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アルノアの回復と団結する戦場

グレイスの能力はサポートに特化していた。

風の加護を操り、回復と強化魔法を得意とする彼女は、チーム全体の能力を底上げすることができる。

彼女は深呼吸し、杖を掲げると、優雅で力強い声を広範囲に響かせた。

「《嵐の祝福（ストーム・ブレッシング）》！」

風が渦巻き、青白い光の粒子が戦場を包み込む。

この魔法は、受けた者の身体を軽くし、速度と反応速度を向上させる効果を持っていた。

さらに、彼女の魔力が回復力を増幅し、戦士たちの傷を癒していく。

「皆さん、お願いします！」

戦場にいた仲間たちは、全身に力がみなぎるのを感じた。

「おお……身体が軽くなった……！」

「傷が癒えていく……！」

驚きの声が上がる中、グレイスはアルノアの方を振り向く。

「アルノアさんには、さらに回復を施します！」

彼女は手を差し出し、温かな風の流れを作り出した。

それは、アルノアの消耗した身体を癒し、限界を超えた戦闘に耐えられるだけの力を戻していく。

「……ありがとう、グレイスさん。」

アルノアは静かに感謝を述べると、再び剣を構え、バルボリスの放った黒き竜へと視線を向けた。

戦局はまだ厳しい――だが、わずかな光は見えてきた。

　黒き竜の咆哮が響き渡り、戦場の空気が一変した。

圧倒的な威圧感とともに、巨体がゆっくりと動き出す。

「来るぞ！」

ロイが叫ぶと同時に、竜の尾が地面を薙ぎ払った。

衝撃波が発生し、周囲の石畳が砕け散る。

「クソッ！なんて力だ……！」

カイゼルが即座に横へ跳び、攻撃を回避する。

だが、その直後――

竜は深く息を吸い込み、黒炎のブレスを放った。

「避けろ！！」

ロイ、カイゼル、ユリウスといった各国のトップクラスの戦士たちが、間一髪で回避する。

だが、炎が地面を焼き尽くし、逃げ遅れた数人が巻き込まれる。

「ぐぁぁっ！！」

「熱っ……！」

悲鳴が響く中、リリアンやサーシャが即座に回復魔法を展開する。

「なんて威力だ……まともに食らったら即死するぞ……！」

カイゼルが歯を食いしばりながら呟く。

だが、それでも後退するわけにはいかない。

ロイたちは、竜の足元を狙い、連携して攻撃を繰り出していく。

ロイが高速移動し、竜の前脚を狙う。

カイゼルが側面から一撃を叩き込む。

ユリウスが雷の魔法で追撃する。

「効いているのか……？」

それでも竜の動きは鈍るどころか、さらに苛烈な攻撃を繰り出してくる。

まさに、絶望的な怪物。

だが――

「あと少しだ……アルノア、準備はどうだ？」

ロイが一瞬、後方のアルノアに視線を向ける。

アルノアは、すでに剣を握りしめ、静かに立ち上がろうとしていた。

　アルノアがゆっくりと剣を構える。

その横にはアリシア。

「――行くぞ、アリシア。」

静かながらも力強い声に、アリシアが頷く。

今大会最強のタッグ。

その2人がついに動き出そうとしていた。

竜の咆哮が響く。

だが、戦場に広がっていた絶望は、今はもうない。

誰もが負傷しながらも、アルノアとアリシアの戦いに全てを託すように道を開ける。

誰も確証は持っていない。

この怪物を本当に倒せるのか、それは分からない。

それでも、戦場に立つ者たちはその2人を信じていた。

傷つき、疲れ果て、それでも目に宿る光は消えない。

「アルノア、アリシア……頼むぞ！」

ロイが叫ぶ。

他の仲間たちも、それぞれの思いを胸に剣を握る。

戦場には、希望を見出した者たちの折れない瞳があった。

――勝負の時は、来た。

　アルノアが駆け出す。

だが、その行く手を阻むかのように黒い騎士のような魔物が立ち塞がる。

「チッ……！」

剣を構えようとしたその瞬間、獣のような影が横から飛び込み、騎士の胴を強烈に引き裂いた。

黒い騎士が怯む。アルノアが反射的に目を向けると、そこにいたのは――

カイゼル！

決勝で死闘を繰り広げたボルタジアの最強戦士。

今は獣の形態となり、獰猛に魔物を引き裂いている。

「こういう雑魚は俺らが相手しといてやる！」

「お前は竜だけを相手しておけ！！」

咆哮するカイゼルに続くように、ボルタジアの生徒たちが次々と前へと躍り出る。

カイゼルが振り返り、声を張り上げた。

「ボルタジアの野郎ども！こいつらに雑魚を近寄らせたら承知しねぇ！」

「全力で援護しろ！！！」

「おおおおお！！！」

雄叫びとともに、ボルタジアの生徒たちが戦場へと飛び込んでいく。

黒い騎士たちを押し返し、次々と道を切り開いていく。

アルノアはその光景を一瞬だけ見つめ、力強く頷いた。

「助かる！」

再び前を向く。

目指すはただ一つ――黒き竜。

アルノアとアリシア、最強のタッグがついに竜へと向かって駆け出した。

　ボルタジアの猛攻を目の当たりにし、他の国の生徒たちもすぐに呼応した。

「アグアメリアの者は私に続け！」

グレイスが高らかに声を上げ、風の魔法で味方の動きを加速させながら、的確な指示を飛ばしていく。

その号令とともに、アグアメリアの生徒たちが前線へと駆け出す。

「エアリアスも続け！魔術班は広域支援、前衛はボルタジアの隙を埋めろ！」

エアリアスのリーダー、ラミアも即座に判断し、仲間たちを指揮する。

高度な魔法を扱うエアリアスの生徒たちが遠距離からの援護に回り、次々と魔物を薙ぎ払う。

国の壁を超えて、それぞれの学園の生徒たちが協力し合い、戦線を維持していく。

それを見たアルノアの胸に、熱いものがこみ上げる。

（負ける気がしない……！）

ボロボロの身体にもかかわらず、気持ちは昂ぶっていく。

この場には、各国のトップたちが揃っている。

彼らは決して同じ思想を持つ者たちではない。

だが――

今この瞬間だけは、誰もがひとつになっている。

（こんな状況で負けるなんて、ありえない！！）

アルノアは剣を握り直し、前を見据える。

目の前には巨大な黒き竜。

だが、今の彼にとってはただの「倒すべき敵」でしかなかった。

「行くぞ、アリシア！」

「ええ、決めましょう！」

アルノアとアリシアは、戦場を駆け抜け、竜へと迫る。