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塔を進む

塔の内部は、外から見た堅牢な外壁とは異なり、空間がねじれ、層ごとに異なる世界を抱いているかのようだった。

一歩足を踏み入れた途端、アルノアたちは光のない広間に立っていた。どこまでも続くかと思われる闇を裂くように、床に微かな紋章が光っている。塔そのものが何らかの意思を持っているかのような感覚に、アルノアは思わず魔力を巡らせた。


「ここが……塔の本当の内部か」


アルノアが呟く。

すぐ隣に立つシエラが、静かに周囲を警戒しているのが分かった。リヒターも風を操り、罠や結界の兆しを探っている。アリシアもまた、地脈を読むかのように手を広げ、目を閉じた。


「やはり普通のダンジョンとは違うな」

リヒターがぽつりと言った。

「……階層を上がるごとに、精霊の力を取り込もうとする痕跡を感じる」


塔には、破壊神の復活に必要とされる『精霊根源』が隠されている。それを守るために、彼ら――パーティ《白光の環》はここに来たのだ。

共に戦うことを誓った仲間たちは、自然と息を合わせ、歩を進める。


ほどなくして、最初の試練が現れた。

黒い装甲を持つ獣たちが、塔の一部から剥がれるようにして姿を現す。動きは素早く、重い。それぞれが異なる属性を纏っているのも厄介だった。


「散開!」


アルノアの指示に、すぐさま仲間たちが応じる。

シエラが炎の精霊を呼び出し、火の鞭のような攻撃で牽制する。リヒターは嵐を纏って獣たちを吹き飛ばし、アリシアは地の魔力で周囲の床を隆起させ、盾を作りながら着実に仕留めていった。

アルノアはその中心で、エーミラティスの白き魔力を纏い、獣たちの動きを封じる魔法を展開する。


『よいぞ、アルノア。馴染んできたな』

エーミラティスの声が脳裏に響く。


応えずとも、彼の力が確かに体に宿っていることをアルノアは感じていた。かつては到底適応できなかったであろう精密な連携と魔法の同時発動。それを今、当然のようにやってのけている。


戦いはすぐに決着がついた。

だが、これは始まりにすぎない。


階層を上がるごとに、試練の密度と危険度が増していくのがはっきりと分かった。精霊に関連する試練も増え、力の質もさらに洗練されている。

そして、ある階層の扉を越えたときだった。塔そのものが警告するかのように、強烈な気配がぶつかってきた。


「何かが来る……!」


先に気付いたのはシエラだった。

次の瞬間、塔の天井から巨大な影が降り立つ。

霞滅の使徒――いや、塔そのものの守護者か。黒衣を纏った異形が、無言で彼らを見据えていた。


「ここで退く気はないよな」

リヒターが笑いながら剣を構える。

アルノアもまた、前へと一歩踏み出した。


「当然だ。俺たちは、《白光の環》だ。」


彼らを照らす白き光の環。その中心で、誰一人欠けることなく進み続けるという誓いを込めた名だ。

仲間たちは言葉なく頷き、心を一つにした。


戦いの火蓋は、再び切って落とされた。


――塔を巡る戦いは、いま始まったばかりだ。



アルノアたちが塔の攻略を進める中、最初に遭遇したのは、フレスガドル王国の直属部隊である「アストラル・ガード」。彼らは王国の命令に従い、塔の各階層を管理し、外部の冒険者たちの進行を監視する役割を担っている。部隊は高度な戦闘技術を持つ冒険者たちで構成され、組織的に塔内の秩序を守っている。そのため、個々の冒険者が対個々の強者を打ち破るスタイルのアルノアたちとは、戦術的にも根本的に異なっていた。


塔のある階層に到達したアルノアたちは、まずこの部隊の先鋒と出会う。アルノアはそのリーダーらしき人物と目を合わせ、静かに言った。


「ここから先に進みたいんだ。私たちもこの塔の秘密を解き明かしたい。」


だが、リーダーの男性は冷徹な目でアルノアを見据え、慎重に言葉を選ぶように返した。


「お前たちのような小規模なパーティーが、この塔を無事に進めると思っているのか?」


アルノアは一瞬ためらったが、すぐにその目に自信を込めて言葉を返す。


「それがどうかしたのか? 我々は私たちの方法で進んでいる。確かに規模は小さいが、その分柔軟に動ける。」

「それにランドレウス国王からも任されている。」


アルノアは強気に言い放ち、その瞬間、リヒターとシエラも周囲に警戒心を持って立ち上がった。アリシアも静かに構え、周囲の気配を感じ取る。その場に漂う緊張感が次第に増していく。


だが、王国直属部隊のリーダーは冷静だった。数秒の沈黙の後、彼はじっくりとアルノアたちを見つめ、口を開く。


「我々は塔の秩序を守る者だ。この塔を進む者は、決して安易に進ませるわけにはいかない。ランドレウス国王から任されているようだが、ここはフレスガドルの塔だ。貴様らの実力を確認しなくてはいけない。無謀に進むのであれば、我々が止めることになるだろう。」


その言葉に、アルノアたちは一瞬警戒を強める。だが、アルノアは冷静に言葉を返す。


「無謀ではない。ただし、何かを成し遂げたいと思っているだけだ。あなたたちの協力があれば、もっと効率的に進めるだろう。」

「平和のために動いているのはどちらも同じだ。」


一度は互いに強い警戒心を抱いていたアルノアたちとアストラル・ガードの間に、次第に理解が芽生え始める。アルノアたちは塔内の構造を解明し、アストラル・ガードは塔内の秩序を守る役目を果たす。


しばらくして、アルノアが一歩前に進み、リーダーに言った。


「私たちがやるべきことは、単なる塔の攻略ではない。ここに隠された真実を明らかにすることが重要だと思う。」


その言葉に、アストラル・ガードのリーダーは短く息を吐く。


「本当に真実を求めているのか? この塔には、我々が知り得ることを超えた何かがある。だが、それに近づけば近づくほど、危険は増す。」


アルノアはしっかりと頷く。


「私たちはそれを受け入れる覚悟がある。」


その後、しばらくの間、アルノアたちはアストラル・ガードと協力して塔内を進んでいく。アストラル・ガードの戦術に従いながらも、アルノアたちの柔軟さを活かした戦術で進行していく。途中、何度か協力し合う場面があり、次第にお互いの信頼も深まっていく。


しかし、進行中、アルノアたちは塔内で不穏な雰囲気を感じる。それはただの敵の存在ではなく、塔そのものが何かを隠していることを示唆している。塔の内部の深層に進むにつれ、アルノアたちは塔の持つ秘密と、それに関わる謎に引き寄せられるようになる。


「この塔には何かがある…」

アルノアはそう感じ、リーダーに語りかける。


「この塔のどこかに、我々が求めている答えが隠されているはずだ。」


リーダーはしばらく黙った後、深刻な表情で言った。


「お前たちが求める答えは、我々が守っているものと関係があるのかもしれん。しかし、あまり深く踏み込むと…」


その言葉が示唆するのは、決して平穏無事に進めるわけではないという警告であった。アルノアたちはその言葉に重みを感じつつ、次の一歩を踏み出していく。


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