波状攻撃 その①
「じゃあそろそろ...殺しにいくぞ」
そう言うと彼は右ポケットから、剣の『持ち手』を取り出した。
刃が...ない?
なんで──
グ
グ
グ
グ...
「──!!」
柄の根本から、長い鉄板が生えてくる...
今、魔法で剣を造っているんだ...!
その伸びは単調なものでなかった。目に馴染む、真直ぐな線から並外れ...極大極小を繰り返し、関数的にうねる刃。
グ
グ
グ...
──波状の剣、フランベルジュ──
「知っているか」
「一般に、剣に使われる鉄は純度がおおよそ98%」
「2%程の不純物を含む」
「だが...」
剣を高くかかげ、不敵な笑みをたたえる。
「おれは100%だ」
「「おおっ!」」
「なっ!?」
純度100%の剣だって!?
確かに鉄を生み出す魔法なら、それも可能...なんということか!
生まれたばかりの新鉄は、冬の北風を受けて産声を放っていた。その生の輝きが眩しくて...僕に担がれた剣が情けなく見えてきた。
そんな僕の引け目を、彼は遠目にほくそ笑む。
「フッフフフ──」
「「──純度100ってさ、逆にダメなんじゃなかったけ〜?」」
ある観客の、ひょんな言葉が、プツリと僕らの耳に入る。
「「そうなの?」」 「......」
「「うん〜。少しは炭素を含んでないと脆くなるはず〜」」
「「マジ?ならアレ恥ずくね?w」」
「──その通りだ」
「「あっごめんなさい」」
...????
「まあ...」
「...実のところ、純鉄というのは酷く脆い」
「そ、そうなんだ...あだっ」
拍子抜けた僕の後ろ頭に、担いだ剣がコツリとぶつかった。
「...これだけでは、戦闘には向かない」
「だから少々魔力をなじませる」
ズズズ...
「!」
確かに目を凝らしてみると、何か色が混ざって見えた。
やはりあの異常な硬さの正体は魔力...
「フフ...『魔鉄』、と言ったところかな」
彼は刀身の美しさに、酔いしれているご様子で...
...何なんだこの人、さっきから──
「──気づいているか?」
と思いきや、ギョンとこちらを睨みつける...!
「...!?」
そのギャップに驚き、ぴくりと体が強く張る。
「足元」
そう硬く言いやってすぐに、僕の方を指差す...
「...あっ!!?」
ド ド ド ド ド
ド ド ド ド
ド ド ド ド ド ド
「いつの間に...!」
周りに小さな、画鋲のような鉄針が...天を刺すように広がっていた!
「今っ更、気づいたみたいだな」
「周りがまるで見えちゃいない」
「くっ...」
そうか...ちゃけた話で気を抜かせ...剣をかかげたり、客の会話に乗ったりしての視線誘導...!
「...ッ!」
ばか、僕!これは死合の最中なんだ!!
キッと僕は、緩めた気をまた張り直す。
「そうだ。その目を保て」
「死ぬまでな...!」
ダンッと強い踏み込みで、とうとう彼が動き出して...
「んっ」
邪魔だな...この針は。
スペース確保にピッと払う足が、まずその違和感に気がつく。
この針...見た目より、はるかに重い...!?
「当然それにも魔力を込めている」
「気をつけろ...うっかり踏んだら痛いじゃ済まねえぞ」
そう警告をしながらも、彼はザッザと距離を詰めてくる。
ザッ...
どうする...また跳んでここから離れるか?おもいっきりジャンプすれば、この針地帯からは容易に抜け出せるだろう。
だが彼が鎧を脱いだ今では、安易な逃げが通るかは分からない。
上に一度跳ねてしまえば、着地するまでは隙だらけ。
むしろこうして地に足つけて、ただ次に備えるほうがまだ...
ザッ
ザッ...
いや、というか!この針地帯が厄介なのは、あっちの方も同じはずなん──
フッ...
「んあ」
──消えた。彼の踏みかけた針だけ...
ザザッ
そうだよねっそっちの魔法だもんね...
ヒュ
ンッ...と短く風を裂き、歪んだ刃が横から肩に迫る。
「...っ」
針によって縛られた空間では、体を後ろに逸らし躱すしかなかった。
そんな体勢なもんだから、もちろん二撃目は防げない。こうなることは、分かっていたのに...
ビ
イイイ
イジュッ...!
「ヒ..ぐ...ッッ!!!」
下からすくい上げられた剣が、僕の二の腕から左肩の辺りを抉り出す。
ドサッ...
白黒と...視界が明滅する激痛に、そのまま後ろへ倒れ込む。
「うう...」
ビルビルと、我先に血たちが流れ出す。
痛い...なんで...なんで、こんな所を...!
どうして首を刎ねてくれない...!
「...」
彼はへたりこむ僕を見下ろし、静かに口を開く。
「君の正解は、この針の上を走ることだった」
「...!?」
「視認性を落とすため、針には大して魔力を込めてない。色の混ざり様から判断はつく」
「足の裏に魔力を纏っていれば、靴が破れるだけで済んだだろう」
そう言うと彼は...
ガンッ...!
「ほらな」
と、足で踏み実演してくれた。
針の上を走る...安全と分かっていても、なかなか見た目には...
ドクンッ...
「うう」
「...」
冷めぬ痛みに悶える僕を見て、だが彼は冷たく言い放つ。
「次だ」
「え──」
ドガッッ!!!
脇腹に強い衝撃が...
「──ッッ...!!?」
蹴ッっっとばされたのだ!
ズザアアアッ...っと、舞台の端すぐまで飛ばされる。
「ぐうっ」
「立て」
「ンん...!?」
「傷は浅いはずだ」
「立て」
あ...浅い...だって!?
この抉り取られた深手の傷が...
...???
少なくとも、血は止まっていた。
アドレナリン...だったっけ?
興奮してると出るそういうモノが、なんか止血に良いんだっけな...
ググッ...
そうか、僕はまだ戦えるのか。
「立ったな」
「次は君から来い」
「言われなくても...!」
やってやるッ!!
ダ
ンッと、負けじと跳ねるように走り出す。
彼はそれを見て、まだ動き出さず。
「フッ...」
グ グ
グ...
左手に、鉄のつぶてを握り込み...肘を振りこちらへ投げつける。
ヒュ ヒュンッ...!
痛そ〜な尖った鉄のじゃりんこが、放射状に広がり襲いくる。
スッ
スッ
ステップで右方に逸れて躱して、そのまま最寄りの小岩へと押しかける。
ズヌッ
やや強引に、岩の下へと足をねじ込んで...
「おかえ...しッ!」
グ
オオ
ッ...!!
「!?」
相手の方へ、パスを出す。
グ
ル
ウ
ンッ...!
彼は安全な、魔力での受けを選ばずに...大振りな飛び込み前転で逃れる。
やはり最初のパフォーマンスで、魔力を大分消費したのか...かなり無茶な避け方をしてまで、節約を心掛けるようだ。
ダ
タッ...!
そこにつけ込むようにして、僕は一気に距離を詰める。
「ちっ」
ググッ...
相手はまだ、立ち上がる途中...彼を仕留める、大チャンス!
...そうか、今なんだ!
僕は駆けつつ、ここぞとばかりに背中から...持て余した剣を引き抜いた。
「!」
それに気づき、彼は立ち膝で剣を構えようとする──
──僕のが早いっ......多分ッ!
シュ
ッ...
...ヂッ
「!」
僕の振り下ろした長刃が、彼の切先に軽く触れる。
ピ
キイ イン
「ああっ!!」
たったそれだけで...
ピュンっ
僕の刃は、無惨にも...根本からポキリと吹っ飛んだ。片や魔剣、片や借りた剣。
慣れないものをあえて使うという、明らかであからさまな愚行...
──バランス思考。せっかく剣を持ってきたのに、使わないなんてもったいない。
そんな心理が、このミスを生んだ──
カラアンッ...
金属の、カン高い音が静寂を作る。
「...仕置きだな」
ビ
イイ
イシュッ...
「ぐあっ!」
こ、この...さっきと同じところに、もう一度...!?
ザッ...
再び抉られた、僕の左肩。
「ひっ」
僕自身でも、見たことのない...僕のリアルな断面が。
夢の中なのに、どうしてこんな...
ぐじゅる赤黒い穴ぼこが、自分の体に嫌悪を抱かせた。
──フランベルジュ。波のような形状、その目的は...相手に傷を残すこと。
うねる刀身は、真っ直ぐなそれとは違う歪んだ傷跡を作り、ゆえに治療は困難である──
「いいっ...たあ...」
まだ戦闘の最中にして...また甘えるように、うずくまる。
実際彼は、追撃こそ入れないものの...これで終わりとは言わない様子で見下ろしている。
「...」
「さて、君の剣も無くしたところで...」
フッと、彼の剣が持ち手だけになる。
それをポケットにしまい込み、
「次だな」
...両の拳を握り込む。
...は?
「...何のつもり?」
「何って...」
「剣を奪ったんだから、君はもう素手しか無いだろ?」
「その小さいナイフでやるなら別だが」
「だとしても、あなたが剣をしまう必要はないでしょ...」
「気にするな。単にフェアプレイの精神さ」
ニッ...
「...ッ!」
違う...違うぞ!
この人は!
僕の最後の拠り所、徒手への自信も折るつもり──ッ!!
「ふざけるな...!」
肩の血の気は、とうに引いた。
代わりに血の気が沸き立った───




