デジローザ
【神廟・最奥へ――アルノアたち】
古びた柱が立ち並ぶ静謐な空間。水の神廟の奥は、ひんやりと澄んだ空気に満ちていた。
「……ここだ。精霊王が眠っている気配がする」
アルノアが立ち止まり、前方に目を凝らす。水の魔力が濃密に漂い、青白い光が中央の祭壇を照らしていた。
「でも、神聖な気配に、なにか……濁った魔力が混じってる」
シエラの声に、エーミラティスが答えるようにアルノアの内側で囁く。
『破壊の力が、近づいている。いや……呼応しているのか? この場所に眠る“何か”と』
その言葉に、アルノアは眉をひそめた。
「急ごう。精霊王が見つける前に、外の状況がどうなっているか分からない」
【神廟の外縁――ユリウスたち】
「はあああああっ!」
ユリウスの剣が炎と雷をまとい、黒衣の者に迫る。だが、細剣一本でその猛撃をいなし、逆に反撃の気配を見せた。
「無駄だよ。お前たちの力は、ただの“表層”に過ぎない」
フードの奥の瞳が不気味な紫に染まる。その背後で、空間が裂けるように歪み、“黒い気配”が溢れ始めた。
「……お前、まさか、封印を開く気なのか?」
ヴィクトールが問いかけた。霞滅の者は笑う。
「気づいたか。だがまだ足りない。この地に眠る“核”を手に入れることで、我ら霞滅は破壊の力を完全なものとする」
「……それを、通すと思うなよ」
ユリウスは血を流しながらも、なおも立つ。隣でリリアンが防御障壁を張り直し、仲間たちは死力を尽くしていた。
【神廟・中心部――アルノアたち】
「……いた」
祭壇の奥、結晶に包まれるようにして眠っていたのは、水の精霊王だった。その姿は少女のようでもあり、透明な水の鎧を纏った神々しさを纏っていた。
だが、その周囲には黒い“ひび”のようなものが走っていた。
「……既に、影響を受けてる」
アルノアが静かに呟く。エーミラティスの声が焦りを含んで響く。
『このままでは精霊王が……破壊の力に呑まれるぞ!』
「止めなきゃ……ユリウスたちとの約束だ、絶対に!」
シエラとアルノアは、精霊王の保護に向けて準備を始めた――。
【神廟の外縁――ユリウスたち】
戦況は激化していた。
「はあ……っ、はあ……っ、こんな……バケモノが、一人だけって……!」
リリアンが息を切らす。黒衣の者の攻撃は次第に苛烈さを増し、ユリウスたちは持ちこたえるのがやっとだった。
「……だが、俺は……ここを通さないッ!」
ユリウスが叫び、再び魔力を限界まで練り上げていく。
「アルノア……あとは任せたぞ!」
――希望を繋ぐ者たちの決戦は、まだ終わらない。
⸻
【神廟の外縁・戦場――ユリウスたち】
リリアンの結界が砕け、砂塵が舞う。その中から、黒衣の敵がふらりと姿を現した。
「……あれは……女?」
裂けたマントの下から現れたのは、長い黒髪と鋭い紫の瞳を持つ女。その体格は華奢でありながら、纏う魔力は戦場を圧倒するほど重く、鋭い。
「名乗っておこう。霞滅の5柱、“崩鋼”のデジローザよ」
声は低く落ち着いており、冷たい氷の刃のようだった。
「……だったら俺たちも、全力で応えないとな!」
ユリウスの魔力が一気に跳ね上がる。多属性の魔力が渦を巻き、彼の体を包む。
「全力を尽くす!」
《元素覇導》
ユリウスは魔力解放をして覚悟を決める。
雷のように走り出すユリウスに続き、ヴィクトールの周囲にも力が膨れ上がる。
「ふふ、やるではないか。我も少し、本気を出すとしよう」
デジローザが手を掲げると、空間が裂け、黒い結晶の短剣が2本出現する。
「アルノア……今は、こいつを止めることが、俺たちの役目だ!」
【神廟・中心部――アルノアたち】
水晶のような繭の中で、少女の姿をした精霊王が苦しげに震えていた。
「……命が……溶けてる……!」
シエラが魔力を注ぎながら、顔を強張らせる。
「周囲の魔力の侵食が進んでる。抑え込んでいた破壊の波動が、漏れ出してるんだ」
アルノアも結界を重ねながら、眉間に皺を寄せる。
エーミラティスの声が鋭く響いた。
『このままでは、“彼女”が暴走するぞ。破壊に呑まれ、精霊王としての理を失う』
「……さっきからしている衝撃きっとユリウス達だ……頼む……!」
思わず、アルノアは心の中で叫んだ。
(その敵をここに来させるな――!)
【神廟の外縁・戦場】
「燃えろッ!!」
ユリウスの刃が燃え上がり、雷と火をまとってデジローザに斬りかかる。
「無駄だと言ったはずだ」
デジローザが指を鳴らすと、地面から黒い杭が突き出し、魔力の刃を受け止める。
その隙を突いて、ヴィクトールも魔力解放をする。
《ソルヴァナード》
地が陥没し、光属性の衝撃が周囲を吹き飛ばす。しかし――
「……悪くない。だがまだ、“私の核心”には届かない」
黒い双剣が振るわれ、圧倒的な速度でヴィクトールの肩を裂いた。
「チッ……!」
「抑えきれなければ、このまま私は封印を破りに向かう。そして、君たちの希望は途絶え――その命を終えるだろう」
その言葉に、ユリウスの瞳が燃え上がった。
「ならばなおさら……絶対に、ここは通さないッ!」
魔力と魔力が激突し、神廟の外では激戦の咆哮が鳴り響いた。




