愕然とする。
これまでの戦い、成長、限界を超えようとした努力すらも、バルボリスに利用されていたというのか——。
「貴様……っ!」
ロイが歯を食いしばりながら睨みつけるが、バルボリスは余裕の笑みを崩さない。
「素晴らしい……こんなにも純粋なエネルギーが得られるとは。私の計画は、これで完璧だ」
そして、彼の身体を包むオーラがさらに膨れ上がり、異様なまでに禍々しい光を放ち始める。




