激化する戦い
戦場に圧倒的な魔力の波動が広がる。
「さあ、ここからが本番だ!」
「うおぉぉ! ガルツ選手、攻防一体の鋼鉄の壁と化したぁ!! これは並の攻撃では傷一つつけられません!!」
実況が叫ぶ中――
「やれやれ、また重い鎧をまとったような気分だな。」
ヴァイスが淡々とつぶやくと、周囲の空間がねじれ、まるで世界そのものが彼に引き寄せられているような錯覚に陥る。
「虚圧領域」
「っ……!?」
その瞬間、アリシアたちの身体が一気に重くなる。空気が圧縮され、動くことすら容易ではなくなる。ヴァイスの重力制御は精密で、特定の範囲にのみ影響を及ぼす。彼が意図的に選んだ相手だけが、その重圧に苦しめられるのだ。
「ヴァイスの虚圧領域が展開されました! これでは自由に動くことすらできません!」
「くっ……厄介ね。」
アリシアが舌打ちする中、さらなる魔力が解放される。
「獄炎顕現」
突如、ボルタジアのイグナスの体から紅蓮の業火が噴き上がる。
「燃え尽きろよ……!」
彼が足を踏み出すたび、地面が焼け焦げ、空気が灼熱の波動を帯びる。周囲の温度が一気に上昇し、視界が歪むほどの熱気が広がる。単なる炎ではなく、敵の魔力をも焼き尽くす”獄炎”。
「イグナス選手の獄炎顕現! これはただの炎ではない! 触れれば魔法ごと燃え尽きる、圧倒的な灼熱!!」
そして、戦場に神々しい光が降り注ぐ。
「天照煌弓」
ボルタジアのセラフィナが弓を掲げると、光の矢が無数に出現し、まるで天の裁きのように戦場を覆う。
「光の矢が……いや、これはもはや”裁き”の域ですね!」
実況席が興奮する中、彼女は静かに微笑んだ。
「さあ、覚悟なさい。」
そして最後に――
「……やっぱり使わねぇと、戦えねぇよな。」
「俺も全開で行くか!」
カイゼルの全身に黒雷が奔る。
「雷獣顕現」
その瞬間、彼の姿がさらに大きく変化した。
「――来いよ、アルノア。」
雷を纏う獣の王。 それこそが、カイゼルの真の姿だった。
ボルタジア、全員魔力解放――戦場が、“戦場”へと変わる。
ボルタジアの五人が次々と魔力を解放し、戦場の空気が一変する。
「……まさか、全員が解放持ちとはね。」
アリシアは内心で驚きを隠せなかった。
通常、魔力解放とは才能と経験を兼ね備えた者しか扱えない高度な技術。学園の生徒たちの中で、それを使いこなせる者は一握りしかいない。だが――
ボルタジアは全員が解放可能。
だからこそ、彼らは”優勝が固い”とされていたのだ。
(……厄介ね。)
アリシアは冷静を装いつつも、心の奥にわずかな焦りを感じていた。
重力を操るヴァイス。
炎を極めるイグナス。
鋼鉄の肉体を持つガルツ。
天の裁きを下すセラフィナ。
そして、アルノアの方には黒雷を統べるカイゼル。
これほどの戦力が揃っているチームは他にない。
「……さて、どうするかしらね。」
アリシアは冷静に状況を分析しながら、鋭い眼差しで四人の動きを追う。
ガルツの鋼鉄化した肉体による近接戦闘。
通常ならば攻撃を加えれば怯ませることができるが、彼にはそれが通じない。まるで鋼鉄の塊と戦っているようだ。
イグナスの猛炎。
ガルツを盾にすることで、遠慮のない火力で戦場を焼き尽くす。アリシアの防御魔法すら、長時間受け続ければ突破されかねない威力だ。
セラフィナの光の矢。
攻撃の手を緩めれば、その隙を突くように光の雨が降り注ぐ。直撃すれば無傷では済まされない。
ヴァイスの重力操作。
常に身体に負荷をかけられ、自由な動きを奪われる。飛び上がることも難しく、回避すらままならない。
(……もはや、連携を意識せずとも個々が強すぎる。)
これほどの猛攻に晒されることになるとは思っていなかった。
「ふふ……いいじゃない。」
アリシアは口元を綻ばせる。
「これぐらいじゃないと、私も本気になれないもの。」
次の瞬間――
《煌岩創造 オルディナリウム》――“宝石の守護者”
アリシアの後ろに大きな岩の手が2つ現れる!
アリシアの魔力がさらに高まり、背後の二本の巨大な岩の腕が異なる色の輝きを帯びながら動き出す。
「この二本が、私を守り、そして戦う――。」
その腕は戦況に応じて瞬時に宝石の力を切り替え、絶え間なく襲い来るボルタジアの猛攻を受け流していく。
イグナスが巨大な火球をいくつも生成し、一斉にアリシアへと放つ。
「燃え尽きろ!!」
だが、アリシアの右の岩の腕がサファイアに変化し、澄み渡る水流が火球にぶつかる。
ジュゥゥゥッ!!!
火と水がぶつかり合い、激しい蒸気が立ち上る。
完全に相殺することはできなかったが、アリシアは自身の剣に水の魔力をまとわせ、残った炎を切り裂く。
「相性の悪い相手に、そんな単純な魔法をぶつけるのは甘いわよ!」
ヴァイスがアリシアの動きを封じるべく、局所的な重力場を発生させる。
「もう逃げられないぞ。」
しかし、アリシアは左の岩の腕をエメラルドに変化させ、風の刃を纏わせる。
重力によって足元が沈む中、アリシアは風の力で無理やり跳躍し、自由な動きを取り戻す。
「私を閉じ込めるなんて……無駄よ!」
彼女は剣に風を纏わせ、ヴァイスの放つ重力波を切り裂いていく。
セラフィナが遠距離から光の矢を連続で放つ。
「この距離なら、あなたの防御を突き破れる!」
だが、アリシアは左の岩の腕をトパーズに切り替え、雷撃を纏った盾を展開。
光の矢がトパーズの電撃によって軌道を乱され、次々と弾かれる。
「狙いは正確だったけど、届かないわね!」
さらに、アリシアは雷のエネルギーを蓄え、その電撃をセラフィナへ向けて放つ。
「さすがに防御に専念しすぎじゃねえか?」
ガルツが笑みを浮かべながら、鋼鉄の拳を振り下ろす。
その瞬間、アリシアの右の岩の腕がルビーの力を宿し、紅蓮の炎を纏った刃を生成する。
「いいえ、攻め時よ。」
ルビーの刃がガルツの拳を受け止めると、炎が鉄を灼き、僅かにガルツの防御を崩す。
「ぐっ……!」
その隙を見逃さず、アリシア自身がダイヤモンドの剣で追撃。ガルツはすんでのところで後退する。
「クソッ……!」
ボルタジアの四人は完全にアリシアの戦い方に対応できず、足止めを喰らっていた。
「……アリシア一人に、ここまで抑えられるのか?」
「こっちは4人解放してるんだぞ!?」
「ヤバいな……時間をかければかけるほど、俺たちの攻撃を読まれる!」
ガルツ、イグナス、ヴァイス、セラフィナの四人は、戦術変更を余儀なくされる。
彼らは新たな作戦を立てるべく、一度間合いを取る。
しかし――
「ふふ、待ってくれるのね。優しいわね?」
アリシアは笑みを浮かべ、すぐに追撃の態勢を取る。
「逃がさないわよ!」
追撃が迫ろうとしたその時、ロイの一撃がそれを遮る。
「灼刃裂破」
ロイの魔力が開放される。




