良薬は口に...
「「なんだぁ?急に...」」
「「倒れちったよ...」」
開始直後、いきなりぶっ倒れた俺の耳へ、当惑した外野の声が歪んだ軌道で入ってくる。
纏い付くような倦怠感が体を支配する...それから、耐え難い頭痛に吐き気...
そして──
「──気分はどうじゃ?」
甲高くブーツを鳴らして、幼顔の戦士が歩み寄る。
「..あ....」
俺の喉から、搾りかすのような声が漏れる。
「倦怠感に〜頭痛や吐き気、それから熱暴走...体が内からハジけるようじゃろっ?」
彼女は指を空へ、筆するように運びつつ語る。
「これは『魔素・魔力の中毒症状』じゃ」
「...!」
「魔素の濃いところは危ない!とは聞いても、実際どうなるかまで知っとる者は少ない」
「初めてじゃろう?自分の許容量以上の魔力を得るのは...」
...やはり、そうか。
「もう分かったかの?」
カンッ!と、彼女は杖の先端で地面を突く。
「わしの魔法は、『自分の魔力を渡す』魔法じゃ!」
「「おおっ...」」
と、会場でどよめきが立つ。
「そう...じゃから、普段は魔力の補給役として働いとるが...」
「魔力量の多い魔族はともかく、人が相手ならっ...」
そう言いながら、手に持った杖をこちらに向ける──
「うぐっ!」
すると、体から出る熱は一層激しさを増す!
「う〜む...」
「このままポイっと、場外に投げても良いのじゃが...」
彼女は上空のモニターを僅かに見やり、だがすぐにこちらへ向き直る。
「それじゃとなあ〜...」
それからスッ...と杖をクラブのように振りかぶると、
「...!」
バ
コッッ!!!
横になった俺の腹部を、容赦なく振り抜いた...!
「んぐうっ...!」
「「わ〜〜ッ!!」」
ぐるぐると回りながら吹き飛び、全身で観客の声を浴びる。
ド
ザアアーッ...
それから熱く地面を擦り、綺麗に舞台の中央で留まる。
「く...」
その杖は見た目通り、ただ木の塊であった。鈍い痛みが腹に残る。
「この試験は主に、君らに死を体験させることが目的じゃからのっ」
言いつつゆったりと、またこちらへと歩を詰める。
カツン
カツンと、少しずつ...
ヒュッ
今度は垂直に、振り下ろす打撃。
ゴスッ...!
「がっ...!」
衝撃を逃すことなく、その全てが横っ腹に注がれた。
シロップのような甘い唾液が、反動で口からだらりと垂れる。それが頬を伝い、地面にぴとりと着く始終を、彼女は横目で見届ける。
それを見守る、もう1人。
「ひ、ヒール...」
「なんで...魔法が使えないのか?」
「別に体が動かなかったって、転移なら...」
「...ちなみにじゃが、この試験には一応も〜ひとつの目的もあるんじゃ」
「それはな、君らの心をひとまず折ることじゃ」
「...え?」
頼りない声色で疑問を垂れる。
それに応じる形で、彼女は横腹に置いた杖をどけて言う。
「うむ。君ら若い子は総じて、いわゆる『根拠のない自信』ちゅ〜もんを持っとるじゃろ?」
「不安を感じたり、失敗を味わっても...心の芯では自分を信じきっとるから、たいていは立ち直ってしまう」
うだる熱の中...並べられる彼女の言葉は、未知の記号のように耳へ伝わる。
「それは子供の挑戦心を助け、成長を促進する良いものじゃが...」
「何かしら強い力がかかり、折れてしまうと大変じゃ」
「しばらくは鬱気味...まともに動けなくもなるじゃろう」
......
「誰しもがどこかで経験することじゃ。そしてそれを乗り越えれば、また成長に繋がる...けどなぁ」
「その『どこか』が戦場では困るのじゃっ」
「戦争に出て、魔族の脅威を...本当の死の危機を前にしたとき、これまでに挫折を経験したかどうかで、対応の速さには天と地ほどの差が生まれる」
「心を折られ、今年は途中で退場した人らも...また来年受けにこれば良い」
「そのときはきっと、今年より......」
「じゃからの...っておい、聞いとるか?」
ぐりぐりと、杖で横腹をつつき出す。
「...ッ!!」
地味〜に深くねじ込まれていく。なんだ...話が終わったのか?
...全く聞いてなかった──
「じゃからの...わしらも好きでやっとる訳じゃないのは分かっとくれ...!」
再び、杖を大きく振り上げると...
ブンッ
ゴ
ッ...!
遂にそれは、無防備な頭へと振り下ろされた。
「「ああっ!」」
「...!」
骨が、軋む音...それを誰より間近に、直に聞いた。
す...
ゴッ...!
ゴッ...!!
ゴッ...!!!
体の内からも...外からも...度し難い痛みがとめどなく。溢れ出るシロップは、次第に苦味を帯びてきた。
この苦痛は...恐らく俺の人生で最大級の...
──なのに...さっきから、ずっと...俺の体を、頭を真に支配するものは...
重なる頭部への衝撃で、混ざってぐちゃぐちゃになった...思い出の濁流...




