青くはない春
今日も今日とて太陽は、呑気に白色の光を落とす。
本日はお休み土曜日である。
午後からの用事に備えて、俺は町へと昼飯を求め歩き出す。
てくてく......
─
──
...このファミレス、入ったことないな。よし。
───
────
「──はい、お待たせしました!ホワイトシチューセットです!」
愛想の良い従業員に対して、俺は軽い会釈で返事を済ます。
頼んだ料理が丁寧にカウンターに置かれると、たちどころにシチューの優しい香りが向かってきた。
そのサイドには、甘く香る真白いパンが2つ備えられている。これをシチューに浸すのが良いとのことだが...
(なんか...シチューの量に対してパンが小さ過ぎじゃないか?)
残りは普通に食べなってことだろうが...それにしてもバランスが取れていないように見える。
(まあ、いい)
俺はスプーンを手に取って、なるべく多くの具を巻き込むようにシチューをすくう。
黄ニンジンにヘテロブロッコリーと...これはなんの肉だろうか。
(...まあ、いい)
ここまで割と歩いて、腹もそれはまあ空いたもんで...やや焦り気味で一口に行く。
(...!?)
うまいぞ!?
それだけでは纏まりを持たぬ個性色立つ食材たちが、粘り気のあるのシチューに絡め取られ、一個体としての振る舞いを見せる。
飢えたる俺の食道は、抵抗なしにこれを受け入れる。
そのままの勢いで、次はパンをもっちいいいっっと千切りとり...すっごいモチモチしてるこれ...
とにかくそいつをシチューにつけてみると、
「(ええ...!?)」
思いがけない光景に、少し声が漏れてしまった。
このパン...
ありえないくらい汁を吸うぞ!?
焦ってパンを引き上げるが...たっぷりとシチューを含んだそれは、先とは比にならないほどの重みを感じさせた。
(......)
俺は唾を一飲みしてから、重いその一口を運んだ。
むじゅうっっ...!
(...!!)
野菜と肉の旨味が溶け込んだシチューに、確かな小麦の食感が加わり...!
これほど汁を吸い込んだのに、しっかりと弾力のある噛みごたえを感じさせるパン...
なるほど、あのモチモチはそれのためか!
がしいぃ!モッチィ!!
それから俺の手は止まらず...一手、また一手とパンに手を伸ばした。終いには、いちいち千切るのさえ面倒になったのだ...
ぐおおお!がしいいい!ごおおおおっ
「──輩─」
ごおおおおっ
「──あの、ヒール先輩!?」
おおお...ん?
いきなり声を掛けられ、ハッと我に返ると──
「──あ」
「シラキ...だっけ」
「正解です!」
「ふっふふ、こんにちはー」
「こんにちは...」
いつからそこに居たのだろうか...隣の席には、新入生案内の日に同じ班になった、1年生のシラキが座っていた。
すごく、笑顔で座っていた。
...え、見られてた?俺が必死にパン頬張ってたの...
「先輩ひょっとして、このお店来るの初めてなんですか?」
「そう、初めて...」
「お前は違うのか?」
「私は常連です!」
「へえ」
「おいしいね、ここ」
「ですよねっ!」
「初めて来た人、皆さっきみたいにがっつくんですー」
...見られてるじゃねえか!!!
「ンンッ...!」
「...盗み見とか、性格悪いぞ」
「盗み見だなんて、そんな!」
「先輩を見つけたときから、何度も呼びかけてたんですけど」
「...マジ?」
「マジです」
「...」
俺は押し黙るしかなかった。
彼はぐいーっと氷の入った水を飲みほし、カランと音を立てて置く。
それからこちらへ向き直り、
「先輩...昨日は本当、ありがとうございました!」
などと、突然に礼を言う。
「...ああ、あれの事?」
班でいたときに、俺がしたフォロー(?)のことだろうか。
「私が魔法を使えないって言って...変な、空気になっちゃったとき...先輩助けてくれたじゃないですか」
「うん...」
「まだ魔法の確定していない私には、無限の可能性があるんだよって!」
「言ったね、そんな事」
「その言葉が、私すっごく嬉しかったんですよ!」
彼女は瞳を輝かせ、若い熱視線をこちらへ送る。
「そうなんだ」
「なんかもう...まだ魔法が使えない自分が、むしろ誇らしくなったっていうか、なんて...!」
「へえ」
「...なんか、塩ですね?!」
シラキは目を丸くして言う。
「...あの時のような態度には期待するなよ」
「あれは初回サービス。こっちが素の俺だから」
冷たく彼女を突き放す。
「ええっ、そんな!」
新歓と同じ熱量で対応するのは、俺の精神に負担がかかりすぎる。
「...ああでも、素で接してくれてるっていうのは、それはそれで嬉しいですねー」
「...お前の、それは、何?」
俺はシラキの目の前の皿を指す。
「これはランチョンマトンですね」
「んぐっ」
彼女はフォークで肉を刺して口に突っ込む。
「もっもっ」
小さく細並びな彼女の歯でも、ずいぶん容易く噛み解けている。
よほど柔らかい肉なのだろう。
「...おいしいんですよ」
唾液で溶かした肉を嚥下して喋る。
「週に一度は食べたくなりますね」
「そんなに?」
彼女の食べ様に興味を持ちつつ、俺も食事を再開する。
もっもっもっ
がしっ もっち!
「正直な話...」
口目の合間に会話が挟まれる。
もっ、もっ、もっ、ごくり。
「...初めての高校生活ってのもあって、色々不安だったんです」
「私なんかが、皆とうまくやっていけるのかなって」
「いけてるの?」
「はい!今のところは」
「新歓で同じ班だった、ミーキちゃんやカラシャやトシキ君とは、それきっかけで仲良しできてます」
「順調だな」
もっち、がぶり。
もっ もっ
「またダイキ先輩ともお会いしたいです」
「あいつは忙しいのか暇なのかよく分からない奴だよ」
がしい、もっち。
もももっ
「以前の私は、『早く魔法を使えるようにならなきゃ!』...って、心の中で凄い焦ってたんです」
もっち!
「...そういう風にさ」
「引け目を感じて生きるのは、つらいよな」
もっ もっ
「ええ、本当に!」
「周りの子たちは皆使えていたので...」
「俺が昔いた所じゃあ、使えない奴のが多かったかな」
「ああ、けっこう地域差ありますよね」
「うん...」
ぐにっ
がっし!
「...今は、そんな焦りも無くなって、落ち着いて生きられるようになって...すごく幸せな気分です」
「先輩の、おかげなんです」
「......」
もっ、もっ
もっちもち。
「──ああっ、魔法を使えなくても誇らしいというよりは」
「現状の自分にも納得できるってだけで、それはそれとして魔法を使えるようにはなりたいんですよね」
「...へえ」
もももっ
がしっ...
...
『魔法』
『序列』
『差別』
「......新鮮な体験が必要?」
「はい、新しい事は色々と試してみたいですね」
「それが魔法の発現に繋がるかもですし」
「...この後さ、平原に用事があるんだ」
「平原...ですか?」
「デルマナ平原っていう、魔物とかがいる平原なんだけど」
「行ったことある?」
「いえそんな、魔物が出るような所には」
「じゃあ行ってみるか」
「......ええっ!!?」
彼女が食べる手を止める。
「そんなの、いいんですか?!」
「七咲西高校の学生証は、ギルドの仲介も無しにそういう所に入れる通行証になるんだ」
「...ほんと多様性を口実に、なんでもしますねこの学校」
「──というか通行許可の話じゃなく...行けるなら行ってみたいですけど、私なんかが行って危なくないんでしょうか?!」
「俺と、もう一名、優秀な護衛人がいる」
「!」
「安全に良い物が見られるよ」
「...!」
「行きます、行かせてください!」
「よし、これ食べ終わったらな」
「はい!」
もっもっもっもっもっもっ。
話が決まってすぐ、彼女は勢いよく肉を頬に張り詰めた。
「......」
───親切を、出し惜しみしない!───
...リントが、いつか言った言葉。
...だがこれは、果たして親切なのだろうか。
もし彼女の魔法が発現して...もしそれが、使えない魔法だった場合は...
「...」
もっち!
───
──
─
「──到着だねえ」
「へえ、お疲れ様」
初老のタクシー運転手が、俺たちにぺこりと頭を下げる。
「「ありがとうございました」」
俺たちは金銭を払うこともなく、ゆるりと後部座席から外へ出る。
七咲西高校の学生証、これがあるとタクシー代はいらない(ノーム国内限定)
ザッ...
「あっ、来た」「ヒール...」
デルマナ平原前に降り立った俺たちを、二名の男女が出迎える。
「...と......?」
男の方は、シラキを見て不思議を顔に出す。
「ああ、私はシラキです!」
彼女が慌てて頭を下げる。
「俺らと同じ高校の新入生。見学希望だって」
「いいよな?」
「わお、熱心ね!もちろん良いよ♡」
女の方が感心を示す。
「私はさやか。3年生...てか、ここの3人全員がそうだね」
さやかが俺たちを見回す。
「うん、ヒールとサヤカが大丈夫そうなら、いいかな...ぼくはお荷物だから」
男が穏和な面持ちに戻る。
「ぼくはホシ。よろしくね」
「よろしくお願いします!」
ここで今日のメンツ4名全ての挨拶が終わった。
「じゃあ、もう行っちゃいましょ!」
ザッ
ザッ...!
「ありがとね、ぼくの趣味を手伝ってくれて」
平原の内へと歩き出しつつ、ホシが皆に向けて感謝を口にした。
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