オマケ:無の領域
これはまだヒールが医務室で休んでいた時、舞台表で起こっていたこと───
寒天の下...寒さが1番マトモな昼過ぎに、オレは芯の寒さを覚えていた。
もうちょっとすれば、オレの出番が来るワケで...
「ふぃ〜。ちょっち緊張してきたな〜!」
オレは隣のサヤカとリントに向いて言う。
「あとちょっとだもんね、ダイキっ」
先に試合を終えたリントだが、まだ緊張を残している様子だ。
「もしかして、ダイキがクラスで1番最後?まだ他いたっけ?」
これまた先に試合を終えたサヤカが、指を折って記憶を辿る。
「あ〜、そうかもな」
確かに思えば...サヤカは最初だったし、ハリスやタミソ...あと...も...で、ヒールにリント。
殆ど出尽くした気がするが...わかんね。
「...てかダイキ、チョコ食べたでしょ〜」
指折りを諦めたサヤカが、オレがチョコったのを指摘する。
「え、分かる?」
「うん、今すっごいチョコの匂いしたw」
「マジか」
「さっきツマミながら散歩してたんだよな〜」
「どうりで夢にいないと思ったら、散歩してたんだ...」
リントは呟くように合点する。
「ま〜落ち着かなくてな。」
「...そいやよ、サヤカ」
「ん」
「死ぬのって、どんな感じだった?」
「あ〜ね...」
オレがそう尋ねると、サヤカは頬に手を当てて目を上ずる。
死を体験してみるのなんざ、嫌な記憶だろうと思って聞かないでいたが...むしろずっと機嫌が良いから気になった。
「...しょーじき即死だったからよく覚えてないケド」
「死ぬ前...トレスティアにブッ叩かれる直前ね。な〜んか赤ちゃんみたいな匂いがしたんだよね」
「え」
「...トレスティアが幼児って言いたいのか?」
「違うでしょ〜ッ!」
「匂いっつか...なんか、懐かしい感じがした」
「なんでさ」
「しらね」
「しらんかっ」
「うん」
「そ」
...よく分からないらしい。
まあ、そう言うのなら...自分で試してみるしかないだろう。
...別に、死んでやるつもりは無いけどな!!
───
──
─
『入場してください』
ザッ...!
「ヘッ」
少し前から備え、ばっちしコンディションを整えたオレは、堂々と舞台に乗り上がる。
ず〜っと緊張してても、しょうがないもんな。出すもん出すしかねえわけだ。
「...」
硬めの舞台の上からに、辺りをゆるりと見回した。
どうやらオレの相手はまだ、入場してはいないようだ──
「──フハハハハ!!」
ギュ
ウウイイ
インッ!
「!!?」
強い風の吹く音と共に、舞台袖から『ソイツ』は飛び出した。
ヒュウウッ...
袖の暗がりから、明るい外へと移るとすぐに、ソイツは上へと飛び上がり...捻りを加えて舞台に踊り出た。
...すとっ。
「...なんだあ?」
着地して静止した相手を、オレは怪しんで注視する。
ソイツは...全身を何かで着込んでいた。
ブーツ、胴体、グローブ...色の起伏は少ない。ヘルメットは暗く、中の顔までは見えねえな。
背中には四角く大きなリュック?を背負ってて...全体を見て、ややもったメカメカしさもある。
これは、まさか...
「それ...宇宙服か!?」
オレはほぼ答えを確信し、興奮して声を上げる。
「むむ!分かるかあキミ!」
「そうだよ〜これ───」
プシュ〜。
「...あ」
奴さんの言葉を遮るように、煙がたちまち満ち満ちた。
...宇宙。この天高い空の、更に上の世界!夜空に輝く星々を、直接触ろうって感じ。
昔はそこまで飛んで行こうって計画があったらしい...それも戦争でオジャンになったみたいだが。
何にせよ、宇宙はロマンに満ちていて...宇宙服なんて、みんな大好きさ!多分な。
シュー...
オレが想いを馳せる内に、煙は霧散し晴れ上がる。
「...ふう」
はけた煙から、また宇宙の人が現れる。
「そうそう。これは宇宙服...のコスプレだよ」
「機能的には、本物に遠く及ばない」
「そうなのか〜↓」
「...けれどね、一応少しは───」
『───準備はいいですか』
「ンッ...」
また彼(...彼女?)のセリフが打ち切られる。
「...まあ、時間も押してるからな」
「しかし夢の中だろう?もう少し──」
『──では』
「クッ...!」
彼が悔しそうなフリをする。
「...まあ、やろうか」
そして、構える。
「そっすね...!」
オレもひと〜つ、息をつき...気楽な姿勢で向き直る。
オレのやるコトは実に単純。
近づいて、燃やす!ただそれだけ。
シンプル熱量。防ぐ手段はそう無いハズ...だが。
『はじめ』
気がかりなのは、先のロケットみたいなジェット飛行か───
「──行くぞ!!」
ギュウウンッ!
「...ッ来た!」
ヤツはいきなり、猛速で風を切るように飛んでくる。
...そりゃあカモだぜ、奴さんよ!
バッ
オレは手の平を相手に向け、それから一気に火を放つ!
ゴオオッ...!
オレの火は、オレの体の周りから出る。だから手を向ける必要は無いんだが...『火』であるという特性上、遠くに飛ばすとすぐに広がっちまうんだ。
そこで片手を伸ばす事で、相手に届くまでの過剰な拡散を少しでも抑える...
...というのは建前で、カッコいいからやっている。
「ぬっ!」
そのままの勢いで、火に突っ込むかもと思ったが、
ボウフッ...!
また風が吹きヤツは上へ飛び、オレの頭上を抜けてった。
「なるほど、キミは炎を出せるのか」
そしてヤツはなんと、空中で止まって喋り出した。
ヤなことに...奴は今、オレの有効射程から外れていた。
「...ヘッ、こっちも大体分かったよ」
「風が起こせるみたいだな!」
「ああ、正解だ」
ヤツはあっさりとそう答えた。
まあ...ほとんど確定だろう。さっきのも、地面に向かって風を放っていた。
「...ただ、正確には違う」
「え?」
「風を起こすと言えば、空気の流れを操るように聞こえるが...」
「ワタシの魔法は、単に空気を生み出しているだけだ」
「...はあ」
あんまし違いがピンと来ねえケド、この人が普通に自分の魔法語り出すふざけた奴なのは分かった。
いや待て、嘘かもしれない...
...嘘だとしても、違いが分かんねえんだから意味ねえ!
「フッ...」
「しかしこれは、実に面白い組み合わせだな」
「...?」
「どういうことだ...?」
「キミがワタシの背中に引っ付けば、ロケットごっこができるだろ?」
「...??」
マジで何言ってんだこの人は...
...そういえば、聞いたことがある。
戦争では鎧を着込もうが、魔法の前には無力。だから服装には特に規定がない。
ただそれを良いことに、趣味でコスプレとかする奴もいて...そういう人は、総じてまともじゃねえって話。
──それで戦士のモチベになるなら、まあ良いかなって、思ってます(笑) by偉い人───
...良くねえって!流石についていけねえよこのテンション!!
「...いいから、早く降りてこい!」
オレは焦れて、空高いヤツに指を向ける。
「ああ、そうしよう──!」
ギュイ
イ
インッ!
「!」
奴は真っ直ぐに下降して、オレの背後に降り立った。
「...ッ!」
「は──!!」
その背中に、勢い付いた足蹴りをブチ込まれる!
「ちっ...!」
下から押し上げるような一撃で、オレは大きく飛ばされ...
ビュンっ
「...!?」
「フハハハハ!!」
それを後から追うように、奴が超速で飛び出した──
「──アホかっ!」
くるりとオレは腰を捻り、右腕を奴に向けて狙う...
「おっと」
見てから奴は自身の軌道を変え、オレの左半身の方面...右腕の可動域の外へと抜きん出た。
「甘いな〜キミ!」
ギュ
インッ!
オレが肩を左に捻るより早く、奴はオレの背中に着いた───
──今ッ!!
ボ
オオオッ...!
「ぬ!?」
おそらくは、オレの手からしか火が出ないと踏んでいた奴に..オレは背中からの炎をお見舞いする。
...
...ストッ。
オレもヤツも、ほぼ同時に着地したけれど...
「ぬおおおお...」
けれどヤツの体は今や、赤い炎に包まれていた。
「ヘッ...良いんだぜ、降参しても」
「ぬおおおお...」
奴はもがくように舞台でふためく。
「おお...ふふフフフ」
「...?」
「フハハハハ!」
ブワッ...!
「ああっ!?」
奴の周りから、やや強い風が吹き出すと、炎はたちまち霧散した。
「宇宙服はね、耐熱性があるんだよ!」
ヤツは涼しい素ぶりで立ってやがる。
「ワタシとは魔法の相性が悪かったね」
「そーかい」
オレはゆるりと、両手を広げる。
「じゃあよお...耐えてみろッよ!!!」
ゴ
ッ...!!
ゴオ
オオオンッ...!!
「...死力だな」
オレは力を振り絞り、辺りを火炎で焼き尽くす。
しかし、ただの炎ではない。
魔力を火に変えるだけでなく...その火をオレの魔力で鍛え上げた!
オレ色に染まる、魔の炎。
「...!」
奴は先との違いを見てとったが、手遅れだぜっ。
あっという間も無きにして、炎が奴の体を覆い...その姿を見えなくさせる。
そのシルエットがジクジクと、不気味に溶け出すのが見えた。
「...終わりだな」
「太陽に近づき過ぎた罰さ──」
ビュオオオオッッ!!!
「──うえっ」
しかし炎幕の向こうから、とんでもない風が吹いてきて、
ドッ.....
コオ!
「んあっ」
『場外。試合終了です』
オレの体は外へと飛ばされて、試合はオレの負けで終わった...!?
「え、えええ...??」
オレがあっけにとられていると、はるか上空から声がした。
「おーい!早く戻しておくれ」
「ハダカでは流石に恥ずかしい」
なるほど宇宙服の中身だけは、素早く空に逃げていたのか。ヤケクソに火を出していたから、目でも耳でも分からなかった。
...アツくなるのは、厳禁ね。
フワッ...
今度は優しい風が吹き、舞台の全てが元通りになった──
ビュオオッ!
「ああ...?!」
しかしすぐにまた強い風が吹いたと思えば...奴が目の前までやって来た。
「まったく、焼け焦げてしまう所だったぞ。やるじゃないか」
奴さんが、試合後の握手を求めて来た。
オレはその手に応えつつ言う。
「んなコト言って...最初からあれぐらいの風出してたら、すぐに試合終わってたでしょう」
「まあね。しかしそれでは楽しくないだろう?」
「んん...」
楽しいっすか。そうですか...
『退場してください』
「それに、我々は一応殺しを義務付けられているからね」
「あ〜、そうでしたね」
「しかし服まで溶かされてしまっては、そんな悠長も言ってられない。」
「ははっ...」
「実はちょっと、一回死んでみたかったんすけどね〜」
「ええ...?」
オレが軽口にそう言うと、わずかに退き距離をおかれてしまった。
「ああ、そうじゃなくて...」
...ざけんな!この人には引かれたくねえよっ!
「そうじゃないっていうか」
「友達がさっき試合して、殺されたんですけど...なんか死ぬ時に、懐かしく感じたとか言うんすよ」
「ほう」
「それが意味わかんなくて、なんだろな〜って」
オレがそう釈明してみせると、奴さんがヘルメットを傾ける。
『退場してください』
「...ワタシはそう感じたことはないけれど」
「そう感じる気持ちもわかる気がするよ」
「え、そうですか!?」
「ああ───」
───ワタシたちって...生まれるまでは、死んでいるようなものだろう?
だから死ぬ事って、何よりも懐かしいことなんじゃないのか───
座ッ...
「...って言ってたぜ、サヤカ」
「どう?」
「わかんね」
「わかんねか」
「うん」
「そ」
...ま、何にせよ...死んでみるのはお預けってこった。
...ヒール、トイレ長くね?




