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塔の守護者

カラド・メギア──塔の深部を守る古代の守護者。アルノアたち《白光の環》は、その威容と強大な力にすでに一度対峙していたが、真なる試練はここからだった。


黒に煌めく甲冑が軋む音を響かせ、カラド・メギアが静かに手を掲げる。空間が脈動した。直後、塔の一角が砕け、世界の構造そのものが異常を来す。


「領域展開──《時結晶領域》」


空が砕け、地が反転する。重力の方向が揺らぎ、上下の概念すら曖昧になる中、世界は一面の結晶に覆われた。その輝きは美しくも冷酷で、まるで時間そのものが凍結したかのようだった。


「……! 空間がおかしい……! 時間の流れまで歪んでる……ッ!」

「精霊たちも驚いている!」


シエラの叫びに、リヒターが風をまといながら応じる。


「俺の魔法も遅れてる……時の結晶に干渉されてるんだ……!」


カラド・メギアはこの空間でこそ真価を発揮する。時間と空間を制御する“解放状態”。それは神の如き存在と戦うために試される者だけが受けることを許された“超越の試練”だった。


白光の環の面々は互いに連携を取り、カラド・メギアの攻撃を凌ごうとするが──それでも一撃一撃が重い。


シエラの精霊術が、リヒターの風の奔流が、アリシアの大地を穿つ斧撃が、いずれも本来の鋭さを失っていた。時の歪みによって、術の起動が遅れ、力の伝達が鈍る。


「このままじゃ、誰かが……!」


アルノアの胸に焦りが募る。彼の白き魔力すら、この領域では精度を欠き、相手の速度に追いつかない。


その時だった。


──ズン、と世界の底から何かが響くような感覚。


脳裏に焼き付くようなイメージが走る。否、それは映像ではない。音でもない。感情と記憶が、混濁しながら溢れ出してくる。


白き世界に立つ青年──彼の目に映るのは数多の仲間。神のような存在に挑む者たち。その中心にいたのは、勇者と呼ばれた者。

そしてその隣にいたのは……今、アルノアと共に戦っているエーミラティスだった。


「これは……僕の記憶じゃない……? でも……知ってる……」


勇者の記憶。アルノアの中に眠っていた何かが共鳴する。塔に選ばれた者の“継承の系譜”が、試練によって揺さぶられ、彼の精神と肉体を進化させようとしていた。


彼は思い出す。孤独だった日々、戦えなかった自分。だが、仲間と共に力を得て、今ここに立っている自分がいる。


──勇者は一人ではなかった。

──だからこそ、アルノアもまた、一人で戦う必要はない。


「そうか……僕は、僕だけの力で戦ってたわけじゃない。みんなと共にあったから、ここまで来れたんだ……!」


目を開いたアルノアの身体から、白き魔力が光の柱となって迸る。


だがそれは今までの純白ではない。


その魔力の核は白金色──過去の勇者が纏った力、あらゆる魔力の理を超えた究極の純度。

「白金の魔力」が、アルノアの身体の内側から芽吹くように展開された。


「皆、離れてッ!」


叫びと共に、空間が光で満ちる。カラド・メギアの結晶世界に、ひびが走った。


アルノアは飛び出す。時の歪みを超えて、重力の軛をも打ち破る。


その一撃は、確かに“超越”の名にふさわしいものだった。


白光の剣が走る。


その軌跡に、シエラの精霊術、リヒターの風刃、アリシアの斧撃が重なる。


彼らの絆が光の帯となって、領域発動状態のカラド・メギアを穿つ。


そして……


カラド・メギアの動きが止まり、その場でゆっくりと跪くように、領域の力を失っていく。


結晶の世界が崩れ去り、塔の空間が静かに元に戻る中、アルノアの白金の魔力はまだ微かに残光を放っていた。


重い空気に包まれた空間で、カラド・メギア――幾千年の時を塔の奥で守護者として在り続けた存在が、静かに剣を地に下ろした。


「……その力、意志、そして仲間への信頼……確かに見届けた」

声音は低く、だが敬意に満ちていた。


長く封じられていた“破壊神の因子”と向き合い、怯まずに立ち続けたアルノア。そして彼を支えた仲間たち――《白光の環》。彼らの絆と、魂の強さを見た守護者は、自ら膝をつく。


「我が役目はここにて終わる。継ぐがよい。勇者の名を。そして、誓いの灯火を」


カラド・メギアの手から、淡く白金色に輝く“紋章”が浮かび上がった。それは人の魂に刻まれる、特別な存在としての証――“勇者の証”である。

その光がアルノアの胸元に吸い込まれるようにして染み渡っていく。


眩い閃光が収まった時、アルノアの魔力は一段と澄み、確かな輪郭を持っていた。

白き魔力が、真なる継承を果たし、白金へと至ったのだ。


シエラが、静かに涙を拭った。

リヒターも、無言でアルノアの背を叩く。


「終わったな……いや、始まった、のか」

アルノアは小さく笑みを浮かべた。


その瞬間、背後の奥壁に巨大な紋章が浮かび上がり、石の扉が音を立てて開いた。

彼らが立つ30階層神秘部のさらに奥――封印された空間が目を覚ましたのだ。


中は、円形の広間。中心には浮かぶ装置のような構造体があり、そこからは古代文字のようなものが宙に投影されていた。


「これは……塔の……?」

シエラが魔法陣を解析しながら呟く。


読み取れたのはこうだった。


『この塔は、黒き力の封印、抑制する装置である』

『そして、その封印が今、限界を迎えつつある』

『破壊神の力は世界の断層から侵食を始めた。塔はそれに抗う“楔”であり、同時に“牢”である』


そして、最後の一文が、アルノアたちの胸に重く刻まれる。


『塔の監視者たる“守護者”の試練を超えし者にのみ、封印の内奥へ至る資格がある』


「つまり……この先に、“破壊神に関わるヒント”があるってことか」

リヒターが険しい顔で言った。


カラド・メギアが最後に振り返り、言葉を遺した。


「この塔だけでは、まだ全てを語っていない。お前たちは……まだ、試される」

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