爆煙と加速する戦闘
ゼインの放った紅雷炎滅が、戦場を紅と黄色の輝きで染め上げた。
「はぁ……はぁ……ッ!」
ゼインは肩で息をしながら、燃え盛る爆煙を睨みつける。
視界はまだ曇っているが、あの攻撃をまともに受けたなら——
「……どうなった!?」
実況席も騒然としていた。
「な、なんという強烈な一撃! 雷と炎の複合魔法、それもゼイン選手の全魔力を込めた攻撃です!」
「アルノア選手、そして範囲内にいたカイゼル選手——彼らは無事なのでしょうか!?」
観客も固唾を飲んで見守る。
ゼイン自身も、まだ煙の中を確認できていない。
——が、直感的に分かる。
(……この程度で終わるわけがない!)
アルノアも、カイゼルも。
あの2人が、この程度で倒れるはずがない。
雷炎の爆風が収まり、煙が徐々に晴れていく。
——そして、その中心に立っていたのは——
2つの影。
「チッ……やっぱりな。」
ゼインが舌打ちする。
その場には、アルノアとカイゼルの姿があった。
——しかも、ほぼ無傷の状態で。
「な……!? 2人とも立っている!? 一体、どうやって……!」
実況席の驚きとともに、観客席からもどよめきが広がる。
ゼインの攻撃は確かに強力だった。
にもかかわらず——
「……やっぱ、こうじゃねぇとな。」
カイゼルがニヤリと笑う。
「ゼイン、お前の雷炎、悪くねぇよ。」
カイゼルの周囲には黒雷のバリアが張られていた。
《黒雷障壁》——黒雷を凝縮して形成した防壁。
ゼインの雷炎と同じ雷属性を持つことで、ある程度のダメージを相殺できたのだ。
「だが、まだまだ火力が足りねぇな。」
そして、アルノアは——
「……悪くない攻撃だったよ、ゼイン。」
アルノアの周囲に、白銀の魔力が舞っていた。
それは、彼が瞬時に発動した白銀領域の力。
ゼインの攻撃をギリギリで観察し、最も威力が集中する箇所を避けながら、白銀の魔力でダメージを最小限に抑えていたのだ。
「……お前、ちょっと前まで俺のこと見下してたよな?」
アルノアは静かにゼインを見つめる。
「でも今のお前、悪くない。ちゃんと”仲間のために”戦えてる。」
ゼインの眉がピクリと動く。
「……だからこそ、今度は俺の番だ。」
アルノアの銀色の瞳が輝く。
ゼインの放った紅雷炎滅が空間を焼き尽くした直後、アルノアは静かに手を上げた。
「……もう一度言うけど、今のお前は悪くない。」
ゼインは肩で息をしながら、アルノアの動きを睨む。
「……だったら、倒せるもんなら倒してみろ……ッ!」
ゼインは再び魔力を練ろうとするが、全魔力を込めた大技を放った直後。
体はもう限界に近い。
「じゃあ、終わりにするよ。」
アルノアの指先に、冷気を帯びた雷が集まる。
淡い白銀の輝きが収束し、空間そのものが震えた。
「……何だ、その雷……!?」
ゼインが警戒する間もなく、空中にひとつの”雷”が生まれる。
——《絶凍雷撃》——
天から降り注ぐ冷気を纏った雷。
それは通常の雷とは異なり、落下する軌道上の空間すらも凍てつかせる。
氷と雷の融合。
ゼインは直感的に理解した。
(避けられねぇ……!)
速すぎる。
範囲は広くない。
だが、その一点を狙う速度と威力は桁違いだった。
「——ぐっ……!!」
ゼインの体が雷に貫かれる。
同時に、周囲の地面が一瞬にして凍りついた。
「な、なんだこれは……!?」
ゼインの動きが完全に封じられる。
雷の衝撃とともに、氷が全身を拘束するのだ。
「——ゼイン選手、完全に捕らえられた!!」
実況席からも驚きの声が響く。
「こ、これは……新技でしょうか!? 雷と氷の融合、今まで見たことのない魔法です!」
観客席もどよめいた。
ゼインの体は氷に覆われ、雷の痺れにより完全に戦闘不能となる。
アルノアはゼインを静かに見下ろした。
「お前は強くなった。でも、俺も負けるつもりはない。」
そう言いながら、アルノアは振り返り——
残りの2人へと目を向ける。
「——雷鎧穿滅」
カインの声が響いた瞬間、彼の全身を純粋な雷の鎧が包み込んだ。
電撃が激しく弾け、身体の輪郭すら歪ませるほどの雷の奔流がカインの周囲に渦巻く。
「行くぞ……!!」
その気迫に呼応するかのように、カイゼルの雷獣の文様がさらに濃く刻まれる。
黒雷がカイゼルの周囲で唸りを上げ、獣のごとき爪が宙を切る。
対するアルノアは、一歩も引かずに銀白の魔力を高めていく。
「……面白い、まとめて相手してやるよ!」
カイゼルが牙を剥き、カインが静かに踏み込む。
そして——
3人の魔力がぶつかり合い、決着の刻が迫る。
《決着への攻防》
カイゼルの黒雷爪——獣の爪が宙を引き裂く。
カインの雷鎧穿滅——雷鎧をまとい、極限の速度で襲いかかる。
アルノアの絶凍雷撃——雷と氷を纏い、精密な一撃を繰り出す。
戦場は嵐と化した。
雷撃と黒雷の爪、そして冷気を帯びた雷が交錯する。
カインの動きは、まるで雷そのもの。
アルノアが攻撃の隙を突こうとするも、カインの速さがそれを許さない。
しかし、カイゼルはさらなる怪物だった。
「ハハハ!!」
黒雷の閃光と共に、カイゼルが暴れ狂う。
カインの速度すら捉え、アルノアの冷気すら振り払う獣の一撃。
「——甘い!!」
その時、アルノアがギアをさらに上げる。
エーミラティスとの魔力の同調が、極限に達した。
銀白の輝きが戦場を包み込む。
そして——
「——絶天凍破!!」
白銀の雷撃が、一瞬にして戦場を支配する。
黒雷を凍てつかせ、雷の鎧を貫き、絶対零度の雷が全てを覆う。
カイゼルの動きが鈍る。
カインの雷鎧が砕ける。
「……っ!!?」
その隙を、アルノアは見逃さない。
閃光の一閃——アルノアの大鎌が振り抜かれる。
カイゼルの身体に深く刻まれる斬撃——
カインの雷鎧が完全に崩れ、膝をつく——
そして——
実況席が割れんばかりの歓声を上げる。
「決まったァァァァァァ!!!」
アルノア、カイン、カイゼル——
熾烈を極めた戦いの末、最後に立っていたのは銀白の雷を纏うアルノアだった。




