波状攻撃 その②
ガッ
ボゴッ
ゴッ
ガスッ
「...」
バコッ
ドゴッ
ガンッ
ベキッ
「...」
オレこと、ダイキは引いている...
ドゴッ
ビキッ
ガガッ
「...オイオイ」
やりすぎじゃねえか...?
見てられねえほどの酷い絵面。
頭
腕 腕
体
足 足
まんべんなく痛めつけられて...見ているだけでも気分が悪くなる。
...オレだけじゃないさ。
新しいモン好きのサヤカでさえも...もう飽きてそっぽ向いたままよ。
どんだけ長く...
「...チッ」
もう何戦も見てきたが、こんなネチっこい試合は始めてだ。
殺すためじゃない...ほぼ虐めに近い。
「ちょっと性格悪くね〜あの戦士っ」
足を投げ出し文句を吐き捨てて、オレは共感を求める──
──そうだよ。見ててイライラするのはよ...いつもこういうのを止めている、おまえがいないからだろが...
「...なあ?ヒール──」
...あ?
なんだよ...その顔...
...おまえ
一体
どっちを期待してんだ───
ヒュッ...!
「──シッ!」
苦し紛れのパンチは躱されて...
ボゴオッ...!
「ぐっ...」
返しのブロウに悶えうつ。
タンッ...
逃げのステップで距離をとり、わずかにも息を整える。
ハア...
ハッ...
...ひどい。
まるで...自分の上位互換を、見せられている気分だ。
攻撃・防御・回避。彼はそれぞれのアクションに...必要な箇所へ、必要なだけの魔力を的確に...
全くもって、無駄がない。まさに鉄壁と言うべきか...
...しかも、こいつッ───
ダンッ!
僕はダッシュで飛び出して...相手を無視するように、斜め前へと抜けていく。
そこには大きな岩があった。
トンっ
その岩壁に足をのせ...
ダ
ンッ!
自分を、射出。今度は別の岩壁へと飛び移り...
一瞬、敵の背後をとる。
彼はすぐに振り向き始めるが...その隙を突き...
ヒュンッ
飛び込みっ
蹴りをッ!!
「...」
グオンッ
「!」
彼の背中から、鉄の塊が伸びてくる...
ボ
ギュウウ
ンッッ
それは物凄いスピードで、僕の顎とみぞおちを押し込んだ...
「ぐはッ...!」
体ごと宙に吹き飛ばされて、
ズ
シャアア
アッ
と、舞台の端ギリまで擦れていく。
「ッう...」
───これだよ。
こいつ...自分がピンチになると、普通に魔法を使いやがる!
「魔法を...使った...」
「...2度もっ!使った...!」
僕はヨロリと顔を上げ、不正を叫ぶ。
素手の勝負だと、言ったのに──!!
「...そうだが?」
「何か文句でも?」
悪びれる様子もない。
その通り...悪いのは、魔法を持たない僕だから...
「今...君の命は宙吊りなんだよ」
「おれのささやかな温情で、生かされているだけに過ぎない...!」
「...」
「...もう、分かっただろう?」
「魔法が有ると無いとでは、戦いの次元が違うんだよ」
「君が工夫を凝らしてかかっても...おれはボッ立ち後出しで勝てちまう」
「お話にならない」
「はい...」
その通りで...彼は殆ど動いていない。
最小限の動きだけで、無駄なく全てを捌ききる...それも魔法の力なればこそ。
酷い...僕の...上位...
...どうして?
あなたは、僕から...全てを...
「諦めろ。おまえは戦士に向いていない」
「少なくとも、魔法がない限り──」
「──そんなのっ」
「...僕はもう、魔法を使える見込みが無いんです!」
「今の僕でも、やれることがきっと...」
「じゃあなんだ!?毒か爆弾でも使おうってか!!?」
「それで...!」
ザッ...
僕は立ち上がり、声を張り...!
「それでお役に立てるなら!僕は何だって──」
「──残念!ダメだ!!」
「ええっ!!?」
あまりにも率直に拒否される。
彼は空気を吸い、激を放つ───
「毒で地雷で!制圧した土地に!一体誰が住みたがる!!?」
「誰もいない!荒廃した土地が増えるだけだ!!」
「ぐっ...」
「戦争の意義を忘れ、ただ殺すことのみを目的とすれば...人はどこまでも堕ちていく」
「しまいには、この星もろとも道連れか...」
グ
グ グ...
彼の左手に、鉄のボールが握られる──
「──その点、魔法は優秀だ!!」
ブオンッ...
それは僕の顔面へと、一切の容赦なく投げられる...
「ひっ」
...避けられない。恐怖で体が仰け反って──
フッ
「──え?」
けれども当たる寸前で、ボールは煙のように消えてなくなった。
ペ
タンッ
勢いに負け、僕は情けなく後ろへ倒れ込む。
「...魔法で作られた物質は、やがて魔素へと還り空に溶ける」
「即ち...戦争における魔法とは【環境を汚さない兵器】ッ!!」
「この100年続く戦争での、暗黙の了解を満たす」
戦争がここまで続くのは...こういった両者の配慮も絡んでいる。
「──魔法を使わないという君は!環境を無視すると言うも同然!」
「ハッキリ言うが論外だ!帰ってくれ!!」
一際語調を強めて締めくくる。
「君自身の足で、この舞台から降りろ」
「その瞬間...君は戦士ではなくなる」
「!」
「普通の人として生きるんだ」
「...」
場外負けは、このために...
僕は首を回し、外を見下ろしてみる。
石造りの舞台の、一段下には...暖かい土が広がっていた。さらに見渡せば、ちらほらと...厳しい冬にも草花が。
なぜだろう。それを見ていると...
かすれた本音が、溢れ出るんだ。
帰りたい
痛い
戦いたくない
嫌い
僕ばっかり
不公平だ
痛い
どうして?
ひどいよ...
「気に病む必要はない」
「普通の生活...むしろそれは、本来おれたち全てが享受すべき幸福さ」
「こんな時代じゃなければな...」
「...」
この土に、手を触れさえすれば...
普通の生活、僕らの願い...
起きて、食べて...働いて...
皆んなと会って、共に語らい...
お家に帰ってご飯を食べて...
あっついお風呂でふやかして...
やること全部、片付けて...
あったか布団で眠るんだ...
それが...ああ...
こんなにも近くに...
でも
それをしてしまったら、僕はもう──
(──リント?)
「...!?」
突然、頭の中で呼び声が響く。
(リント、聞こえてる?)
...ジョンにい...の、念話だ!
「(あの...ジョンにい?)」
僕はできるだけの小声で応対する。
僕の方からは口頭じゃないといけないが、無線で繋がってるような状態のようで...どんな小声でも伝わるみたい。
(ああ、リント...いいかい、良く聞くんだ)
「(いや、その...)」
(私の指示に従って。彼に一撃くらわして、落とし所を作るんだ...)
「そ、そうじゃなくて!」
「ダメじゃない!!?試験中にそういうアドバイス...」
「...?」
あ...声を少し張ったせいで、彼に怪しまれてしまった。
「...まあ、大事な決断だからな」
「ゆっくり考えていいぞ」
(...何にせよ、君が戦士になるのは認めないがな。命を無駄にすることはない...)
「...ありがとうございます」
(あの...リント?)
「(いや、いいですって...)」
(しかし...彼はもう、君を殺してはくれないぞ?)
(時間の遅い、夢の中なのをいいことに...君が心折れるまでいたぶるつもりだ)
「(大丈夫ですから)」
(...何か、考えがあるのかい?)
(今の流れ的に...君から降参すれば、即不合格扱いになりそうだが)
「(ええ。もう大丈夫です、ありがとうございます)」
「(あとは任せて...)」
(そう...)
ガチャッ...回線が切れたような感じがした。
「ふうっ」
ジョンにいのおかげで...少し落ち着いて、周りが見えるようになった。
そこで見えたのは...彼女。
それから──
「ヒール...」
君って...結構、分かりやすいよね。多分、自覚はしてないだろうけどっ。
はじめから、僕が...諦めるわけがなかったんだ。
そう...行かなきゃ。
僕たちの故郷を、取り戻しにっ!
ザッ...!
「立ったな」
「...で?」
ゴ
オ
オッ...
遠くからでもバッチリ伝わる威圧。
この距離感...もしかして、まだ僕が魔法を隠してるかも〜とか、警戒してる...?
「...」
だとしたら、スゴいよ。
ザッ...
これが、本物の戦士──
「...やる気か?」
──勝ちたい!
あなたに!
「エイトさん!」
僕は、喉を震わせて声を発す。
「なんだ!!」
彼も合わせて声を張る。
「僕は...」
僕は、言葉を紡ぎながら...舞台の端に沿って歩く。
ザッ
ザッ
「僕は、戦士になりたい...」
その道中で、あのとき根本から折られた刃を拾う。
「魔法の無い君に...」
「一体何ができる?」
「...それはっ」
さらにそのまま、少し歩き...
ザッ...!
位置について、立ち止まる。
「それを今、お見せします──」
姿勢を低く、刃を握る。
チャキッ...
「──あなたに勝って!!」
「へえ...!」
グググ...
強く... 構えて...
狙いを...定めて...
「──シッ...!」
ンッッ...
ュウウ
ドヒ
長い刃を...緩く、すくいあげる軌道で投げつける。
ダンッ...!
それと同時に、僕は刃を追うように走り出す。
ヒュッ...
「...」
彼の足へと、向かうそれは...
スッ
軽く足を上げるだけで躱される。
やっぱり、魔力を使わない。無駄のない、最小限の動き...
「おい...」
「大事な武器を、捨ててどうする」
...流石、あなた!
ダッ
タッ
「馬鹿正直に...よくもまあ向かってくるもん──」
...ッュヒ
ザ
クッ
「...は?」
彼の膝の裏に、刃が突き刺さる。
ジュウっ...
「なん...」
(なぜ後ろから...躱したのに...)
(まさか、魔法...)
ガ
クンッ
咄嗟のことに、彼は大きく体勢を崩す。
今しか
ないんだ──
ダンッ...!
「...!」
(しまっ──)
ド
ゴ
オオオ
ンッッ!!!
全体重をのせた、渾身の飛び蹴り。
「ぐはっ...」
さしもの彼も、後方へ吹っ飛び...
ド
シャアアアッ...
「「あ!!!」」
『場外』
『終了です』
彼の背中が、地に着いた。
「...や」
「やった...」
僕の、勝ちだ──
「「──おおおおおお!!!!」」「「リントおおお!!」」
会場は、一気に沸き立った。
「...?」
彼は倒れ仰向けになったまま。
フワッ...
やがて煙が満ちて...僕らの傷も、位置も、元通りへと。
『退場してください』
「...」
(分からない...なぜ、後ろから...)
(それともやっぱり、あの子は魔法を...)
「──あのっ」
彼の背の方...観客席から声がかかる。
「...!」
「トレスティア...」
「...すみません」
「いきなり、剣が飛んできたので...つい」
「...」
「ははは」
「えっ」
「ハハハハハ!」
(そうかい...トレスティアの『反射』を利用したか!)
(あの変な歩きは位置調整...おれとトレスティアが直線に並ぶように...)
「あの...」
「いや、良いよ別にっ」
「──エイトさんっ」
「...ん?」
僕は、指示を無視して彼の元へと向かう。
『退場してください』
「そのお...どうですかね」
「結局、僕...人の魔法に頼っただけで...」
「ハッ」
「...え」
グイッ
「わっ」
グイイッと彼が、強引に肩を抱き寄せてくる。
「良いに決まってるだろ?!」
「その発想力は頼りになる」
『退場してください』
彼はヌルッと、抱き寄せた手を僕の手に差し出す。
「よろしくなっ」
「!!!」
「はいっ!」
ギュッと熱く、握り合う。
『退場してください』
「悪かったな、暴力ふるって」「いえいえ...それを言ったら、こっちだって顔に飛び蹴りとか...ねえ?」
「ははっ」「えへっ」
『退 場 し て く だ さ い』
「んん...」「あはは...」
僕らはそそくさと、手を離し。
そして互いに、背を向けて...
ザッ
晴れやかな気分で舞台を後にした───
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