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スーパー由美子ドライブ

 ザッ 

   ザッ...


 ...この世の至るところにありふれており、あらゆる物質をすり抜けるという非実的存在『魔素』。


 それを体内で半実的なエネルギー『魔力』に変換できる生物を『魔物』という。


 この定義に当てはめるのならば、人も魔族も魔物のはずだけど...どうやら知能が極端に高いと、その枠からは外れるらしい。


 ...そんな魔物だけど、決して油断できる相手ではない。



 彼らは本能的に知っている。

 獲物を殺す術を──



「──そう、君のことだよ」


  ザッ...!


「ツノイノシシ...!」

 牙が異様に発達し、あたかも角のように見えるイノシシ。



 本日の僕のお目当ての魔物だ。



「ブフゥ...」

「フゴォッ!!」

 僕の膝ほどの大きさのそれは、鼻を荒らげると同時に、外敵たる僕に向かい真っ直ぐに突進する。



  ザリィ...

       ジャッ!!


 それに合わせ、僕は斜め前に飛んで抜ける。猪はそのまま木へと激突し...


 ゴ スッ!!


「...ッ!!」


  ミシ...ズズウン...


 いとも容易く、木を根本から地に伏せた。


 ともすれば、折れてしまいそうなほど長い牙。それは魔力を纏わせることで、岩をも貫く矛となる。



「フゥ゙!フゥー!...!!」



 ...でも、()()ができるのは僕も同じさ!


「フゴォ!!」

 猪は再びこちらに向き直り、またもや突進を繰り出す。



 僕はそれに対し、軸をずらすように体を運び──


「──シッ!!」


  バコオッ!!


 こちらも魔力を拳に纏い、カウンターを頭に叩き込む!



「...!」

 ツノイノシシは地を滑り倒れ込む。


「...ふうっ」

 どうやら気絶したみたいだ。



「どうですか、()()()さん──」

 僕は自身の狩りの結果を()()に見せようとする。



「──うわっ」

 そうして振り向いて、目に入る...酷い光景。



 森の平地に山と積まれた魔物、その傍らに立つ裸の男。つまりヒール。



「二色蛇も一撃かいな...」

 由美子さんが乾いた笑い混じりに彼に話しかける。


「転移の奇襲性能も凄いけど、適切な位置に転移する目も優れてる」

 由美子さんは手放しにヒールを褒める。



「で、改善点は?」

 彼はぶっきらぼうに彼女へ尋ねる。



「申し訳ないんだけど、おれから言えることはもう何も無いや」

「ヒール君、今すぐ()()なってよ?即戦力っ」



「嫌です」


「ちぇー」

 彼女は口をつんのめった。



「ひょえー...」

 僕も呆然と、その魔物の山を眺めるに過ぎなかった。

 

 自分で頑張って倒した、ちいこい猪には目もくれず。



 ......この情景へと至るには、今日の早朝まで時を遡る───




 ─

 ──

 ───



 5月の太陽の朝は早い。


「──到着!」 

 僕はそう言って足を止める。

 

  今日は土曜日、学校は無し。



「...(でか)

 ヒールは目の前のそれを広く見上げた。



 僕らの目の前にそびえ立つ、大きな暖色のウッドホーム。

 

「入ろ、ヒール」 

 それは僕の通う『七咲ギルド』。



 そしてヒールもそこに通うことになる。


 曰く彼は生活保護だけで生きられるが、金があるに越したことはないと。

 成人してからは狩りで稼ぐのだから、体が鈍ってはいけないと。


 人に保護されるだけではムカつくと。



「──おう、()()()()()!」

 入り口を通ってすぐ挨拶を飛ばすのは──



「由美子さん、おはようございますっ」

 ──僕の尊敬する()()の由美子さん。



 彼女も当然、七咲ギルドの一員だ。


「...」

 ヒールが静かに僕の背中へと回る。



「ん...?」

 それを見て彼女が怪訝な顔をする。



 ああ、ヒールはまだ人を警戒している!

 ここは僕が取り持つ必要がある。


「ヒール、紹介するよっ」


「いっ」

 僕は彼の腕を掴み揺り動かして、由美子さんの正面に並ばせる。



「この人が由美子さん。25歳だけど、凄腕の狩人だよ!」



「へえ」


「なぜ年齢を言った」

「...ニ鐘建 由美子だ。よろしくな」

 彼女はにこやかに彼に話しかける。



「...ヒールです」


「ヒール君。苗字は何て言うん?」



  あっ



 

「...苗字は、二十歳になったら自分で決められると聞いた」

 

「???」


 彼女にヒールの事情は伝えていない。

 

 ヒールは自身の過去を語らないし、きっと触れるべきではないのだろう。



「......ん」

 由美子さんも察したようだ。


「──そうかい!んじゃ何にすっかもう考えてんか?!」


「苗字をつけないという選択肢もある」


「んええ???」

 彼女はヒールへの対応に戸惑う。



「ヒール、昨日言った通り」

「この人に狩りの腕前を見てもらうよっ」

 僕は会話の流れを切り本題へと戻す。



「おっと...そういう話だったな」

 彼女も切り替えて彼を見定める。



 由美子さんは、このギルドの狩人への指南役を買って出ている。僕も彼女に良く教えて貰ってるんだ。


 そして今日は、ヒールへの指南を頼んである。



「新入りの実力は、ちゃんと見極めなきゃな」

「実力以上の危険に首突っ込んで、それで死なれちゃ悲しいもんな」 

 顔をしかめて泣くふりをする。



「俺は死なない」

「自分の実力ぐらい、よくわかってる」

 彼は強気に返りごつ。



「ヒール君が分かってるってだけじゃあ、こっちが安心できないからねえ...」

 彼女はそう言うと彼の目を見下ろした。



「!...」

 彼女の瞳の中に彼の瞳が映る。その瞳にまた彼女の瞳が映る。


 ヒールの頬に怖気な汗が流れる。


 由美子さんは大人で、とっても大きい。しかもムキムキなものだから、人嫌いとは関係なく怖いだろう。



「──目だけで実力がわかるってのか?」

 彼が痺れを切らし口を尖らせる。



「ははは!それは無理だな」

 彼女は豪快に笑い飛ばし、ヒールから顔を離す。


「ゴメンなあ、ちょっと意地悪しただけさ」


「...」

 ヒールは不機嫌そうに彼女を睨む。



「──ま、そろそろ行くか!」


「にょわっ!?はい!」

 彼女がドンと僕の背を叩く。


 叩いた手は僕の背をなぞって、先を行く彼女の腰に振り戻る。



 僕はヒールに目配せしてから彼女を追いはじめる。彼女は建物の外へ向かう。


 彼は不機嫌そうに僕の隣についた。


「...あいつ、苦手」

 ヒールはゆっくり歩きつつ僕に心をこぼす。



「あはは...ちょっと圧が強く感じたかな?」

 僕では2人の仲立ちが上手くできなかったよ。


「だけど、ヒールもちょっとツンケンしすぎだよっ」

「丁寧に接してほしいなら、君も丁寧な態度をとらないと」



「ぐっ...」

 彼の口がきゅうと縮まる。


 

 他者に優しくされたいなら、まず自分が他者に優しくするコト...


 ...それは理想ではあるけれど、難しい。

 荒んだ環境で過ごしてきた彼には特に。




「ねっ...由美子さん、ホントにヒールのことを思ってるんだよ」

「じゃなきゃ、わざわざ君の実力を確かめようとはしない──」



 ──本来ギルドは、狩りは。死んでも自己責任だから。



「そうだな」

「...良い人なんだろな、また」



「またって...」

 ヒールは最近、良い人とばかり会ってるのかな?


「ふふっ」

 だったらそれって、とっても良い事だね!


 


(──早く来なよ!)


「!」「!?」

 頭の中に由美子さんの声が響いた。

 


 ヒールの背中が猫のように逆立つ。

「なんだ...!?」



「由美子さんが、早く来いよって」

 僕は駆け足にする。

 


「いや...なんか、耳じゃなく頭に──」


「それが由美子さんの魔法!」

「後で説明するから、急ごうっ」

 僕は戸惑うヒールを引っ張って、彼女の待つ方へとダッシュった。


 

 しゅたっ...と駆けつけたその駐車場には、重たいエンジンが響いていた──


「乗りな〜」


 ──それは、由美子さんのスーパーカー!!


 その天井は開閉可能。今日は晴れなのでパックリ開かれている。

 トラック程ではないが荷台もついており、大きな獲物はそこに置いておける。

 


「失礼しますっ」

 僕とヒールは後部座席に乗り込む。


 くどくはないエンジンの重低音が、胸に伝わって心地いい。



「ヘイ〜行きまっか!」

 運転席の彼女が車をいじくると、そのまま僕らを乗せて動き始める。



 ハンドルを切って道へ出て、由美子ドライブが始まった。


「よっと」

 彼女がCDをガチャリとかける。



《あなたの好きな曲が流れていると思って!》



「...♩」


 景色が前から後ろへと流れていく。

 家屋が水平に移動する。道路脇の並木が次々と、レーン処理のように来ては行く。



 僕の隣にはヒールがいる。

 彼はまたもや、背中を背もたれにつけない姿勢。いつでも動き出せる体勢だ。


 君はテレポートで逃げられるんだから、姿勢とかどうでも良いのでは?


 ...心持ちの問題なのかなあ。



「──なあ」

 僕がそうしてヒール観察をしていると、当の彼がおもむろに口を開いたんだ。

 


「さっき俺に何をしたんだ?」


「ん?」

「...ああ、『早く来いよ〜』って言った事か?」

 彼女はルームミラーで彼をチラ見しながら答える。



「そう」


「それはおれの魔法だな!」

(──自分の思考を、こうやって相手の脳に直接伝えられんだ!)



「「!」」

 まさに今それを実行する。



「...へえ、()()()()か」

 ヒールが感心したように言う。



「ああ。同僚からはいつもそう呼ばれるな!」

 

「距離に制限はあるのか?」


「遠くとの通信ほど魔力を持ってかれるが、よっぽど問題はねえな」

「ちなみに、おれが思考を送ったときにソッチからも思考を返せば、脳同士で会話だってできるんだぜ」



「へえ...!」

 彼は身を乗り出して相槌を打つ。眉が上に伸びている。



「興味津々だね」

 僕は左席の彼に呼びかける。



「ああ」

「テレパスといえば、『超能力』シリーズの定番だからな」



「それでか〜!」


「なんだそら?」

 赤信号でアクセルを止めて、彼女がこちらへ振り向いた。



「魔法の無い世界で、魔法みたいに特殊な能力を持った奴らが遊び倒す漫画だよ」

 ヒールがそんな彼女へと解説する。


「その作品に出てくる能力に、テレパスがあるんだ」

 ヒールは本が好き。本の事は楽しそうに話すんだ。



「あえ〜知らんかった、有名なんか」


「有名ですよ!うちのクラスじゃ皆知ってます」

 僕の記憶では、学校に持ち込んでいる人もいた。そして皆で集まって読むんだ。



「他にも、火を出す奴とか念力使いとかいたりな」


「ほう」


「あんま言うとネタバレだし、また今度読んでみてよ」


「おお、そうするわ〜」


「あと超能力でいったら、ヒールのテレ───」

「──はっ!」

 僕は言いかけて口をつぐむ。



「んん?」


「危ない危ない、ヒールの魔法をネタバレしちゃうところでした」


「?」

 彼が不思議そうに僕を見つめる。



「あ〜そうなんだよリンちゃんってば」

「ヒール君の魔法が何なのか教えてくれないのよ」

 青になった信号を見てアクセルを踏む。



「言ってなかったのか」


「やっぱり実戦でのお楽しみにしておかないとっ」

「...あ、実戦で思い出したんだけど」

 僕は思い出して話を変える。




「由美子さんが()()だって、ヒールに言ったっけ?」


「...いや」

 彼はキョトンとした顔で答える。



「由美子さんの狩人は副業でね、本業はあの戦士なんだよ〜!」

 

「あのって言うほどでも...」

 彼女は申し訳なさそうな顔をしている。



「僕も由美子さんみたいに、将来は戦士に──」


「...戦士って、何する職業?」

 彼は純粋な疑問からそう言った。



「え、知らんの?」

 彼女は驚いた顔をしていた。



 有名なんてレベルじゃないレベルの職業だから、知らない方がそりゃあ驚くだろう...


 ...だが、しまった。ヒールは知らないのか。




「──ああ、ヒール!」

 僕は慌てて取り繕う。


 彼は本が好きだが、歴史には興味ないとも言っていた。

 だったら知らないのも無理はない。


 1つずつ説明していこう。

「ええっと、まず──」





 ──人と魔族が戦争しているのは、知ってる?





「...?」

「......知ってるよ」

 彼は少し長い沈黙の後にそう言った。



「それならよかった」

「安全なここ上層から、危険な中層へと降りて行き...」

「そこで魔族と戦うのが戦士だよ」



「...それのことか」

 彼の中で何かが合点した。



「──で、由美子さんはそのテレパスを活かして」

「戦場でのメッセンジャーを務めてるんだよ」



「ああ、情報の速度は死ぬッほど大事だからな」


「そんなに大事な役割なのに、ここで運転なんてしてて良いのか」


「んあ〜戦士は結構休み多いんだよ」

「おれがいなきゃ成り立たないってワケでもねえ。代わりがいるさ」



「そうか」


「次の出勤で死ぬかもしれねえんだし、こ〜して好きな事やっておかないとな」



「むむ、ドライブが好きなんですか?」


「おうっ好きよお!」

 高速道路にさしかかった所で、一際強くアクセルが踏み込まれる。



「うわあ!」

 回る、もっと回り出した。僕らを支える四つの車輪が。



「高速でかっ飛ばすのがーたまんねえのよ!」

 ハンドルが熱く握られる。

「悩みもストレスも全部吹っ飛ばすみてえにさ!」


 四輪はアスファルトに回りつつ擦れて、薄っすら真熱を帯びてくる。



「おい、この速度は違法じゃないのか!?」

 ヒールが慌てて問い詰める。



「全っ然!まだアゲれっけどーどうする?」


「──もういい!」


「ハハハ!」

 彼女が豪快に口を開く。



 強く風を受け抵抗のかかる今でも、彼は前のめりな体勢だ。



「爽快だねっ!」

 僕はそんなヒールを見てそう言った。



「全っっ然!!」


「ははは...」

 僕はふんわりと口を開ける。



 自由の風を味わった。舌がパサつく乾いた風だった。

 ヒールは風に引かれる僕の前髪を、小渋い顔で見つめていた。



 やがて車は高速を抜け、粗っぽい地道を進み出す。そこからまたしばらく走ったら、ようやく目的の森へ着く。


 危険!

    魔物がワサワサだ!

             ノームの大森林!



 ...そして───




「ひょえー...」


 ──今に至る。


 僕の傍らにはツノイノシシ、ヒールの側にゃ山と積まれた魔物たち。



「おっと」

 由美子さんはヒールとの会話を止め、今度は僕の方へ歩み寄る。


 彼女は僕が仕留めたツノイノシシを見て言う。


「リンちゃんも、良かったよ」


「ホントですか!」


「位置取りは完璧だったし、攻撃のタイミングと箇所もバッチリ」

「以前より確実に良くなってる」



「えへへっ」

 僕は嬉しくなって思わず、指で顔を掻こうとする。


 土と血で汚れた手で顔を。


「ちょっと、顔が汚れちゃうよ」


「ああ、しまった!」


「んもう、大事にしなよー」

 そう言って微笑む彼女とは別に、僕はヒールと目が合った。



 彼は服も何も纏ってはいないが、しかし土や血の汚れも無い。

 そっか、生物だけを転移させるから...汚れとかも落とせちゃうんだ。


 彼の逞しい肉体だけが見えている......


 ...


「──うし!」


「わっ」

 耳元で彼女の声を浴びて、思わず声を上げてしまう。



「今日はこんぐらいにすっか!」


「...はいっ!」


「リンちゃんも仕上がってたし、ヒール君の能力もよーく分かった!」

「んじゃ早速切り分けて箱に...」

 由美子さんは魔物の死体の山を見る。



「...うげえ、大変そう」

 そしてゲンナリする。



 コンパクトに収納するために、あれを全部いい感じに切らなければならない。


「俺だけだったら、気絶させて転移で運べたんだがな」


「へえ、そりゃいいや」

「まあ今回はおれの車で運ぶから、頑張って切ろうや。手伝うよ」



「おう」


「僕も(これ)切ったら、そっち行きますよ」


「さんきゅ」

 彼女はそう言って彼の方へ向かった。



 ──あ、内臓潰しちまった──


  ──よくあるよくある!気にすんな──


 ──この子、胃の中に鉄とか貯め込んでますよ──


  ──おいしいのかな──


   ──それはやめときな、ヒール君──


  ──冗談だって...




 ...それから、さくさくと時が過ぎる。


「──おいしょっ!」

 そして、由美子さんの車に荷を積み終える。



 車は再び走り出す。


「んもー車が重たいよ」

 由美子さんが苦笑しつつハンドルを切る。ゴトゴトとザラメな道を行く。



「少し狩りすぎたか」

 ヒールが目を細めて言う。



 僕が3体、ヒールが10体。由美子さんが1体の魔物を狩った。それらは荷台に箱詰めされている。



「ヒール君ようやるから、もうどこまでやれるか試したくなってなw」

「んまあ分かった事として...ヒール君なら何の狩りでもできる。おれが保証する!」

 彼女はルームミラー越しにニカリと笑う。



「へえ、そいつはありがたい」

 ヒールの口角が揺らいだ。


「僕もヒールの狩りをちゃんと見たのは初めてだけど...やっぱりスゴいねえ」

 矢継ぎ早に魔物を仕留めていた。こんなに狩れる人は中々いない。


「──あとヒールってさ、()がいいよね」


「目...?」

 彼がこちらをその目で見つめる。



「視力!」

「すっごい遠くにいる獲物を、簡単に見つけてたよね」



「...ああ」

 彼は気まずそうに返事する。



「確かに、あの暗い森で大したもんだ」

「視力5.0ぐらいあんじゃねえか?」

 彼女はふざけてそう言ったが...



「学校に行くために受けた健康診断で、10オーバーだと言われたな」

 


「「えっ!?」」

 彼は想定を超えてきた。



「それ以上を測る用意が無かったみたいで」

「正確な値は知らない」



「はー」

「...ヒール君の正確な転移って、その視力による部分もあんのかもな」



「ああっ、テレポートって少しミスったらとんでもないことになりそうだしね」


「...この目のおかげだって?」

 彼は目を閉じて問いかける。それは自問のようにも受け取れた。



 そして まぶたを起こしてこう言った。

「...ムカつくな」



「──なんでや!?」


「別に、目だけが凄いって言いたいわけじゃ──」


「──そういう事じゃない」

「ごめん、こっちの問題」

 彼は前の座席に向き直った。



「...」

 こっちの問題...



 ...つまり、ヒール自身の抱える問題。

 それは触れられない、彼の過去に関わるものだろうか──



「──だが、リントも中々やるじゃないか」


「!」

 彼はまずそう言って、その後で僕に顔を向けた。



「ピョンコドリに負けて煽られる程度と思っていたが」


「ちょっと〜!!」


「ちゃんとした狩りもできるんだな」

 彼は不敵や笑みを浮かべて話す。



「もっと素直に褒めてよっ」


「ハッ」

 口のみならず鼻でも笑う。



 それから今度は前を向く。

 彼はルームミラー越しに由美子さんと目を合わす。


「アンタも」


「おれー?」


「野蛮な輩と思っていたが、狩りの時は丁寧な立ち回りだった──」



 ...由美子さんは狩りの手本として、僕らの前で一体の魔物を狩った。


 彼女はテレパスを用いて、雑音を魔物の脳へと送る。

 それにより魔物を混乱させ、集中を妨げ...隙を突き一撃で狩猟終了。


 鮮やかな流れであった。



「──見直したよ」


「何様!!?」


「ハハハ!」

「ガキに見直されるようじゃあ、おれもまだまだだな!」



「どういうこと?!」

 僕は2人への突っ込みで忙しくなる。



「んでも見直してくれたならさッ」

「おれの事もリントみたいに名前で呼んでくれよ」

「由美子って」



「由美子...」

「...って呼ぶのはなんか気持ち悪いから」



「ひどい!」

 気持ちは分からないでも無いけど!



「由美子さん」

 彼は少し恥じらいつつも応えた。



「んまあ、それでもヨシ!」


「ハッ...」

 彼はまたも鼻で笑うと──



  ぽすっ



「!」


 ──軽く柔らかい音を立て、背もたれに背中を預けた。

 

 


 それは長い狩猟による疲労か、それとも───



「ふふっ」


「...何だよ」


「なんでもっ」


「...」


  車は僕らを支えて走り続ける。





気に入っていただければ、幸いです。

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