フレスガドルからの出発
大会への準備が整い、いよいよアルノアたちはランドレウスに向けて出発する日を迎えた。フレスガドル学園の門前には、大勢の生徒たちが見送りに集まっていた。
「アルノア、頑張れよ！」
「フレスガドルの代表として、全力を尽くしてくれ！」
「ユリウス、頼りにしてるぞ！」
校舎から見送る教師たちの声も混じり、賑やかな雰囲気に包まれる中、アルノアはその場の暖かさに胸が熱くなった。
（こんな風に応援されたのは、初めてかもしれない……）
アルノアの脳裏には、ランドレウスでの日々が蘇る。生まれ育った街でありながら、かつての自分は周囲から疎まれ、孤立していた。魔法の適性が低いと侮られ、周囲の期待に応えられない自分が悔しかった日々。
（あの頃の自分と比べて、今の自分は少し変われたのかな……）
彼は静かに拳を握りしめる。そして、視線を上げると、学園の仲間たちの顔が見えた。その全員が純粋に彼の健闘を祈っている。
（ここで過ごした時間が、こんなにも自分を支えてくれていたなんて……）
ユリウスたちのチームも、フレスガドルの誇りを背負って共にランドレウスへ向かう。馬車の前で最後の準備を整える彼らに、アルノアは歩み寄った。
「ユリウス、シエラ、みんな、ランドレウスでもよろしく頼む。」
ユリウスは頷きながら手を差し出した。
「もちろんだ。お互い学園の名に恥じないよう、全力で戦おう。」
アルノアはその手をしっかりと握り返す。シエラも微笑みながら言葉を続けた。
「ランドレウスはアルノアの故郷なんでしょ？なんだか不思議な縁を感じるわ。」
「俺もそう思うよ。過去に色々あった場所だけど、今の自分なら胸を張って向き合えると思う。」
馬車に乗り込む直前、アルノアは後ろを振り返った。門の前で見送る仲間たちが手を振っている。
「行ってこい！」
「お土産話、期待してるからな！」
その声に、アルノアは小さく笑みを浮かべて応えた。
「ありがとう。必ず、良い結果を持ち帰るよ。」
そして馬車の扉を閉じると、アルノアは静かに決意を固めた。
（フレスガドルの代表として、そして自分自身の成長を証明するために。ランドレウスで、必ず全力を尽くす。）
馬車がゆっくりと動き出し、フレスガドル学園が遠ざかっていく。温かな見送りの声が、いつまでもアルノアの耳に響いていた。
ランドレウスへの道のりは、彼にとって過去と現在を繋ぐ旅路の始まりとなるのだった。
しかし、学園を出てしばらく進んだところで、後ろから軽快な足音が聞こえた。
「おーい、置いて行くなよ！」
振り返ると、そこにはリヒター・ハイウィンドの姿があった。金髪が陽光を反射し、彼の自信に満ちた笑顔が眩しい。
「リヒター？ なんでここに？」アルノアは驚きの声を上げる。
「決まってるだろ、見物だよ。お前らの代表戦ってやつを、間近で見てやろうと思ってな。」リヒターは軽く肩をすくめて言う。
「でも、学園の授業は――」
「単位ならもう全部取りきってる。お前がランドレウスに行くって聞いて、これは面白くなりそうだと思ったからな。ついでに旅の暇つぶしだ。」
その飄々とした態度に、アルノアは苦笑を漏らすしかなかった。しかし、リヒターがいることで心強さを感じるのも事実だった。
フレスガドルでの生活の中で、アルノアは一部の仲間に自分の力について少しだけ打ち明けていた。
「俺の力はさ、どれか一つの属性に特化してるわけじゃないんだ。全部の属性を扱えるけど、どれも中途半端なんだよ。」
クラスメイトたちが実力を認める一方で、アルノア自身はその力に対するコンプレックスを抱えていた。しかし、その場にいたリヒターは軽く笑い飛ばした。
「中途半端？ お前、あの模擬戦の時、全属性の連携を見せたろ？ あんなの普通の魔法使いにできるわけないだろ。」
「でも、それだけじゃ――」
「アルノア、お前の力は誰かを支える力だ。それに、自分じゃ気づいてないかもしれないけど、お前の魔力ってどこか懐が深いんだよ。だからみんなお前に惹かれるんじゃないか？」
リヒターの言葉にアルノアは目を見開いた。リヒターのこうした一面は彼にとって意外であり、同時に胸に響いた。
ランドレウスに向かう道中、リヒターはアルノアたち代表チームとともに歩きながら、時折茶化すように会話を挟む。
「ユリウス、お前らもランドレウスでは良いとこ見せてくれよな。お前らが負けたらつまんねぇし。」
「リヒター、君こそ手伝うつもりで来たんじゃないのか？」ユリウスは冷静に返す。
「いやいや、応援はするさ。でも手を出すなって言われそうだからな、俺は観戦専門だ。」
アルノアとユリウスは、リヒターの軽口に思わず笑みを浮かべる。こうして一行は、仲間たちの応援を背に受けながらランドレウスへの旅を続けていくのだった。
リヒターの存在が加わり、道中にさらなる賑わいと安心感が生まれた。彼の言葉や行動は、アルノアにとって新たな気づきを与えるきっかけとなるだろう。
