折れた剣 その①
間合いを詰め、剣を交えた時。確信ではない...が、それに近いものを感じた。
彼の魔法も、戦闘向きではない...!
...今度は、ゆっくりと...互いに測るように歩み寄る。
間合いが大事だ。剣の長さは、私の方が上だから。
カッ...
カッ...
大きなモニターが、影を落とす。映された波動は不思議と落ち着いた、ゆるやかな正弦波であった。
あるいはそれを見れば、敵の仕掛けるタイミングも計れるだろうか?
カッ...
私の立つ足場は、少し相手方に傾いていた。こちらが傾斜の、下の方...
グンッ
「!」
...踵を踏み抜き、彼はやにわに歩調を変える。
あと少しで、私の間合いに触れようか...といった所で、彼は不意に身体を沈める。
その緩めた膝を伸ばすと同時に──
ビィンッ...!
──大きく踏み込み、右手を突き出し、鋭い刃先で刺しに来る...!
キッ...
私は両の手でグリップを握り、左の頸動脈を目掛けたそれを刃面で受け止め、左肩の方へ流す...
ここに、大きな差があった。私は両手、彼は右の手...
...彼の左手は、空いていた。
返す刃で、首に滑らせようと...掴まれる──
バ
キィッ!!
「!!!」
──魔力を込めた『握り』は、容易く刃を二分した。
ピインっと、折れた上身が空へ飛ぶ。それが最高点に達するより早く彼は私の背面に抜け、10歩分ほどの距離をとる。
そうして見せつけるように、満足な刃先をこちらに向けるのだ。
こうも早く、武器を失うとは。予想外に伸びたあの一撃に...相手の意図を読み損ねた。
彼には、迷いがなかった...おそらく歩き出した時から、あの一連の流れを組み立てていたのだろう。
何にせよ...間合いが大きく逆転した。
...どうしたものか──
ビュインッ...
──と、無様な音を立て...地面に無用の鉄板が、彼と私を隔てるように突き刺さる。
舞台の小さなヒビに突っ込んだそれは、ぶるりと前後に打ち震える。
その振動が...強く私の脳を揺さぶった。
次第にその刃は、ぐにゃりと歪んで見えてくる。
単調な...メトロノームのように、チクタクと...
それが...酷く、私に...懐旧の念を与えた。
思えば...こうして路面や壁に突き立った欠け刃を、故郷では何度も見かけたものだ。
まったく、治安の悪い街...だがそれは、私にとって...
落ちた刃は土埃を被り、私の顔を映さなかった。濁った光が、私をかきたてる...
...ダンッ!
折れた剣を腰に掛け...駆ける右足で、刺さったままの刃先を乱暴に蹴飛ばす。
「ッ...」
彼は飛び散る破片を軽く振り払い、また剣先を向け直す。
剣の間合に、入った。切先が、怪しくゆらめき輝を放つ。
だから、私は...ほんの一瞬、全身に魔力を纏う。
「!」
ビタッと、彼の振りかけた右手が止まる。剣は温存したいようだが...
...既に、私の間合いだ。
緩く上げた両腕を見せつけて、
ビッ...!
蹴り砕きに行く...その膝ッ!
...は、躱される。半身で前に出た私の左頬を目掛け、彼の左拳が突き出される。
それは......明らかに不慣れなフォームであった。
ぱしっ
愚直に伸ばされた手首を左で捉え、ぐいと強く引き寄せる。
そのままに腰をひねり、右の拳で──
ゴ
ギ
イッ...!!
──伸び切った肘を、完全に打ち砕く。
「...ッ!!」
苦痛に、彼の色が歪む。
けれど、戦いの手は緩まない。
ビチイッ...!
折れた肘への、2度目の痛撃。私は決して、掴んだ手首を離さなかった。むしろ潰すぐらいに、握りしめ...
グボッ!
痛みで動かし、蹴り上げる。良いモノが、顎に入った。
だが...首を動かせば、避けられただろ?
...やはり、そうか。
戦士は、対人格闘の訓練をしていないのだ。それもそう...本来私たちの敵は、人の形をしていないのだから。
つまりこれは、私と彼の育ちの違い...だな。
バゴッ...!
弧を描き、鼻血が舞い散る。やはり喧嘩でまず出る血は、そこからだなっ...!
ビゴッ...!
...誇れることでは無い。喧嘩が強い事なんて...けれど私の世界には、それが無くてはならなかった。
その小さな世界には、ただ暴力が肝要だ。綺麗事なぞ通じない。だがその全ては、私の『綺麗』を守るため。
ゴ
ッ!
そんな私の故郷が...血と汗の混じった、排液の匂いが...そんな、ものが...
吐き気がするほど、懐かしいんだ──
カラアンッ...
──ふと...彼の右手が、剣を手放すのを見てとれた。
その掌は、ゆるりと開かれ...同時に、彼のか細い両目が睨め付ける...
...魔法ッ!!
ドンッと押し出す蹴りを腹に打ち、大きく距離をとる。
彼はその始終を見届け...やがておもむろに、落とした剣を拾った。
...しまった。ブラフかっ!
「...」
彼は何も言わずに...しかめた顔で退き下がり、岩場へと身を隠した。
...次は、離さない。
...待っていろ...私は、必ず...!




