2.使い方次第
次の駅で降りたんだけど、会社が休みだっていう連絡が来た。
とりあえず逆向きの電車で家に帰ろうかな。
☆☆☆
「あっお兄ちゃん!おかえり!」
家に帰ると愛しの妹、紬がいた。あぁ、癒されりゅ。
「なんかねー、学校休みになったって。」
「こっちもそうなんだよ。あ、今日なんか変な声が聞こえたんだけど、紬は何もなかった?」
「ああ、異能力がなんとか〜ってやつでしょ?私、『治癒』っていうのがもらえたみたいで、傷とか治せるんだよー」
へぇ、羨まし・・・じゃなくて、すごいな。どれくらいまで治せるんだろう。
「お兄ちゃんこそ何もらったの?」
「えっっと、その・・・・」
(情けないと思われたくないし、言えない!けど、ここで何も言わないとガッカリされないか!?紬に嘘をつくなんてもってのほかだし・・・)
「・・・・・『歯磨き粉』だそうだよ」
「はみがきこ?」
くっ、殺せ!
「意外と多いんだね、そういうの。」
「え?」
「友達も消毒液っていうのらしいんだけど、応用が効くらしいんだよね。お酒っぽいのも作れるらしいよ?だから、そんな悲観的になることないよ、大丈夫!」
天使っ!やさしすぐるって。紬は可愛いなぁ・・・・
「ちょっ、褒めても何も出ないよ、もう!」
口に出てしまったらしい。顔を朱に染めて、目の保養だな。
そうだな、よし。使い方次第でどうとでもなる。どうにもならなくても紬がいれば僕は頑張れる、よし。
☆☆☆
会社は休みだし少なくとも今日は一日中家にいられる。応用、応用だ・・・・。
・・・・・歯磨き粉の応用って、なんだ?
洗面所から歯磨き粉を持ってきた。
ついでにググった。僕は詳しいわけじゃないからね、こういうのは偉大なる先人の知恵に頼るんですよ。感謝感謝。
えぇっと、成分は清掃剤、発泡剤に湿潤剤・・・・
数時間後ー
「できた!」
よしゃーーーーーー!ついに成功やでー!
「なになに?どうしたのお兄ちゃん」
「紬、見てよこれ」
そう言って目の前のものを見せる。
「何これ?」
「透明度を上げた歯磨き粉だよ」
そう、成分だけでなく透明度や水分量までもいじることができる、ということが発覚したのだ。ただ、結構コツがあって難しい。今はなんとか成功させた感じ。
「あ、お兄ちゃん。私も色々できるようになったよ。」
紬曰く、『治癒』は傷を癒すだけでなくリラックス効果があって、腐ったものの鮮度を引き上げることもできるらしい。ついさっきまで死にかかっていたスズメを助けていたんだと。
今は寝ているらしい。
☆☆☆
二週間ほど経った。国が今回の事態を重く見て色々として会社は長期休暇の構えをとっている。紬といる時間が増えるのは嬉しい。
ただ、すこーし困ったことがある。それは──
「お兄ちゃん、お風呂入ろっ!」
これである。紬は高校生になって体も大人っぽく成長してきている。
僕は社会人。紬は可愛い。下手すると塀の中で暮らさないといけない可能性がかなり高い。しかも頭洗って、なんてよく言われたりする。目と思考を逸らすのに精一杯で、かなり疲れる。
「お兄ちゃん、髪乾かして」
「うん」
膝の上に座って髪を乾かしてと甘えてくる紬、可愛い。妹とはいえ可愛いものは可愛いし、可愛いから困る。しかし可愛いから許してしまうし、可愛いから仕方ない。可愛いは正義とはよく言ったものだ。
ちなみに両親は定年退職済みで、毎月紬に不自由がないように、そして快適な老後を送ってもらうために仕送りを送っている。なぜ紬が僕の方にいるかというと、こっちの方が学校に近く、そして紬の『お兄ちゃん家事できないから』という一言が決め手となり、こっちにくることとなった。
──チュンチュン
スズメが一匹紬の肩にとまり、頭をグリグリと擦り付ける。前に紬が助けたスズメのチュン吉(♀)だ。
基本的には紬が餌をやっている。雑食なので肉はどうするんだろう、と思ったが紬が蜘蛛を飼い始めた。放し飼いはやめてほしいと言ったけど、上目遣い+目を潤ませてお願いされてノックアウト。そして今に至る。
ハエとかが出なくなったので助かってはいる。ちなみになぜか初期の頃から生き残ってる蜘蛛がいて、意外と愛着が湧いていたりする。チュン吉が食べようとしたら止めるくらいには。
他と違って真っ白で目立つところに巣を作っておらず、近々名前をつけてあげようか考え中。
性別ってどっちなんだろう、あの蜘蛛。
『蜘蛛 性別 調べ方』で検索っと。ええと、クモの雌雄は触肢の形で容易に区別できます・・・・・・
なるほど。ちょうど寄ってきたので確認。大人しいなほんとに。ふむふむ、メスか。
あれ、この部屋女性率高いな?!ある意味ではハーレムということに・・・・はっ!いかんいかん、紬の前で情けないところを見せるわけにはいかない。
問題:紬って何回出てきたでしょうか