!?
舞台脇から通路に出て、長い廊下を渡るとき。向こうからスタタ〜っと、小走りに駆ける人が見えた...
「...!」
それはリントだった。
「わあ、迎えに来てくれたの──」
「──忘れてたのッ!!」
「!?」
「僕、ヒールの次だから...もう控室にいなきゃダメ!!」
「あ〜...」
そういや連番だったな。なんともせわしない...↓
リントはそのままピュイっと、俺の背中を過ぎかけた所で...
「んっ」
キュイイッ...と立ち止まって、にわかにこっちを向く。
「おめでとっ!」
「!」
ニコリとそう言い放ち、また足を伸ばして去っていく...
そこで俺は、周りに人がいないのを確認し...
パッ
「!?」
ダッシュ中のリントの前方に転移する。
「ふぁいとっ」
そう言って手を開き、それをゴールテープのように差し出した。
「...うんっ!」
バシイッ!
選手、交代。
ひゅひゅ〜っと口笛を吹き、ヒールは僕を送り出した。
タッタッタッ...
「!」
長〜い廊下を駆け抜けて、ようやくそれらしい部屋へとたどり着いた。
それらしい、部屋...
そこには多種多様な武器が、これでもかとズラリと並んでいた。
【受験生用】
【ご自由にお使いください】
その中で、そうタグ付けされたコーナーを見つけた。
「む...」
ざっと目を通すと、小さなナイフから特大のソードまで。
弓にクロスボウ、ブーメランに吹き矢...
「むむ...」
さらに見てみれば、ハンマーや斧...なんかもうシンプルな棒切れまで...
「むむむ...」
ここまで多いと、悩ましい。
一応、手元には愛用の解体ナイフがあるけれど。戦闘に使えるかは微妙...困ったものだ。
物騒な物物の前で、そうして頭を捻っていると、
『入場してください』
ド
ク ン
「あ...」
廊下の方から、開いた扉を通って例のアナウンスが聞こえてきた。
ドッ
ドッ
あ...
始まる...
ホントに、始まるんだ...
不意をつかれ、心臓が跳ねるのが分かる...
「...し、しまったあ!」
それを紛らわすように、わざとらしく声を出す。
ガタッ
と立ち上がり、急いで向かおうとするが...
「...」
やはり手持ち無沙汰が気になって、僅かに立ち止まる。
「ええっと...ん〜」
「これっ!」
僕はほとんど適当に、中ぐらいの剣を手にとって廊下に出た。
シュタタ〜ッ...
剣なんて、全く使った事ないけれど...最悪投げるだけでも役に立つだろう。
い〜や待てよ!?それなら使った事ある弓にすれば良かった!
でも今更あの部屋へは戻れない...
ちくせう!
見た目の良さに惹かれてしまったあ!!
...いや、そういう問題じゃないよな。
...結局、試験当日になってまだ...僕は魔法が使えないままだ。
だからこそ、徒手格闘は人一倍磨いたつもりだけれど...やっぱり、不安は拭えない。
鍛えた腕に自信があるのなら...この土壇場で、慣れない剣には頼らないだろう。
放送が入って...いざ始まると実感したときに...ぞくりと背筋が凍てついた。
それを抑えんがために...僕より冷えている...相対的に自分の熱を感じられる、この剣を取ってしまったのだ。
ううっ...やっぱり皆んなが羨ましい...
さっきのヒールはすごかったんだ!
みんなの喝采を浴びていた!
僕もあんなくらいに褒められたいよ...
自信が欲しい...
...もしくは、その試験なのかも...と思った。
僕が、僕自身に自信を持つための...
そうっ。
グッ...!
そのために!
ここで、証明してみせるんだっ。
魔法がなくても、やれるって!
ザッ...!
「「ワアアアアッ!!」」
リントの登場と共に、会場が沸き立つ。
さっきの俺の勝利を経て、皆の期待が高まっている。
「お、来たね〜リント」
横の席で、サヤカが冷えた手を擦りながら言う。
「期待されちゃってるぜ〜、大丈夫か?」
そのサヤカの隣から、ダイキがこちらを覗き込む。
「まあ、ブーイングよりはマシだろ...」
「...というかお前ら、いいのかよ!?勝手に席変えてっ!」
この2人は、隣同士の俺やリントとはかなり離れた席のはずだが。
俺が戻ってくると、なんかちゃっかり近くに座っていた。
「いいでしょ〜別に?こんなに席空いてんだし...」
サヤカがぬるっと見渡すと、まあ中々の空席が確認できた。
試験を辞退した者たちの隙間である。
「そ〜」
「〜れに?こんだけ騒いで怒られねんだし、今更だろっ!!」
ダイキも賛同し、両手両足をめいいっぱい伸ばす。前も後ろも、空席であった。
「悪ガキ共が...」
俺は真人間代表として、キッと2人を睨みつける...が。
「皆の前で女の子脱がせた変態に言われたくな〜いっ」
「うっ...」
ちょっと俺自身も気にしてた事を指摘される。
「...いや待て!あの人戦士だから、俺より年上だぞ──」
「──そう、可哀想だぞヒール!おまえ大人しく殺されとけよっ!」
「ひどいね!!?」
「...」
「試合見ようぜ...」
「そね」「おう」
「はあ...」
俺は深〜く背もたれによりかかり、それから舞台に立ったリントを見守るモードに入る。体が少し固まってるようだ。
「「ヒューーッ!!」」
相変わらず、すごい歓声である。
やりたい放題だなマジで。後で全員不合格とか言われても知らんぞ...
しかしまあ...単に今の会場の雰囲気がそうというだけでもあるが...
本当に、皆のリントへの評価は変わったなあ。
あの無能扱いから、ずいぶんと躍進したものだ...
「...」
...心のどこかでは、むしろそう呼ばれ続けることを願っていた俺の邪念は...あえて白状するものではないだろう。
俺の望みは、リントとただ平和に暮らすこと...
だが1番の願いは、リントが幸せになることだ。
もう戦士になり、故郷を取り返す事でしか...その幸せが望めないのなら。
俺はもう、お前の邪魔はしない。
だから...死ぬなよ...
「「ワアアアアッッ!!」」
...すごい...何も...
何も、聞こえない。
なんだろう...皆の口が、激しく動いているのは見える。なのにその一切が...僕の耳には入ってこない。
極度に緊張すると...こんなことまで起きるのか。
...証明する...できるのか?
こんな、体たらくで...
「!」
向かいの方から、僕の対戦相手が登ってきた。
白けきった冬景色とのコントラストが際立つ...健康そうな褐色の肌をした男。
それは...遠目で見ても分かるほど、鍛え抜かれた強い肉体...
プシューッ...
僕が彼を分析するより前に、早くも夢見花の煙が立ち昇る。
フワッ...
やがてそれも晴れたので、また彼の見目から探ろうとしたが...
ダ
ンッ!
「!?」
いつの間にか、彼は僕の目の前に立っていた!
「えっ...?」
『...位置に着いてください』
困惑する僕とアナウンスに動じることなく、この人は...
「すみません、少し...」
と、機械音の音源に待ったをかける。
「ど、どうかしましたか...?」
そして背の高い彼は、僕を見下ろして言う...
「リント君...だよね?」
「ああ、はい」
「そちらは...エイト...さん、でしたよね?」
エイト・フェルグリム、だったなあ...確か。
「ああ。そう...でも、そこが聞きたいんじゃなくてな」
「少し気になることがあって...」
「気になる事?」
聞き返す僕に対して、彼はおもむろに告げる...
「君...」
「魔法を使えないって、本当?」
「!?」




