1.異能力『歯磨き粉』
《全ての人間に異能力を与えよう》
電車で出勤中、頭の中に声が響いた。
【異能力『歯磨き粉』を獲得】
続いて、無機質な声が聞こえる。周りを見ると皆戸惑っており、声が聞こえたのは僕だけではないようだった。よかった、ラノベの読み過ぎで幻聴が聞こえたのかと思った。
いきなりでよく聞こえなかったけど、歯磨き粉って聞こえたような・・・・歯磨き粉がどうしたんだろう。
「おい、異能力ってなんだ?」
「お前も聞こえたのか?」
「何、怖い・・・・」
周りがざわつき始めた。異能力?ってのを、獲得したらしい。僕も獲得したんだろうか?確認する方法ってないのかな?
「ステータス、オープンッッ!」
乗客の一人が大きな声で叫んだ。彼の眼前には薄いプレートが浮かんでいて、反応を見るに本当に開けたらしい。
周りがこぞって真似して、能力の名を次々と口にする。強そうなのもあるが、大体が一般的にハズレとされるものや、よくわからないものだ。微風、とか一輪車召喚、とか聞こえてくる。一輪車って何に使うんだよ・・・・
ともあれ、僕も真似して小声で唱える。
(ステータスオープン)
大声だと恥ずかしいし。
〈佐藤健吾 異能力:歯磨き粉〉
え?歯磨き粉?歯ブラシにつけるあの?どんな能力かさっぱり見当がつかない。というかどう使えばいいんだろ。
「水分補給!」
おそらく異能力の名前を叫ぶ人がいる。最初にステータスオープンといった人だ。
発動したらしく、彼はおぉ・・・と声をこぼす。なるほど、少し使ってみようか。
(歯磨き粉)
側から見たら変な人なんだろうな、と思いつつも気になるのだから仕方ない。唱えた瞬間に指先から何かが生まれている。指を動かすと付いてくる。止められないのかな?あ、止まった。
流れ的に今のは歯磨き粉だろう。僕の異能力、使い道少なすぎない?って、電車を汚してしまった!
なんとなく周りを見渡してみるとみんな試してた。よかった、僕だけ怒られるわけではなさそう。
──プァァァアアアアン
あ、駅通り過ぎちゃった!