ロイの解放とゼインの全力
アリシアがボルタジア四人を圧倒しつつある中、新たな強敵が立ちはだかる。
「《灼刃裂破》——。」
その声が響くと同時に、ロイの魔力が爆発的に解放される。
彼の周囲に紅蓮の炎が巻き起こり、瞬く間に戦場の空気を熱気で満たした。
観客席の誰もが目を見開く。
「ロイが……剣を捨てた!?」
そう、ロイは自身の剣を投げ捨てていた。
彼の拳には、炎の魔力が纏わりつき、まるで実体を持つ刃のように形を成している。
「さすがアリシアさん。強いですね。」
炎を揺らめかせながら、ロイは落ち着いた声で言った。
「けど……俺も、本気で行かせてもらいます。」
ロイの解放魔法灼刃裂破は、肉体そのものを炎の武器に変える技。
剣ではなく、拳と蹴りで戦う炎武術こそがロイの真の戦闘スタイル。
その戦い方は、もはや人間ではなく、炎の化身と呼ぶに相応しいものだった。
拳を振るえば、灼熱の刃が空を裂く。
蹴りを放てば、炎の斬撃が大地を焼く。
その炎は通常の火ではなく、対象を一瞬で焼き裂く”剛炎”
「エマ、サーシャ、援護頼む。」
ロイがそう告げると、後方で待機していたエマとサーシャが即座に動いた。
「分かったよ!ロイ!」
風の魔法で炎に加勢し、ロイの動きをサポートする。
「ロイ、バフをかける!」
水と聖魔法で防御力と回復力を強化。
ロイは全身の魔力をさらに昂らせ、アリシアへと向かう。
アリシアは、迎え撃つために岩の腕を前に出し、ルビーの力を纏わせる。
「……いいわ、来なさい。」
炎を纏ったロイの拳が、岩の腕に激突する。
ゴォォォォッ!!!
爆発的な火力が炸裂し、観客席まで衝撃が届くほどの衝突音が響く。
両者の魔力が拮抗し、戦場がまるで灼熱の炉のように熱気に包まれる。
「宝石の力か……でも、俺の炎はそう簡単には負けませんよ!」
ロイは一歩も引かず、さらなる拳を繰り出す。
アリシアもダイヤモンドの剣を構え、迎え撃つ。
――――――
アルノアはカイゼルの黒雷をいなしながら、戦場全体に意識を巡らせていた。
(アリシアが解放した……そして、ロイもか……)
彼の魔力がぶつかり合う衝撃を肌で感じる。
ロイは、アルノアがランドレウスの学園にいた頃から解放魔法を使えていた。
しかし、今のロイは別格だ。
まるで別人のような魔力量、洗練された技の切れ味。
(この半年で……ロイはどれだけの経験を積んだんだ?)
アルノアの脳裏に、学園時代のロイの姿がよぎる。
だが、それに浸る余裕はない。
今、目の前にいるカイゼルは——
「おい、集中しろよ。」
そう言い放つと同時に、黒雷を纏った拳がアルノアを襲う。
ドォン!!
咄嗟に大鎌を横に振り、衝撃を流す。
しかし、その瞬間——
「隙あり!!」
横からゼインの雷炎の槍が迫る。
それに合わせ、カインも雷刃を振り抜く。
3人の雷の使い手による、連続攻撃。
「ロイが気になるかもしれないが、ここを勝たせる訳には行かないよ。アル。」
カインがアルノアの気持ちを読んで語りかける。
アルノアは確信する。
今の力で真正面から戦えば勝てない。
「——だからこそ、俺は”ギア”を上げる。」
エーミラティスに意識を向け、思考を共有する。
「もう一段階……魔力の共有だ。」
——銀の魔力が溢れ出す。
アルノアの目が白銀に輝き、周囲の魔力が収束し始めた。
「なっ……?」
驚くカイゼル。
カインとゼインの雷撃が空中で凍りつき、霧散する。
(まずは一人ずつ——確実に倒す。)
アルノアは、最速の動きでゼインへと迫った——!!
アルノアは戦況を見極め、最初に狙うべきはゼインだと判断した。
ゼインは炎と雷を掛け合わせた雷炎魔法の使い手。
その攻撃は爆発的な火力を持ち、放たれる速度も異常に速い。
カインの方が脅威だがゼインのサポートを無くせれば大きく戦況が動く。
ゼイン、彼の最大の欠点は——
(ゼイン、お前は焦っている……!)
アルノアの目が白銀に輝く。
一瞬、思考をエーミラティスと共有する。
「まずは、お主の”手”を減らすぞ。」
その瞬間、カイゼルが獣のような低い姿勢から一気に距離を詰めてくる。
「喰らえッ!!」
黒雷を纏った鋭い爪撃が乱舞し、無数の斬撃が襲いかかる。
——だが、アルノアは最小の動きでそれを避けた。
まるで未来を見ているかのような回避。
さらに、カイゼルの死角から飛び込んできたゼインの雷炎の槍。
しかし——
ドォン!!
エーミラティスの魔力が瞬時に反応し、ゼインの攻撃を相殺する。
まるで、アルノアが全てを予知しているかのような動き。
実況席も興奮して声を上げた。
「これは……!? アルノア選手、さらに動きが冴えている!!」
「凄まじい……!! まるで、敵の動きを完全に読んでいるようだ!」
観客席もどよめく。
「チッ……!」
ゼインは苛立ちを隠せない。
焦って雷炎の連撃を仕掛けるが、アルノアはさらに速度を上げてゼインに迫る。
——狙うは、次の一手。
「お前を最初に仕留める。」
アルノアの大鎌が、ゼインを捕らえた——!!
——が、その刃は浅い。
(……ッ!?)
刃が届く直前、ゼインの前にカインが割り込んでいた。
「悪いな……ゼインを落とさせるわけにはいかない。」
カインの雷が防御の結界を展開し、アルノアの大鎌の威力を削ぐ。
結果、ゼインに与えたダメージは浅いものとなった。
——ゼインは確かに、アルノアの強さを認めた。
今の一撃で分かった。
「お前が強い」のは事実だと。
だが、それ以上に——
「……俺はこの半年、このチームの一員として戦ってきたんだ。」
かつての自分は、ロイやカインに対する劣等感や、アルノアへの敵対心ばかり抱いていた。
だが今は違う。
今は——
「俺は、このチームを勝たせたい!!」
その想いが、ゼインの全身を駆け巡る。
その瞬間、ゼインの魔力が赤く燃え上がった。
——否、赤ではない。赤と紫が交じり合った、異質な雷炎の輝き。
観客が驚きの声を上げる。
「な、なんだ……!? ゼイン選手の魔力が、異常なほど高まっている!!」
「アルノア……お前に今すぐ勝つことはできねぇ。」
「でも……チームの力になることはできる!」
ゼインの両手に、膨大な雷炎の魔力が収束する。
熱量と雷光が交じり合い、荒れ狂う破壊の嵐を生み出していく。
「お前のおかげで俺は、今ここで強くなれた!」
ゼインの叫びとともに、雷炎の嵐が形を成す。
「——《紅雷炎滅》こうらいえんめつ!!!」
爆発的な雷炎が、ゼインの周囲を焼き尽くすように広がった。
後方のカインは影響を受けないように計算されている。
だが、アルノアは——完全に範囲内にいる!!
「——ッ!!」
アルノアの目が鋭く光る。
だが、この攻撃範囲では回避は不可能。
紅き雷炎が、アルノアを包み込もうとしていた——!!




