雷の戦い
カイゼルの黒雷がアルノアの周囲で炸裂する。雷鳴が響き、観客席から驚きの声が漏れた。
「正直な話、代表戦はもっと簡単に優勝できると思っていたんだがな。」
カイゼルは不敵に笑いながら黒雷を纏う。
「だが――お前は面白そうだ、アルノア。」
雷を帯びた剣を構え、カイゼルの目が獲物を狙う獣のように鋭くなる。
「本気で戦える相手がいるってのは悪くねぇ。」
「そうか。それは光栄だな。」
アルノアは静かに大鎌を握り直す。白銀の魔力がゆっくりと周囲に広がり、氷と雷が絡み合うように彼の周囲を舞った。
「だけど、簡単に優勝できると思ってたってのは、ちょっと舐めすぎじゃないか?」
言い終わると同時に、アルノアは一気に距離を詰め、大鎌を振るう。
「白雷氷刃!」
斬撃とともに、雷を纏った氷の刃がカイゼルを襲う。しかし――
「黒雷障壁!」
カイゼルの周囲に黒い雷が渦を巻き、斬撃を弾く。そのまま、カイゼルは素早く横へ跳びながら手を掲げる。
「雷獄襲来!」
空中に無数の黒雷の槍が生まれ、一斉にアルノアへと降り注ぐ。
「――っ!」
アルノアはすぐに白銀領域を展開し、雷の槍を氷の壁で防ぐ。しかし、黒雷の威力は凄まじく、氷の防御が次々と砕かれていく。
「防御に回るなよ、アルノア!」
カイゼルが地面を蹴り、アルノアへと突進する。
「……チッ!」
アルノアは防御を捨て、大鎌を逆手に持ち替えながらカイゼルの攻撃を迎え撃つ。
そこへさらに追撃が来るり
ゼインの雷炎魔法が燃え盛る雷の槍となり、アルノアとカイゼルへと迫る。
「炎雷槍!」
「合わせる!」
同時に、カインの雷撃がゼインの炎と混ざり合い、さらなる爆発的な威力を生み出す。
「チッ……やってくれるな。」
カイゼルが素早く黒雷を纏い、雷炎の槍を叩き落とす。しかし、爆発の余波は広がり、黒雷のバリアを削った。
アルノアもまた、大鎌を振るって氷の刃で攻撃を迎え撃つ。白雷氷刃がゼインの雷炎魔法を切り裂き、爆風を巻き起こす。
互いの攻撃を相殺したアルノアとカイゼルだったが、カインの狙いはそこではなかった。
「……火力勝負じゃ勝てないのは分かってる。」
カインは冷静に状況を分析していた。アルノアとカイゼル、どちらも圧倒的な魔力を持つ。真正面からぶつかれば、自分の攻撃は押し潰される。
「だから、ゼイン。俺たちは“戦い方”で勝つぞ。」
「わかってるさ。連携で崩す!」
ゼインがすぐに動いた。彼の雷炎魔法は攻撃力だけでなく、相手の動きを制限する力も持つ。
「雷炎陣!」
ゼインが手をかざすと、地面に燃え上がる雷の紋章が描かれ、アルノアとカイゼルの足元を焼き尽くそうとする。
「チッ、妨害する気か!」
カイゼルは黒雷のバーストで飛び上がり、強引に回避する。
アルノアも瞬時に白雷氷刃で地面を凍らせ、炎を相殺する。
「……けど、ここまでは想定内だろ?」
カインが不敵に笑うと、すでに別の場所に移動していた彼が次の魔法を発動させる。
「雷神断空!」
雷を纏った斬撃が空間を切り裂き、アルノアとカイゼルの間に突き込まれる。
「――っ!」
カイゼルが反応して黒雷で迎撃しようとするが、ゼインがさらに横から援護の炎弾を放ち爆破させ、カイゼルのバランスを崩させる。
「なるほど……お前ら、なかなかやるじゃねえか!」
カイゼルは不敵に笑いながら、黒雷を纏った拳を握りしめた。
アルノアも同様に、大鎌を構えながら呟く。
「面白くなってきたな……」
カインとゼインの雷撃、そしてカイゼルの黒雷。
三者三様の雷の奔流が戦場を駆け巡る中、アルノアは冷静にエーミラティスへと意識を向けた。
(……エーミラティス、少し貸してくれ。)
《分かっておる、お主なら扱えるはずだ》
意識が重なった瞬間、アルノアの目が再び白銀に輝く。
全身の感覚が研ぎ澄まされ、世界がスローモーションのように映る。
「……行くぞ。」
その声と同時に、アルノアの動きが変わった。
鋭い踏み込みと共に、一瞬で間合いを詰める。カインとゼインが繰り出す雷撃の網をくぐり抜けながら、最小限の動きで回避。
「なっ……!?」
カインの雷の拳が掠める瞬間、アルノアはわずかに体をひねり、まるで風のように回避する。
同時に、ゼインの雷炎の槍が背後から迫るが、アルノアは振り向きもせずに大鎌を後方へと振るった。
――白雷氷刃!
刹那、雷を纏った氷の刃が発生し、ゼインの槍を切り裂く。
「チッ……!」
ゼインが後退するが、アルノアの動きは止まらない。
カイゼルが黒雷の拳を纏って突撃してくる。
「ハハッ、面白いな! どこまで避けられる!?」
黒雷が迸る拳が襲いかかる。しかし――
ヒュンッ!
アルノアの体が風のように流れ、拳が空を切る。
「なっ……!? こいつ、動きが……!!」
カイゼルが驚愕する間もなく、アルノアの大鎌が閃く。
「……甘い。」
一閃。
――ズバァァッ!!!
空間を裂くような一撃が、黒雷を纏うカイゼルのガードごと弾き飛ばす。
「ぐっ……!」
カイゼルが着地しながら態勢を立て直すが、その表情は笑みを浮かべていた。
「ハハッ! やべぇな、アルノア! お前、どこまで強くなった!?」
ゼインとカインも息を整えながら、アルノアの異次元の動きに警戒を強める。
「こいつ……さっきまでとは別物だ。」
ゼインが歯噛みしながら呟く。
アルノアの目は静かに白銀に輝き続けていた。
(……もう一段階、上げられる。)
エーミラティスとの融合が進み、アルノアはさらなる領域へと足を踏み入れようとしていた。
アルノアの異次元の動きに対し、カイゼルは笑みを浮かべながら拳を握り締めた。
「……やっぱり使わねぇと戦えねぇよな。」
ゴゴゴ……ッ!
黒雷がカイゼルの体を包み込み、彼の肌に黒い雷の文様が浮かび上がる。
「……ッ!?」
アルノアは瞬時に警戒を強める。
カイゼルの姿が変わっていく。
――雷獣モード
筋肉が隆起し、体つきがやや獣に近いものへと変化する。指の関節が鋭くなり、黒雷を纏った爪が伸びる。
その瞳はまるで獲物を狙う獣のようにギラついていた。
「……お前との戦い、ワクワクしてきたぜ。」
ドンッ!!
一瞬で姿が消えたかのように見えた。
「速い……!」
アルノアが反応するより早く、カイゼルの黒雷の拳が目前に迫る。
「ッ――!」
咄嗟に大鎌を構えるが――
――ズガァァン!!!
圧倒的な衝撃が大鎌越しに伝わり、アルノアの体が大きく吹き飛ばされる。
ゴゴゴゴ……ッ!
アルノアは地面を削りながら後方へと滑り、なんとか踏みとどまる。
(……っ、この一撃、さっきまでとは桁違いだ!)
カイゼルの姿はすでに別次元の領域に達していた。
「ハハハ! どうした、アルノア!!」
カイゼルが黒雷の奔流を纏いながら、獣のように四つん這いの姿勢になる。
次の瞬間――
「――雷爪閃牙!!」
黒雷を纏った爪が空間を裂くように振るわれる。
「……くっ!」
アルノアは即座に白銀の魔力を練り、大鎌に雷氷を纏わせる。
「――白雷氷刃!!」
雷と氷の斬撃がカイゼルの黒雷爪と激突する。
――ドガァァン!!!
衝撃波が戦場を駆け巡る。
アルノアは僅かに後退し、カイゼルは余裕の笑みを浮かべた。
「お前、まだ本気じゃねぇよな?」
アルノアの白銀の瞳が揺らぐ。
「なら……もっと、見せてみろよ!!」
カイゼルが更なる雷を練り始める。
雷獣と化した彼との戦いは、まだ始まったばかりだった。




