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【ネタバレ】ダイキ君はさやかちゃんの事が好き!!

 ──元々は、ヒールとさやかの2人だけ。


 七咲町から電車で数駅の距離、ハクスラ市に新設された科学館。

 彼ら2人だけで行くはずだった──



「──ざけんなッ!!!」

「オレも行きたいに決まってんだろ!!」

 昼中の教室で、ダイキがヒールに歯軋り詰め寄った。



「...??」

「何が決まってるって...?」

 ヒールは彼に休日の予定を聞かれて、素直に答えただけである。



「いやあ...オレも気にはなってたんだよ。ハクスラの。いやマジで」


「ああ...」

「...一緒に行く?」

 彼は珍しく他者を誘った。ダイキの熱圧に押された、受動的な誘いであるが。



「ッしゃあ!!行こうぜ!!」

 ダイキは大げさな身振りを取る。彼が大柄のため余計に目立つ。

「現地集合か?!駅前か?!」



「今すぐ行くかのような気合いだな」

「明後日の話だぞ...?」

 ヒールは自身との温度差に困惑していた...



「...ねえ」

 ヒールの横で課題を解いていた、穏和な面の男が口を開く。



 ペンを音無くそっと紙に置いた。


「ん」

 ダイキらの目が彼に向く。



「そこ、ぼくも行きたかったんだ」

「着いていっていい?」

 彼の名はホシ。密かに彼らの会話を耳に入れていた。


 

「いいよ」

 ヒールは悩むことなく受け入れた。



「ありがとう」

 そしてホシは柔らかい笑顔を向ける。



 まだまだ人慣れしてないヒールだが、おとなしいホシとはそこそこ打ち解けていた。



「いいね、ホシも!」

「オレらで科学の不思議を体験しようぜ〜!!」

 ダイキはさやかと外を歩ける喜びでおかしくなった...




 ...ように思われるが実は平常もさほど変わらない。




「──なに、科学の不思議って?」

 口の端を薄うく上げながら、リントが教室に入り話に加わる。



 ダイキの声は廊下まで届いていたのだ...


「...へえ、僕も行きたい!いい?」


「いいよ」

 同じ言葉でまた受け入れた。



(俺、さやか、ダイキ、ホシ、リント)

「...5人か、結構増えたな」

 さやかはヒールたちとは別のクラスであるので、当然まだこの事を知らない。



 相方に確認も取らず勝手に参加者を増やすのは、基本的に無礼であると知っておこう──



「──ざけんな!!」


「「!?」」

 ヒールとホシの席に固まった4人が、同時にその声へと振り向いた。



「...ミドリちゃん」

 リントが目を大きく広げたままに言う。



「なにウチ抜きで騒がしくしてんのっ...さ!!」

 怒声の声の主はミドリという女子。

「──ウチも入れてよ!!!」

 


 かまちょである。


「...いいよ?」

 ヒールは勢いにやられた。




 結果6人で科学館ツアー。


 この突然の増員を知って、さやかは「わお」と少し驚いたが「うん、オッケー」で済まされた──



 ───

 ──

 ─


 ツアー当日。


「──よう、ヒール!」


「ダイキ」

 ヒールの住むアパートの2階から、彼は路上のダイキに呼びかけた。



「皆は?」

 ダイキはヒールに語りかけつつ、固い階段を上っていく。



「お前で最後」

 彼はそう言って招き入れた。



 ヒールが扉を開けてみせると、中の様子がダイキの目に入る。


「おっ、お前んちメッチャ綺麗!」

 

「だろ?」


「マジ土足で上がるのが忍びないわ(笑)」


「土足で上がるな!!!」


「ッハ!!」

 ダイキは彼を笑い飛ばしつつ、丁寧に靴を脱いで上がる。

「ちっす」



「ダイキ、おはよっ」「おはよう」「よっ」「遅くね〜?」

 上がった先の狭い部屋の中で、残り4人がダイキと挨拶を交わす。



「ええっ、時間通りだろ?」


「ウチより遅いからダメで〜す」


「凄いルールだ...ミドリちゃんダイキの次に遅かったのに」

 リントが隣からミドリを刺す。



「お前らそんな早く来たのか?」


「ぼくはワクワクしちゃって、15分前に来ちゃったんだけど」

「さやかさんが既に居たんだよね」

 ホシがそう言って彼女を見る。



「うん、私なんて3時間前にはここに居たからね!」


「それは迷惑だろ...」

(オレだったら大歓迎だけど!)



「──3時間は嘘だけど、こいつ1時間ぐらい前に来やがった」

 戸締りを済ませたヒールが来て言う。



「ごめんね、楽しみで早起きしちゃってヒマで!」

 平謝りするさやかだが、それにヒールが怒る事はまずない。



 今回の科学館ツアーには、さやかが大きく貢献しているからだ。


 電車で行くにも少し遠い。

 そこでヒールとさやかが思い付いた手段──



「──まあ揃ったし」

「手、合わせて」

 ヒールが皆の前に片手を差し出す。



 続いて他の5名の手が、彼の手の上やら横やら下やらに重なる。


 これにより、その場の全員がヒールに触れた状態になった。



 それを確認したヒールは、合図も言うことなく唐突に──


  パッ



「「!!」」


 ──そして彼らは、目的の科学館()()()()()()()に転移した。



「「おお」」「転移ってこんな感覚なんだ」「パッて感じだな」

 各々が小さく口を開く。



 暗がりだからか声が控えめだ。


「ひゅう、着いた!」

 転移後さやかはすぐに身を引いて、自身の背中側を皆の視界に入れないようにする。


 

 念を押し手で更に()()を伏せる。隠したその背の骨盤には、奇怪な網目の紋様に──



「──はい、コレ!」

 彼女は念力を用いて、路地裏奥に隠された全員分の服と財布を取り出し、配る。



「おっと」「ありがと!」

 彼らの服と財布を受け取り、それらを事前に路地裏に置いておいたのは、さやかの召使である。



「ん」「さんきゅ」「ありがとう」

 

「さ、着替えた着替えた!今誰かに見られたらヤバいよ〜」

 彼女は恐ろしく裕福な家庭であった。



「よし」「うわ、はっや」

 ヒールが変面の如き速さで着替えを済ます。



 周りも感化されて急ぎ出す...



(...こいつら、恥じらいってもんがねえのか?)

(え、興奮...ってか、クッソ恥ずかしがってんのオレだけ?!)


 ダイキは女体を直視するのを避け、今にもいきり立ちそうな感情を隠すため全速力で着替える。



 もちろんダイキだけではない。



 裸体には慣れっこのヒール。

『仕方の無いこと』と割り切ったリント。

 新鮮な体験を純粋に楽しむさやか。

 

 以上三名の異常者を除けば...



(...あんまり見ないようにしなきゃ)(ひい〜!!)

 平静を装っているだけで、まだマトモな感性を持つ者もいた。



 やがて皆が準備を終える。


「うし、行くか〜」


 そうして、小旅行が始まった。



 長い列に並び、入場券を得る。下らない話で間を繋ぐ。


 館内部は階層ごとにテーマが定められており、同階では更にそのテーマを細分するように複数の部屋が用意されている。


 受付を通り螺旋の階段を上がる。


 2階のテーマは『人体』。

 そして『骨・筋肉』『内臓』『脈』『体細胞』などそれぞれの小テーマを抱えた幾つもの部屋が、階段から円形に広がる廊下で繋がっている。



 皆は移動こそ揃ってするが、常に6名で固まって観光するわけではない。


 ある部屋に着いたらそこからは自由。

 各々が見たいもの触れたいものを楽しみ、概ね満足したらば集まって、また揃って別の部屋に向かう。



 そうして円形の廊下を一回り巡ったら、一つ上の階層へ行く。

 

 これを繰り返す1日となる──



「──見て、骨並び替えゲームあるよ」


「骨全部バラバラじゃねえか...ムズくねえ?」



(──へえ、そこの筋肉ってそうなってるんだ)



「──お、体の成熟の過程だって〜」


(男女の肉体が、裸で描かれている...気まずい)



「──ねえ、早く次いかん?」

「ウチ、内臓とか見るとゾッとする」



「ミドリ...は狩人になるんだよな?」

「そんなんで狩りとかできるのか」



「ウチは()()だからっ」

「狩りだけが狩りと思うなよ」



「でもお前、戦闘系の魔法なんだろ?」


「あれは気い引くためにテキトー言ったのっ」


(かまちょだ...)



 ...3階のテーマは生物。


 珍しい動物の剥製や、太古の生物の化石。


「──そもそも、化石ってなんなの?」

「骨なんでしょう?なんで石?」



「石の中から見つかるからじゃないか?」


 違う。


 骨や殻、葉などの物質に周囲の鉱物成分カルシウムなどが染み込み、形そのままに元の物質と置き換わった物である。

 化石は(ほとんど)石である。


 

「──犬だ」

「大きい」



「オオカミじゃね」


「オオカミも犬でしょう」


 ...狼は犬の祖先である。



(──わお、クジラの化石)

(いい配置してるね〜センスあるう)



 4階は、化学の祭典。


 著名な科学者の代表的な論文の要約。

 化学の発展の歴史。

 化学の不思議体験コーナー。

 


「──あ、この人知ってる」

「なんかすごい人」



「なんかすごい人...」



「──これ、授業でやってるとこじゃない?」


「ほんとだ」

「全然今の授業分かんないけど(笑)」



(──ふうん、へえ、ほう)



(──さやかが真面目に論文を読んでる!)

(2人で話せるチャンスなんだがな〜邪魔しちゃ悪いかな)



(ダイキがさやちゃんをず〜っと見てる)

(...バレバレだおめえ!)



「──む、いい匂い。ベンジルアセテート」

「バニリン、安定した香りだね」

「これも好き、シンナムアルデヒド」



「...横文字言うの楽しくなってない?」



 5回は物理。6階は産業と続いていくが...



「──ごはん!」


 ここで一旦昼食の時間。



 2階の部屋の内の2つには、更に奥へと続く通路がある。

 どちらもその奥には、大きなフードコートが。


 フードコートへ続く2つの部屋は、互いに対角の位置にある。


 片方は唐揚げやスイーツといった軽食コーナー。

 もう一方はしっかりとした昼食コーナー。



 ヒールたちは昼食コーナーへ続く部屋を通った。

 育ち盛りは軽食じゃ止まらない。



「──おいしい」

 ホシは平凡な定食を口にする。



「うん。(...普通だな〜)」


 この建物のメインは科学なので、料理にはあまり力を入れていないのだろう。


「科学だから、料理も科学っぽいのかと思ってたんだが」

「割と普通だな」



「科学っぽい料理て、何さ」


「かけると色が変わるふりかけとか?」


「着色料じゃん」「料理じゃねえし」



「じゃあ【規制】かな」


「化学調味料!」


 彼らは囲んで食事を楽しんだ。



「──行こっ!」

 さやかが率先して席を立つ。



「おう...思ったより量が多かったな」

 ダイキも彼女を追って立つ。



「ああ、満腹だ...」


「ほんと?」

 ミドリがそんなヒールの腹を叩く。



「なにすんだ、ホントだって!」

 彼がうざったらしく手で払う。



「ひひっ」

 彼女は揶揄うような笑顔で離れる。



「あはは」

 リントとホシがそれを見て笑う。



 ツアー再開...


 彼らは満腹な気持ちで物理のフロアへ。



「びりびりびり」「わああ」「こら、触っちゃダメ」「ママ〜!」



(...人が多いな)

 栄養で満たされたヒールの耳が、周りの音を広く捉える。


 

(...雑音は遮断)

 ヒールは認識にフィルターをかけて、彼にとって余計な情報を省く。



「これはなんだろう」


「光の速さを確かめるヤツっぽいね」


 けれど隣のリントの事はフィルターにかけていなかった。



「びぁあああ」「走っちゃダメ」「ママ、これやりたい!」「やりたいけど、4人用だからできないね」「パパ〜...」「パパ入れても3人だから」(そ〜っと)「触っちゃダメゆうとるでしょ!」



(うるさいな)


 彼の感覚器官が優れているだけで、実際空間全体は静かである。


「ヒール、ちょっとごめんね」

 そう言うとリントは彼の元を去る。



「...?」

 ヒールが彼女の行き先を目で追うと、



「僕もやりましょうか...?」「あっ、いいんですか?」「ありがとうございます」「ママ〜!」「良かったね、できるよ」



 彼女は3名様の家族連れに向かい、4名を要するゲームに加わった。



(......)


 空を探査するゲームだった。


 ゲーム中では空に関する知識が所々でテロップに出ながら、彼らはキャラクターを空に飛ばし飛び回る...



「...お、それは何?」


「!」

「水の波紋が見れるだけっぽい」



「へえ」


「...もうゲームは終わったのか」


「うん、()()()楽しかったよ」

「ヒールもやる?」



「...別に」

 彼はじっとりとリントを見つめる。



「ん?」


「よくもまあ...知らん家族に割って入れるよな」

「意外とって事は、別にあのゲームに興味があった訳でもないんだろう?」



「あはは、でも困ってたっぽいからね」

「『親切を出し惜しみしない』!...ってのが、僕の座右の銘だからっ」

 彼女は胸を張ってそう答える。



「...なるほど、お前らしい」

 ヒールはリントと出会った日を思い出した。



「えへへっ」


 ほほえみ合う2人の元へ、さやかたち4名が集まって来る。



「次行こ」 


 彼らはぬるまに6階の産業へと向かう。




 産業の、発展の歴史。


 それはおそらく...あなたからすれば、飛び飛びの歴史に感じるでしょう。



「──車だ」

 移動の効率を遥かに上げた発明。



「こんなの、よく思いつくよな」


「車は、確か()()じゃないっけ」


「そっかあ」



 人間の魔法は遺伝子に依存せず。

 どんな魔法を持って生まれるかは、完全に神の気まぐれなのだ。

 

 それ故に、こんな奇跡も起こりうる。




 自動車の原型にあたる機構を生み出す魔法を持って生まれた人。

 冷蔵庫の作り方を閃く魔法。

 コンクリートを生み出す魔法。

 医薬品に変身する魔法。



 このような奇跡が科学の発展を助けた。

 

 そして、それがこの世界の歪んだ産業構造を生み出す。



 自動車があるのに自転車がない。

 テレビがあるのに電話がない。

 CDがあるのにラジオがない。

 

 結果だけを魔法で得たがため、発明の過程が失われのだ。


 発明は偶然から始まるとはいうが、しかし──



「──ずるいよなあ」

「オレもこーいう魔法持って生まれたら、それだけで億万長者だったのに」



「でも発明って、自力でした方がなんかカッコよくない?」


「そーか?」


「なんか、カッコよくない?わかる?」


「まあ分かる。やっぱ才能より努力だよな」

「オレは才能あるし努力もしちゃうけどな!」



「わお、サイコーじゃん」



(アイツら、盛り上がってやんの〜)

(流石のウチでも割り込めないわ...ホシにでもちょっかいかけに行こ〜)



 ......この世の歪みを憂う必要はない。



 この世を生きる彼らが、明るく過ごせている内は。

 


「──...」「──...」(──...)

 その後も彼らは螺旋の階段を上がり...


 

「そろそろプラネタリウム始まっちまうぜ」


「お、行こっか」


 ハクスラ科学館は螺旋階段を軸として円柱状に伸びているが。


 最上部には半球形のドームがあり、そこがプラネタリウムになっている。


 1日に4回開かれる。朝の部、昼前の部、昼後の部、夕方の部。


 じきに夕方なので彼らは向かった──



 締め切られ、暗闇に満ちた空間。

 予刻を過ぎればやがて()が光りだす。


 それは創られた空であると、皆は当然そう了解しているが、リアリティは認識を圧倒した。



 実はかなりの都会な七咲町では、おいそれとお目にかかれない満天。


 満天、満点の星空だよ。後にリントはそう語った。



 彼らは静かな感動を分かち合った──





「──楽しかったね」「うんっ」「...もう帰りか」


 彼らは再び路地裏へと歩いていき、ハクスラ科学館を振り返る。


「オモロかったなあ」「ね」「外見が明らかに男性器なのを除けば最高の科学館だ」「何が明らかだよ」「ロケットだろモチーフは」


 

「知らない事、いっぱいあるなあって」

 服を畳み、同じところに隠す。



 皆の手をヒールの手に重ねる。



  パッ


 情緒もなく彼らの姿は消えた。



 路地裏の小さな隙間から、空高く科学館が見える。

 彼らの思い出のひとつとなった。





「じゃあね」「おつかれー」「あんがとなー今日は」

「またどっか行こうね〜」



「はい」

 ヒールは玄関口から皆を見送る。



 見送ってから後ろを振り返った。リントが帰り支度を整えている。


「よしっ」

 それもすぐに終わったようだ。



「...朝にも思ったけど」

「なんで荷物なんか持ってきてんのさ」



「うっ」


 生物しか転移できない以上、荷物があっても向こうには持っていけない。



 ヒールはそれを指摘した。


「行くまでのちょっとの時間でも楽しめるかなあって」

「ほら、おやつとかトランプとか...」

 ぽぽいっと、カバンから用意を取り出して見せる。



「はあ」


「あ、せっかくなら要る?おやつ」


「いらねえよ」


「へへっ」

 彼女は苦笑いをして立ち上がる。



「...」

 それから部屋をくるりと見渡す。

「ヒールの家...てか部屋?すっごいキレイだよね」



「まあな」

 彼は少し自慢げにニヤつく。



「ううん...」

「キレイすぎて、生活感を感じない〜というか」



「...別に良いだろう、俺の身の周りのことなんか」

 彼はそう言って話を逸らす。



「ヒールがちゃんと過ごせてるなら良いんだけどねっ」

 彼女は玄関口の方へ寄る。



「...今日のさやかちゃんとのデートってさ」

「ヒールの方から誘ったの?」



「先に誘ってきたのは向こうだな」

「場所を決めたのは俺だけど」



「ふうん」

 彼女は帰る向きの足を止め、ヒールの方につま先を向ける。



「ねっ」

「もうずいぶん、人付き合いにも慣れたんじゃない?」



「最初よりはな」

 彼はリントと向き合い正直に話す。

「...それでも、まだ怖くはあるかな」



「人が?」


「ああ」


「う〜ん...」



 彼女は首を傾げて言う。


「...テマリ町のさ、ヒールが元いたギルドの人たちの方がずうっと怖くない?」


「...」


「でもあそこの人たちには、全然怖がってなかったよね」



「...あのギルドの奴らは、分かりやすく悪だろう」

()()()()()()だと分かっていれば、むしろ安心して敵視できる」



「そうねっ」

 傾聴する彼女に対して、彼は壁にもたれて続ける。



「...ここのヤツらは、そうじゃないからさ」

「良い人そうに見えるからさ...むしろ安心できないんだ」



「...」


「多分、信じることが怖いんだと思う」


「...そっか」


 恐らくは彼が今、最も信頼している彼女だからこそ。ここまで自分を語れるのだろう。



「もしくは、裏切られるかもとか...んな下らないこと考えてる自分が...嫌でさ」

 

 それはまだ、自分自身のことも信じられていない証なのだろう。



「...でも、ヒールはどんどん良い感じになってるよ」


「そう?」


「うん、これからもっと良くなっていくよ」

「皆と仲良くなって、人間が大好きになっちゃうんだ!」



「それはそれで嫌だな...」


「あははっ」

 彼女は朗らかに笑って、ようやく玄関を後にする。



「じゃあねっ」「じゃ」

 彼は去り行く彼女を目で見送る。



 それは去り行く彼女も同じだった。

 去りつつ彼を静かに見つめる。





(ほんとうに、これからもっと皆と仲良くなるんだろうなあ)

(いい...なあ)


 角を曲がり、遂に彼の視界から離れる。


 


(どんどん周囲に溶け込む君を見て...僕は...) 

(..........)



 彼女は重い足どりで歩く。


(僕は、少し...)



 彼女は うつむいた


 赤い夕日が 彼女の後ろ髪を照らし 

 彼女の顔に 暗い影を落とした





気に入っていただければ、幸いです。

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