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カラド・メギア

塔第30階層──神秘部

沈黙の遺跡を揺るがす咆哮が響いた。


古代の守護者カラド・メギアがその巨体をゆっくりと動かす。石と金属が擦れるような音が空間に響き、黒き霧がその身体を包んでいた。


「来るぞ……!」

リヒターが風の精霊を纏い、即座に構える。シエラは手をかざし、回避と支援のための魔法を準備。アリシアはアルノアの前に出て、鋭い視線を守護者に向けた。


「距離を取って、連携を!」

アリシアが鋭く指示を飛ばす。


その瞬間、カラド・メギアが右腕を振りかざす。

大気が震えるほどの圧倒的な斬撃──いや、空間ごと引き裂くような“波”が放たれた。


「っ……! 来るな!」


リヒターが風壁を展開するが、斬撃は容易にそれを貫いた。

衝撃が遺跡の床をえぐり、瓦礫が宙に舞う。


アルノアは咄嗟に手をかざすと、白金の光が自動的に展開され、彼らを包んだ。


白光障壁(はっこうしょうへき)!」

「岩嶺の障壁がんれいのしょうへき!」


アルノアとアリシアの魔法が炸裂する寸前の衝撃を受け止め、空間に一瞬だけ静寂が戻る。


「防げた……けど、威力が規格外だね……」

シエラが震える息を吐いた。


「アルノア、その光の力、もう使えるのか?」

アリシアが問う。彼女も額に汗を浮かべている。


「ああ、まだ完全じゃない。でも……」

アルノアの瞳に再び白金の輝きが宿る。

「やれることはある」


彼は空中に手をかざし、魔法陣を展開した。


「──《光刃・八連穿》!」


八つの白光の剣が空中に浮かび上がり、一直線にカラド・メギアへと射出される。

だが──


「無駄だ」

守護者の低い声と共に、周囲の空間が歪み、黒い盾のような魔力が展開された。


白光の刃が次々と弾かれる。衝撃波が遺跡を穿ち、岩の柱が崩れる。


すかさずアリシアか追撃をする。


金剛神域こんごうしんいき

「砕けぬ意志の舞。金剛刃舞こんごうじんぶ!」


 鋭い鉱石弾け飛ぶ。無数のダイヤの鉱石の刃が閃光とともにカラド・メギアを穿つ


しかし、それすらも細かい黒い障壁がピンポイントで防御する。


「こいつ……こっちの魔法に慣れてる!?」


アリシアが叫ぶ。


「いや……吸収してる。魔力に反応して、逆算して動いてる」

アルノアが苦々しく歯を噛む。


その時だった。カラド・メギアが左腕を天に掲げる。

黒き魔力が凝縮され、雷のような形をとっていく。


「これは……!」


「全員、伏せろッ!!」

リヒターが叫ぶ。


──次の瞬間、天から黒き雷が落ちた。


アルノアはシエラを庇いながら、咄嗟に《白光障壁》を再展開。

爆音と閃光が遺跡を焼き尽くす。


周囲が再び静まり返った時、遺跡の床には巨大なクレーターが残り、中心にカラド・メギアが静かに佇んでいた。


「これは試練……力ではなく、覚悟を問うもの」


守護者は言葉を放つ。

その言葉の意味を、アルノアは理解し始めていた。


──この戦いはただの戦闘ではない。

真に“勇者”の力を継承するための、精神と存在そのものの試練。


「なら……見せてやるよ。俺たち《白光の環》の覚悟を!」


アルノアが再び立ち上がり、仲間たちが背中に並ぶ。



「容赦はしない。見せてやるよ、俺の全霊を」


リヒターが静かに呟くと、彼の周囲に暴風が渦を巻き始めた。

翠の風が螺旋となり、雷を孕む嵐の槍が顕現する。


「──《天穿の覇風てんせんのはふう》!」

 リヒターが風の遺跡で掴んだ新たなる魔力解放。


一瞬でリヒターの姿が霞んだかと思うと、突風と共に守護者の右腕へと斬撃が走る。

しかし、その刃は黒き防壁に阻まれ、弾かれた。


「まだ……!」


アリシアの足元に神聖な魔法陣が出現する。

彼女の身体が淡く輝き、十字架の紋章が宙に浮かぶ。


「《金剛神域・第二解放》──神威展開!」


まるで天から降りた女神のような気配が迸る。

その神域に入った仲間たち全員の身体に、加護のような輝きが差した。


「ここからが本番だって言ったでしょ」


そして──


「……俺も、出し惜しみはもうしない」


アルノアが目を閉じ、内なる魔力に触れる。

胸の奥から、古代の戦神の声が響く。


(来たか、アルノア)


(ああ。力が必要だ。もっとエーミラティスの力が!)


アルノアの背後に、巨大な白銀の魔法陣が浮かぶ。

彼の身体から眩い光が奔り、空間を照らす。


「──顕現せよ!戦の神」


彼の髪が風に舞い、目が白金の光に染まる。

身体を包む白き魔力が、まるで鎧のように渦をまく。


その姿に、守護者すらも小さく息を呑む。


「……貴様!?、勇者の仲間か」


だが、まだ終わらない。


「私も……行きます!」


シエラが両手を天にかざすと、七色の魔法陣が重なり合い、四体の精霊たちが同時に顕現した。


炎、氷、風、大地──それぞれがシエラの周囲を巡り、魔法の構成を複合的に補佐する。


「《四精霊連環顕現》!」

「皆の属性の魔力が強いおかげで精霊達を呼びやすくなったから……私も戦える!」


彼女の頬に汗が流れる。

だが、その目には確かな決意が宿っていた。


──そして、再びアルノアの意識が内なる世界へと沈んでいく。


光と闇が交わる、あの場所に。


(エーミラティス……)


「来たか。久しいな。随分と馴染んできたようだな、その力に」

「それに儂の力や記憶もお主が破壊神に近づくほどに戻ってきている。」


幻影のように現れたエーミラティスは、かつての戦神の威容をそのままに、彼を見下ろしていた。


「これが……エーミラティスの望んだ“勇者”の姿か?」


「否。私は“自ら選び、抗う者”を望んだ。運命に屈せず、絶望に跪かず、希望を選び取る者をな」


「……なら、俺はまだ間に合うか? 破壊神が目覚める前に、全てを止める力になれるか?」


「答えはお前が見せてみせよ。力は貸す。だが、振るうのはお前だ。……アルノア、“選べ”」


アルノアは深く頷いた。


(わかってる。俺は俺の意思で……この仲間たちと共に立ち向かう)


そして、意識が現実へと戻る。


アルノアの背に、“もう一つの力”が顕現する。


白金と白銀の魔力が交差し、彼の姿に“異質な威圧”が宿る。

それは……かつて戦場を駆け、破壊の軍勢を薙ぎ払った存在――《戦神エーミラティス》の力。


「……その魔力……!」


低く、重く、空気を振るわせる声が結晶の間に響いた。

カラドメギアの両眼がかすかに光を帯びる。


「まさか……お前は……かの者か。かつて勇者と共に在り、数多の魔物打ち倒した“戦女神”――エーミラティス……!」


一瞬、石像のようだったカラドメギアの姿に、人としての感情が宿る。


「エーミラティス。貴様は確かに、破壊神によって滅びたはず……! 勇者と共に破壊の軍勢に挑み、消え去ったと……!」


アルノアの意識の奥から、エーミラティスの声が応える。


『……私の肉体はとっくに滅びた。だが、私は今アルノアの中で“力”として在り続けている。意志をつなぐために。』


その言葉に、カラドメギアは黙する。

彼は何千年もこの階層を守ってきた存在。だが同時に、それは記憶すら風化する時の中で、忘れられていた因縁だった。


「……ならば問おう。今、貴様が導こうとする少年――アルノアは、果たして“勇者の後継”たりえる存在か?」


カラドメギアの剣がゆっくりと抜かれ、試練の“第二段階”が始まろうとしていた。

エーミラティスの力と共にあるアルノアにとって、それは単なる力の試練ではない。

「お前が誰で、何を継ぐ者か」――その“存在”そのものを問われる戦いだった。


一歩、アルノアが前に出る。


「俺は……かつて勇者だったわけでも、神を討とうとした英雄でもない。ただ、未来を守るためにこの塔を登る者だ。エーミラティスの力が宿っているのは、偶然じゃない……でも、それだけじゃない。俺は――俺の意志で戦う!」


その言葉に、エーミラティスがかすかに微笑む。


『……そう、それでいい。かつて勇者がそうだったように、私があの時、傍らにいた理由も……彼が“自らの意志”で神に立ち向かったからだ。そしてその意思はとても美しく人を惹きつける。』


そして、カラドメギアは大地を震わせるように剣を振り上げる。


「ならば見せよ、アルノア! 貴様と、貴様の中に眠る戦女神の力…そしてお前に力を貸すもの達……その全てをもって、我が刃を凌ぎ、己の存在を証明してみせよッ!!」


戦神と勇者の記憶を背負い、アルノアの“真の試練”が、今始まる――。


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