アルノアvsボルタジア
「遅い。」
アルノアの声が響いた瞬間、彼の姿が消えた。
「なっ――!?」
ヴァイスが驚愕する間もなく、白銀の閃光がガルツに襲いかかる。
「ぐぉっ……!」
ガルツは咄嗟に鋼鉄化した腕を前に出し、アルノアの大鎌の一撃を受け止めようとする。しかし――
「斬れるさ。」
アルノアの冷静な声とともに、白銀の刃がガルツの防御を切り裂いた。
「なっ――馬鹿な!!」
ガルツの【鋼鉄の肉体】は、これまで一度も砕かれたことがない。ましてや、炎の魔力を付与したことで強度はさらに増していた。だが、アルノアの一撃は鋼をも断ち切った。
「白銀領域の効果……?」
セラフィナが遠距離から状況を見極め、光の矢を構える。しかし、アルノアは一瞬でガルツの背後を取ると、体を捻るようにしてもう一撃を加えた。
「ぐっ……!」
ガルツの身体が大きく揺らぎ、その巨体がついに膝をつく。
「悪いが、ここまでだ。」
アルノアの魔力が込められた拳が、ガルツの腹部に叩き込まれた。白銀の衝撃波が爆発し、ガルツはそのまま場外へと吹き飛ばされた。
「ガルツ、脱落!!」
実況が叫び、観客席から大きな歓声が上がる。ボルタジアの重戦士がついに倒れた。
「ガルツ……!」
セラフィナが迷わず光の矢を放つ。だが、その一射すらもアルノアは見切っていた。
「その攻撃パターン……もう分かっている。」
アルノアは静かにそう言い、まるで風に乗るかのような滑らかな動きで矢を回避した。
「くっ……!」
セラフィナは続けて数本の矢を放つが、そのどれもがアルノアには届かない。
「なら――」
セラフィナは奥の手を使う決意をする。
「光神の雨 (ルクス・アロウ)!」
無数の光の矢が雨のように降り注ぐ。
「これなら避けられない……!」
しかし――
「本当にそうか?」
アルノアは大鎌を大きく振り、白銀の魔力を全身に纏わせる。
そして――
「絶凍雷撃」
白銀の雷が天に向かって放たれた。
「――!? これは……!!」
光の矢が触れた瞬間、凍りついて砕け散る。
それはただの雷撃ではない。アルノアの雷に含まれた絶対零度の冷気が、セラフィナの魔法を無力化していく。
「そんな……!」
光の矢が全て砕け散った瞬間、アルノアは既に目の前にいた。
「――終わりだ。」
セラフィナは防御する暇もなく、アルノアの柄による一撃を受け、意識を失って倒れ込んだ。
「セラフィナ、脱落!!」
実況の声が響く。
アルノアは息を整えながら、残る二人――ヴァイスとイグナスを見据えた。
アルノアの身体を白銀の魔力が包み込む。ガルツとセラフィナを一瞬で戦闘不能に追い込んだものの、まだ戦いは終わっていない。
ヴァイスとイグナスが距離を取り、次の一手を考えている。
「なぁ、エーミラティス。」
アルノアは心の中で語りかけた。
「まだ戦えるか?」
エーミラティスの声が静かに響く。
『当然じゃ。だが、お主の魔力も限界が近い。無駄な動きはできんぞ。』
「分かってる。ここで終わらせる。」
『ふん……その目、よいぞ。まるで神話に出てくる戦士のようじゃ。』
エーミラティスの声には微かな誇りが滲んでいた。
アルノアは静かに目を閉じ、深く息を吸う。そして、ゆっくりと吐き出した瞬間――
「行くぞ。」
再び白銀の輝きがその身を包み込む。
『この戦い……儂が見届けてやる!』
エーミラティスの魔力がアルノアの体に馴染んでいくのを感じる。
次の瞬間、アルノアの姿が消えた。
「っ!?」
ヴァイスが驚く間もなく、白銀の残像が彼の視界を駆け抜ける。
標的は――イグナス!
イグナスはすぐに超高温の炎を操り、自身の周囲に炎の障壁を展開した。
「この熱を突破できるか!?」
しかし、アルノアは止まらない。
『行け、アルノア! その刃で貫け!』
エーミラティスの声が響くと同時に、アルノアの大鎌が白銀の光を帯びた。
「白雷氷刃!!」
白銀の一撃がイグナスの炎を飲み込むように炸裂した。
「なっ……!? 俺の炎が……消える!?」
イグナスの絶対の自信を持っていた炎が、瞬く間に冷気と雷に押しつぶされる。
「ぐぁっ!!」
爆発的な衝撃と共に、イグナスは地面に叩きつけられた。意識が遠のき、動けなくなる。
「イグナス、脱落!!」
実況の声と共に、観客席が大きくどよめいた。
アルノアは肩で息をしながら、最後の一人――ヴァイスへと視線を向ける。
「次は……お前だ。」
エーミラティスもまた、満足げに呟いた。
『さぁ、決着の時じゃ。存分に魅せるがいい、我が契約者よ。』
ヴァイスは鋭い目つきでアルノアを見据えた。
「まさかここまでやるとはな……だが、俺はまだ倒れない!」
ヴァイスが地面に手をつくと、周囲の重力が急激に変化する。瓦礫が空へと舞い上がり、アルノアの身体もわずかに沈むような感覚に襲われた。
「重力牢獄!!」
ヴァイスの重力魔法が発動すると同時に、彼の周囲に炎の魔力が広がる。
「炎重撃!!」
超高密度の重力が込められた炎弾が、無数にアルノアへと襲いかかる。重力によって加速したそれらは、通常の炎魔法とは比べ物にならない速度と威力を持っていた。
だが――
「……負けるわけにはいかない!」
アルノアは最後の魔力を振り絞った。
エーミラティスの声が心の中に響く。
『お主の限界が近い……だが、あと一撃、すべてを込めるのじゃ!』
アルノアは力を込め、大鎌を構える。白銀の雷が鎌の刃を包み込む。
「終わらせる……!」
重力の影響を最小限に抑えながら、一気に踏み込む。
ヴァイスが驚愕する。
「この重力の中で動けるのか!?」
アルノアの白銀の魔力がさらに輝きを増し、彼の身体がまるで光となって駆け抜ける。
「――氷雷穿閃!!」
大鎌を振り抜いた瞬間、凍てつく雷の奔流が空間を引き裂き、炎の弾をことごとく相殺する。
「ぐあああっ!!」
ヴァイスの身体が雷撃に包まれ、氷の結晶がその全身に広がる。重力場が崩壊し、地面に激しく叩きつけられる。
――勝負は決した。
ヴァイスの意識が遠のく中、彼は呟く。
「……お前は、強すぎる……」
そうして、ヴァイスも戦闘不能となった。
実況が大きく叫ぶ。
「ヴァイス、脱落!! これでボルタジア、全滅!!」
観客席が割れんばかりの歓声を上げる中、アルノアは膝をつき、荒い息を吐いた。
「……やった……か……」
エーミラティスの声が優しく響く。
『よくやったぞ、アルノア。お主は……本当に強くなった。』
アルノアは空を仰ぎ、そして次の戦場――ロイとアリシアのもとへと視線を向けるのだった。




