集団戦
それぞれが戦いの渦へと飛び込んでいく。
魔物の数は多い。しかし、その動きには秩序があり、ただ暴れ回るのではなく、あくまで戦術的に連携しているように見えた。
「数は多いが、無秩序な暴れ方ではないな……」
ユリウスは素早く状況を分析しながら、フレスガドルのメンバーへ指示を出す。
「リリアン、回復班を後方に! 遠距離組は魔法で広範囲を制圧! 近接組は俺と共に前へ!」
「了解!」
リリアンがすぐに動き、回復役の学生たちをまとめる。
ランドレウス側も負けていなかった。ロイを中心に、カインやゼインが周囲の魔物を薙ぎ払いながら、他の学生たちを導いていく。
「おい、無駄に突っ込むな! 陣形を維持しろ!」
カインが叫び、ゼインが後衛に守りを固めるよう指示を出す。
それぞれの学園も、リーダー格の者たちが冷静に指揮を執り、統率された戦いを繰り広げていた。
「よし……このまま押し切る!」
ユリウスが叫ぶと、フレスガドルのメンバーがさらに士気を高め、一気に魔物の群れへと攻め込んだ。
戦場は混沌としていたが、学生たちは確実に押し返し始めていた。
黒い竜は依然として動かない。だが、その威圧感は消えることなく、戦場に重くのしかかっていた。
そんな中、バルボリスが再び動く。
「さて、そろそろ次の手を打つか……」
彼が指を軽く振るうと、先ほどとは比べ物にならないほど巨大で、より異形の魔物たちが次々と召喚されていく。
その姿を見た学生たちの間に動揺が走る。
「くそっ……さっきの魔物よりさらに強そうだぞ!」
「俺たち、もうかなり消耗してるのに……!」
大会直後の疲弊した状態で、これほどの魔物を相手にするのはあまりにも厳しい。
フレスガドルやランドレウスのメンバーも、さすがに焦りを隠せなかった。
バルボリスはそんな彼らを眺めながら、ゆっくりと口元を歪める。
「いいぞ……そろそろか」
彼の目が鋭く光る。まるで、この戦いがある一つの段階へと進む瞬間を待ち望んでいるかのようだった。
戦場は次第に混乱を極めていった。
次々と召喚される強力な魔物たちにより、各学園の戦力は徐々に削られていく。最初は連携して優位に立っていたはずの学生たちも、負傷者が増えるにつれ、戦況は悪化の一途を辿っていた。
「くっ……これ以上は……!」
「回復役も追いつかない……!」
苦戦を強いられながらも、各国の精鋭たちは必死に踏みとどまる。しかし、それでも戦力は確実に減っていく。
そんな中、アルノアもようやく回復が完了する。だが、まだ完全ではない。ギリギリ動けるレベル――それでも、彼は立ち上がる。
「……間に合った、か」
しかし、まるでその瞬間を待っていたかのように、バルボリスが不敵に笑った。
「ようやく動けるか……だが遅かったな」
彼が指を鳴らした瞬間、これまで静かに戦場を見下ろしていた黒い竜が、ゆっくりとその巨体を動かし始める。
大地が震える。
圧倒的な威圧感が戦場全体を支配する。
「ついに動くのか……っ!」
「やばい、あれは次元が違う……!」
誰もが悟った。この竜の前では、今まで戦ってきた魔物たちですら雑魚に等しいと。
バルボリスは楽しげに呟く。
「さあ、絶望の始まりだ」
黒い竜が大きく息を吸い込み、次の瞬間――
「グオオオオオオオオォォォ!!!」
大気そのものを震わせるような咆哮が響き渡った。
それだけで、戦場の空気が一変する。
「……っ!!」
「な、なんだ……!? 足が……動かない……!」
その場にいた多くの学生たちの動きが止まった。恐怖が本能に訴えかける。戦うべき相手ではない――その思考が、彼らの身体を硬直させる。
リーダー格の者たち、すなわち各国の頂点に近い学生たちや、最前線で戦い続けてきた実力者たちだけが、なんとか耐えられている状態だった。
「……これは、ただの威圧じゃない。魔力が込められている……!」
ユリウスが歯を食いしばりながら言う。
「そんなの、見ればわかるよ……!」
アリシアも震える腕を抑えながら、アルノアの隣に立つ。
「……厄介だな」
ロイが剣を構え直し、睨みつける。
戦える者は限られている。
この竜の相手をできるのは、ここにいる中でもほんの一握りの実力者たちだけ。
「このままじゃ……まずいぞ……!」
ランドレウスの参謀役、カインが焦りを滲ませる。
そんな中、バルボリスはただ静かに笑っていた。
「さて……原石たちよ。恐怖に呑まれず、抗ってみせるか?」
アルノアが簡易的な回復を終え、動こうとした瞬間――
「待ってください!」
鋭くも落ち着いた声が響いた。
振り向くと、そこに立っていたのはアグアメリア王国1位チームの代表グレイスだった。
彼女は青色の長髪を揺らしながら、真剣な眼差しでアルノアを見つめていた。
「……グレイスさん?」
「この状況はまずいです。」
グレイスは視線を竜へと向ける。
「戦いながら見ていましたが、あなた達には何か策があるんですよね?」
アルノアは一瞬、答えに詰まる。策――確かにエーミラティスの力を解放すれば突破口は開けるかもしれない。しかし、それは万全の状態でなければ難しい。
グレイスはアルノアの表情から察したのか、続けた。
「正直、この状況を打破する方法が思いつきません。」
彼女は剣を握り直すと、一歩前に出た。
「だから、協力させてもらいたい。」
「……!」
「他のメンバーは引き続き竜以外の魔物を相手にしています。」
グレイスの視線は迷いのないものだった。
「私の力を使ってください。」
静かながらも、揺るぎない決意を込めた言葉だった。




