純鉄の体
何やら、相手の男がリントに近づいている。
「なにしてんだ?」
ダイキは口を平べてそう呟く。
「なんか話してるっぽ〜?」
対してサヤカが軽口に答える。
「なんだろね...」
リントら2人は接近し、何か会話をしだした。だが遠く、その内容は聞き取れない。
「...」
ジ〜っ...
そこで、俺はお得意の読唇術で会話を読み取ってみる。
「...そちらは...でしたよね?」
「...ああ...気になることが...」
「君が...魔法を使えないって...」
「!?」
「!?」
共鳴し、思わず俺の目も開かれる。
「どした?w」
ばっちりと、その様をサヤカに目撃される。
「...リントが魔法使えないって、相手にバレたっぽい」
「は」「えっ」
「待ってね...」
驚くサヤカらをそこまでにして、ひとまず集中してまた覗く。
ジジ〜っ...
「...本当なのかい?」
「ええっ!?いや、その...」
リントはドギマギと狼狽えている。
「...ど、どこでそれを──」
「──どこでもいいさ。今知りたいのは事実かどうかだ」
「んえっ...」
両の目が、あからさまに無尽に泳ぎ出す。
...おい、隠せよ?
どうせ戦士になったらバレることでも...
「...ホントです──」
「──あほ!!」
ガ
タッ!
「「...?」」
シ〜ン...
「あ...」
つい力よく立ってしまい、悪目立ちしたことを自覚する。
「...」
「ドあほっ!」
ドカッ...
捨て台詞を吐いて着席した。
「どうしたよおまえ...」
あのダイキから、心配そうな目線をかけられる。
「リントが正直な子だった」
「お、おう...」
ジジイ〜ッ...
「そう...」
「そ、そうか...」
筋骨豊かでたくましい戦士が、顔をしかめて悩んでいる。
...どうせ後でバレることでも、この試合のうちは黙るべきだった。
そうすれば、あの相手にとっては...リントは魔法を使えないのではなく『使わない』だけ。 魔法がいつ使われるだろうかと、相手に圧をかけられる。
それでいていつまでも使わないリントに、不気味さすら感じるはずだ。
なのに、リント、このドあほっ!
って、言うんだろなあ...ヒール。
...ここで隠したって、しょうがないと思った。魔法が使えるフリとか、そんな器用なマネは出来ないし...いっそ開き直った方が動きやすいんじゃないか。
『...よろしいですか?』
痺れを切らし、新種のアナウンスが流れ出た。
「はい。すみません...」
彼はそれだけ言うと背中を向け、ようやく位置に着きに行くかと思ったが...
「...正直、信じ難いことだが」
「君が本当に魔法を使えないのなら...」
クルッ...
「!」
振り向いて見せた、その顔は...たぶん僕だけが見えたその表情は...
正しく『戦士』の形相だった。
「...君を戦士にするわけにはいかない」
「!!」
ザッ...!
そしてようやく、彼は本来の位置に向かう。
...そうだよね。魔法が無いのに戦士って...茶化しに来たと思われてもおかしくない。
僕だって、おかしいと思ってるし。
ザッ...
実際今まで何度もなじられてきた。近所の人に、クラスの仲間たちに...
【無能が戦士を目指すな】
...いつもヒールが助けてくれるから、物理的なイジメに合うことはなかった。
ヒール...
...ありがとう。心配してくれて。
でも、僕は本気だよ。
そう言う道を、僕は選んだ...!
ザシャッ...!
『...では、はじめ』
彼の足が止まるとすぐに...あっさりと戦いは始まった。
シーン...
「...」
やっぱり届かない外野の声...けれど自分の鼓動の音だけは、確かにここで感じられた。
ややもった沈黙の後...彼が先に口を開く。
「先に聞いておくが...」
「...記念受験じゃないよな?」
「いえ...」
「本気で戦士になりに来ました!」
ただ殺されに来るような変態はいないだろう。
「なぜ戦士を目指す?」
「魔族に奪われた土地を取り返すためです」
「そうか」
「...なら、心配はいらない」
「おれたちが代わりにやるから──」
「──僕自身の手でやりたいんです!」
「は?」
ゴ
オッッ...!!
「うぐっ...」
にじりよる彼の冷たい気迫に、うぐっと気圧される。
すばやく臨戦体勢をとる僕に対して、また彼が言を発する。
「熱意は良い...だが自覚が足りない!」
ザッ...
「魔素の関係で、上層は魔族が来れず平穏だ(なんか去年に例外起きたけど)」
「つまり上層にいる内は...魔族なるものへの実感がわかない」
ズズ...
「...!?」
彼の体の周りから、いきなり光る粉々が現れた。それはどんどん増えて、彼の体を包んでいく。
そして気づいた...あの光の正体が、『金属光沢』であると。
あの色と質感は...
『鉄』だ!
ズズ...
そう納得した頃には、すっかり彼の姿は見えなくなっていた。彼を包んだ巨大な鉄の塊は、徐々に広がり形を変えていく。
グググ...
ぐぐぐと伸びて尖っていく様を、何もできずにただ眺めて...
「!」
ようやっと、彼の意図が読めた。
「「おおっ...」」
尖った指に、ゴツゴツした二脚。膨らんだお腹に、突き刺さるような棘のある背中...歪なクチバシに、やはりゴツゴツとした腕...
その全てが、眩い鉄でできていた。
「ふう」
ガシャアッ...
「...四脚ッ!」
巨大な質量が前腕を着き、ただそれだけで舞台を揺らす。
「...実感がないなら仕方ない」
「教えてやろう。魔族のリアルをな...!」
「魔族の...リアル!」
...僕はそれ、知ってるんだけど...
ガシャ...
ゴ
オ
オッッ...!!
「!」
煌めく巨躯が、地を駆ける...!
想定以上に長引きましたが、彼がこの章の大ボスです。その後がこの章の本番です!




