エピローグ:卒業式、そして打ち上げ
三人称視点です。
冬の盛りの終わり際、盛りに盛られた雪は段々と溶けていく...されど道を行く人々は、未だ寒きにその身を引き締めていた。
子供達は朝の門をくぐり、凍てついた校庭をザクザク進む。
二時試験を終え...ノーム北高校の生徒たちは、卒業式として登校していた。
三年生の者たちにとっては、二時試験を終えて以来初めての登校である。
「「よー!久しぶり...?」」
「「別にそうでもないよなw」」
「「今日寒くね?」」
「「はよ帰りてえ...」」
3年1組の教室は、既に賑わいを見せていた。
「...そこでダイキがねえ、炎出しまくってたら...風でブワー吹き飛ばされて...」
ヒールはサヤカから、見逃したダイキの試合内容を聞いていた。
「へえ〜ざこw」
「あん!?」
それを聞いていたダイキが、クワッと顔をしかめて言う。
「ヒールはよ!お前あれズルだろ!ズル!」
「いやいや...これが実力の差だよ、残念ながら」
「でもヒール、結構会場の人に引かれてたけどね」
横で混じっていたリントも、ヒールを軽うく責め立てる。
「ヒールの事知らん人からすればアンタ、女性脱がせたマジの変態だからね」
「しかも自分ごと」
「なんだよ!皆んなすっごい歓声上げてただろ!!?」
「それ男な。女子のは悲鳴だったぜ」
「なにさ〜」
「...まともに勝つってのは、リントみたいなヤツだよなあ?」
「んっ。そうだね!!」
リントは少しためらいがちに、けれどエッヘンと胸を張る。
「「カリンもね〜また一緒だね〜」」
「「...あ、ゴメ。ウチやめちった」」
「「え!?」」「「リンちゃん最後まで残ってたでょ!!?」」
「「そうなんだけどね...やっぱウチ向いてないわ〜って」」
「「そっか〜↓」」「「親とか何も言われなかった?」」
「「言われたよ?怒られる通り越して、もう泣かれたわw」」
「「あ〜...」」
「「ゼイタクするなよ!一次試験で落とされたヤツもいるんだぞ!?」」
「「おい〜自虐やめろw」」
「「もうオワってるって...国語でバカ事故ったもん、特に小説」」
「「あ〜、アレむずかったね。配点デカいし」」「「ウチもう運ゲーでいったわw」」
「「そもそもさ、マーク試験で小説ってなんなの?色んな解釈ができるのが小説の醍醐味なのに、なんで答えを一意に決めるワケ?つまんねえって。つーか試験で小説解かせるのがおかしい!じっくりゆっくり練られた文章をさ、試験って形で消費するのが気に食わない。たかだか数十分で読ませるって、楽しませる気ないだろ?そしてそんなくだらねえ数十分のおかげで、その小説を初見で読む楽しみは奪われるワケだ...いかんでしょ。んで〜そうやって言うとさ、でも無理にでもそうして小説を読ませないと、子供が小説を手に取る機会がなくなる〜、興味をもたなくなる〜、最近の子供の読解力は〜、とか言う輩が出てくるワケ。あほか!?んなことやろうがやるまいが、読むヤツは読むし、読まないヤツは一生読まねえよ!!おれは小説は嫌いじゃないし、むしろ好きだ。だからこそ今の流れが許せない!小説はせめて学校の授業だけに留めて、試験からは排除するべきだ。なあ?」」
「「なあ言われても」」「「お前キレてるときだけIQ上がるよな...」」「「一生キレてようぜ」」
カラカラカラ...
そんな騒がしい教室へ...40〜50ほどに思われる担任の教師が、ガラリと扉を開けて内に入る。
「おはようございます〜」
「「おはようございます〜」」
彼女はまっすぐに教卓に向かうと、緑色のノートを広げて置く。
「あ〜、み、ん、な...揃ってるね、ヨシ」
彼女は熟達した目さばきで、クラスの出席を確認する。
「皆さん、卒業式の予行...やったの大分前だけど、覚えてる?」
「...心配そ〜な顔!」
「「ははは...」」
「ん〜まだ時間ありますから...最後にちょっと練習しましょうか。ねっ」
彼女がにこやかにそう言って、真面目な復習が始まった──
───
──
─
長い、長い卒業式...彼らは酷い寒さに縮こまり、しかし立派な態度を貫いた...
...中学の卒業式と比べ、泣いている人が全然いないじゃないか。ヒールは小さく見回してそう感じた。
それは彼らが大人になったということか...あるいは涙も冷え込む寒さの為か...
「──この学校の掲げる、多様性の理念...それをしっかり受け継いでいるでしょうか」
「個性の押し付けは多様性ではない。認めることが多様性ではない。」
「それぞれが持つ多種多様な個性を、気にしないことこそが多様性です」
「この理念を確かに受け持って...これからの人生に繋げて欲しい──」
───校歌斉唱───
───拍手と共に退場───
───
──
─
「...じゃあ最後に、皆んなで撮影して終わりましょうかっ」
3年1組の教室にて、担任は惜しそうな声で言う。
スタスタスタ...
「...あ、サンタ先生」
彼女は通りすがりの物理教師、サンタ先生に呼びかける。
「ハイ?」
「この撮影、お願いしてもいいですか?」
「ああ、いいですよ〜」
「ここ押せばいいんですよね?」
「そうですそうです...」
彼女はサンタにカメラを渡し、三列に並んだ生徒たちにサッと加わる。
「ジャー、撮〜りますよ〜?」
「3、2、1...」
パシャリ、という閃光の後、彼は写真を確認する。
そこにはニッコリ良い顔の、3年1組が写っていた。
「ア〜、いいですね」
「もいっこいきますか?」
「はい、お願いします」
それからもう1つ、2つの閃光が走り、クラス撮影は終了した。
「──じゃあ...お疲れ様でした、ねっ。本当」
「これからも頑張ってください!」
担任が、これで最後と締めくくる。
そして教室を出る直前に、
「あ、カメラ持参...許可したでしょう?」
「友達とか撮りたい人、今使っていいからねっ」
それだけ言って教室を後にした。
「「...っはー!」」
「「やっと終わったー!!」」
教室はまた、ガヤガヤと騒がしく溢れかえる。
「「これでさらばよ〜」」「「ここの奴らは(ほぼ)皆同じとこ行くんだけどなw」」
「「うーし、撮るかー!!」」
カシャカシャと、めいめいにカメラが使われる。
「「元バスケ部集まれ〜」」
「「お前はバレーだろが!」」
「「じゃあ帰宅部も集まれ〜」」「「いや結構いるしw」」
「寄せ書きしよ〜寄せ書き」
サヤカが学年アルバムを机に置く。
「「この白いページに書くの〜?」」
「うん、多分それ用だと思う」
「「うい〜」」
カキカキ...
...夏の魔族襲撃の一件で、サヤカもまた恩恵を受けていた。
暗い家系の育ちの影響で、一般から浮いていた彼女も、今やジュワッとクラスに溶け込んでいる。
彼女に必要だったのは、ただきっかけだったようである。
「...そのアルバム、いつもらったっけ」
「「え、前の予行の日に配られなかった?」」
「「リント...まさか持ってきてない...?」」
「家に置いてきちゃった...↓」
「「おいいいい」」
「「あ、おれもw」」「「それ捨てたわ」」
「任せてリント。取り行ってくる」
「あ、ヒール!別に──」
パッ
「ああ...」
「「行ったー!w」」「「だからパンツ残すのやめろや!!」」
「も〜...」
リントは口を尖らせると、集団から外れて窓際へ行く。
そこからヒールの動向を追おうとしたが、当然見えるはずもなかった。
そうして窓から外を眺めていると、後ろから1人近づいてくるのに気づく。
「リントっ」
「ん...ハリス」
リントから見るハリスの印象は、クラスのお調子モノって感じであった。
「リントは、もちろん戦士になるんだよな?」
「もちろんっ!」
「そっか」
「...」
ギッ...
彼はリントと共に窓枠に手を掛け...それから声を細めて言う──
「──お前が魔法使えないって、戦士の人にバラしたの...俺なんだ」
「えっ...?」
「...」
リントは去年の夏までは、軽く嘲笑の対象だった。それがたった1つの出来事で、評価が覆り人気を得た。
無能だと、長らく笑い者にしてきた相手が、いつの間にか自分を越えていた。それは一部の者にとってすれば、実に気に食わない事であった...
その逆恨みの顕現が、この受験でのチクリである。
「......そうだったんだ」
「うん」
「...ごめん」
「...うん」
リントは彼の言葉を受け止めて、周りに気づかれぬよう声をひそめて応える。
「いいよっ。僕は全然気にしてないからっ」
そして彼は、自分がダインにされたように...ハリスの肩を持ち鼓舞する。
「それより、これから頑張ろうねっ!」
「...ああ、そうだな」
「ありがとっ」
「んっ」
「...一発、写真撮ろうぜ」
「!撮ろう!」
「よ〜しッ」
「オマエが有名になったら高値で売るわw」
「それはダメ〜」
パシャっ
「ん、サンキュー」
「写りイイネこれ!」
「だなっ」
共に写真の出来に微笑んで、ハリスはカメラを仕舞い込む。
「...じゃ、俺帰るわ」
「うん。じゃあね〜!」
「じゃあな〜!」
そして向かいの扉へ歩き出す。
「「え、ハリス帰んの?」」
「おう、用事あるでな」
「「そっか」」「「ま、どうせすぐ会うしなw」」
「じゃっ」
スタスタ...
(別に...俺には向いてないって、思っただけだ)
(じゃあな...)
冷たい廊下に静かに踏み出して、去り行く彼の寂しげな背中を...ただダイキだけが見つめていた。
(...ハリスの奴ッ)
(まあ、もう決めちまった事ならオレは何も...)
(......)
ダイキは何を思い直したか...彼はスックと椅子を引き、立ち上がりハリスの後を追う。
その後2人が何を話したかは、誰の知るところでも無かった──
───
──
─
卒業式を終えて数日後...とある昼頃、どこにでもあるような焼肉屋で、6人の男女が会していた。
ヒール、リント、ダイキ、サヤカ、ジョン。共に修行を積んだこの5人の、無事なる入隊試験の合格を祝して、打ち上げ会というわけだ。
「「おつかれさま〜」」「「わ〜い」」
カランと楽しく水を鳴らし、皆が一斉に箸を取る。
───誰より速かったのは、シラキだった。
「もぐっ」
彼女はサッと...ジョンが良く焼いた肉を取り、素早く小さな口に運んだ。
「むまい!」
「なるほど、むまいか...」
左のヒールがその速さに驚きつつ、自身も肉を箸で取る。
「俺...何が何の肉だとか、全然わかんないんだよな〜」
「それはザブトンだよっ」
肉に詳しいサヤカが、的確にそれを指し示す。
「は?...座布団?」
「...言われても分からん」
ヒールにとって肉の違いとは...何の動物の肉か、そして肉が厚いか薄いかでしかなかった。
「でもおいしいよ〜」
ヒールより先に肉を頬張ったリントが、その頬を緩めてお喋りする。
「見りゃ分かるッ」
ヒールもリントに引き続き、四角い牛肉を食べてみる。
「わお!うまいね」
脂身と肉、その共なる旨みを噛み締めた!
「おうッ!タレが好きだわコレ」
ダイキは肉でなくタマネギに、タレを絡めていただいた。
「うん...」
ジョンも肉と白米をコンビで食べて、分かりきった美味をなお楽しむ。
「良かったよ、皆が最後まで残ってくれて...」
ジョンはゴクリとお冷で喉ごすと、合格の感慨を口にする。
「1人でもいなくなってたら、イマイチ喜びきれなかったよね」
サヤカは至って上品な食べ方で、無自覚に育ちの違いを見せつける。
「よかった、よかった」
「ボクの場違いな感じ〜...」
1人まだ在校生のシラキが、ちょいと気まずそうに箸を置く。
「フヘヘ...焼肉行くんだ〜って教えたら、行きたい!!って言ったのがそっちでしょ〜?」
「それはまあ...」
この焼肉屋へ向かう道中...たまたまシラキと出くわした彼女らは、素直に目的を伝えてしまったのだ。
聞いてシラキはお目目を輝かせ、無いシッポをはためかせたそうな。
「シラキはシラキで、祝うべきことがあるでしょ!」
引っ込んだ彼女に、ヒールのさらに左のリントが呼びかける。
「?」
「魔法が見つかった祝い!だと思おうよ!!」
「む!」
「なるほど...」
...去年の秋の終わり頃、ついにシラキは自身の魔法に気づいたのだった。
どうやらそれは、使うのに面倒な条件があるタイプの魔法で...そのせいで、今まで発現が困難であったと。
「...あ〜、そんなのもあったねえ」
「ふっふっふ...」
「それじゃあ食べるしかありませんねっ!」
彼女は元気を取り戻し、肉を彩葉で巻いてかぶりついた。
「んんっっっ!!!」
「よう食べるねえ...」
少食タイプのヒールには、彼女が少し羨ましくも見えた。
「これは大成しちゃうかもなっ」
「...それは皮肉ですか〜ダイキ先輩」
「焼肉だよ」
「...」
「ダイキ、うざいってさ」
サヤカが左からダイキの脇腹をつつく。
「いでえ」
「ほら、食べなよ」
右からジョンが肉をよそう。
「自分でよそわい!!子供じゃねんだからッ!」
「「ガキ〜」」
リントとヒールが茶々を入れる。
「ああ...」
「オレはお前ら2人が1番心配だったんだぞ!?」
座り直したダイキが、正面のヒールとリントをテーブル越しに指す。
「そう?」
「1番やる気のある奴と、1番やる気の無い奴!」
「そういう奴らが1番危ねんだから!」
ダイキは口を走らせた後、よそわれた肉をバクバクかじる。
「「...」」
言われた2人は、ニヤケを浮かべて見合わせる。
「「言えてるね...」」
「だろっ」
「...」
ヒールは改めて、この一年を振り返る...
彼の人生を大きく左右するような、重要な選択の多い一年だった。
「...ま、結果としては大丈夫だったし。」
自分の選んだ道が、正しいかどうかは分からない。
ただ、少なくとも彼は自分の選択を...
「...俺は後悔してないよ」
ヒールはリントをチラリと見て、手に持ったお冷に目を逸らす。
ゆらゆら揺らゆる水面は、これからも続く彼の人生の波乱を暗示しているようにも見えた...
(...上等だッ)
「戦士にでも英雄にでも、なってやるさ...!」
ヒールは決意を胸にして、パッと皆を見回した───
「ヒールが英雄...?」「似合わねえな」「ボクは良いと思います。ボクは。」
「...ああ言いたい放題!!」
「「あはは...」」
どこにでもある小さな個室には、どこにでもあるべき笑顔があった。
ありふれた、笑顔を守る物語────
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おそらく来年の春ごろまでは、これで一旦締めとします。




