念力少女、宙に舞う
感情の無い掛け声により、戦が始まった。
「...」
真白いお人形ちゃんは、じっとこちらを見つめて動かない。開始が聞こえなかったのか?
...なわけっ。
私は足で、カツンと小石を蹴り上げ──
「...シッ!」
──思いっきし、彼女のお腹めがけてぶん投げた。
ヒュッ...
正しく直線に飛び、それが薄い服に軽くめり込んだ瞬間...!
...ッュヒ
「いてっ」
案の定...石は勢いそのままに反転し、私に帰ってきた。
あ〜そう...隠す気もねえってわけですか。ま〜そうだよね。自分が有名だって、自覚してるんだよねえ?
私は、隠すけどねっ...!
ダンッ、と地を踏み締め、私は彼女に歩み寄る。
それに合わせてか、相手も歩を詰め出した。
果たして歩くという行為に、経験の差はあるのだろうか?私と彼女は、同じ行動を取っているはずだ。
しかし...彼女の場違いに上品な足運びは、否応なしに皆の目を奪い、釘付けにする。
天が差す淡い光は、巻き立つ埃を捕え、空へ下る星々の川を思わせる。
端正な美を体現した、その御姿と合わさり...まるで戦場でない...
...とでも言って欲しいのか?この...おすましちゃんめっ!
タンッ!
戦士のクセして、なんだその消極的な姿勢はよっ!?あんたホントは、怖いんでしょう?!
結局戦いってのは、不意打ちが全てだから。
警戒している...私の魔法を。
カッ...
遠くから、全体を見渡したいんだっ本当は!
でも距離が縮まるにつれ、あんたの視覚は私で埋まる。
だから、疎かになる...
ゴオッ...
その、背中がっ!
こっそりと持ち上げていた、地面の岩を...背後からぶつける!
「!」
ゴッ
ガァン!!
背中から岩が砕け飛び、破片がこちらに飛んでくる。反射できなかった、てことか...?
「...」
あ〜、無傷だわ。...なるほど返す力に、岩そのものが耐えれなかったと──
ダンッ!
「──!!?」
一際、激しい音を立て...いきなり大きく距離を詰めてくる。
「フッ!」
すかさず、私は空に飛び...そこで、アレが目に入る。
遅れて見上げた彼女も、気づいただろう...
ギギギ...!
自身に迫る、巨大な影に。
ゴオッ...
ガ
シャ
アアン!!
トレスティアの脳波を映したモニターは、轟音を立てて崩壊した。
降った質量の分だけ、煙たい土埃が吹き上がる。
スタッ...と華麗なヒーロー着地を決め、土の煙幕を見やる。
...さて、あいつは──
「──あっ」
今さっきの、大げさな踏み込みとは違う...静かで、なめらかな動き。
ある種の動物が、『遅すぎる動き』を認識できないように...先と対比された、緩やかな運びに...
...対応が、遅れる。
「...ッ!」
慌てて私は、防御の構えをとってしまった。
それに何の意味もないと、思い出した頃には手遅れだった。
彼女の髪が、ふわりと触れる。
純粋な、赤子のような...甘い香りが脳を灼く...
...それはおそらく...彼女の香りでは、無かったのだろう。
ただ私という命の、終わりを感じたから...
...より強く『始まり』を感じたのだろう──
パンッ
「「ひっ...」」
──乾いた音が、俺たちの耳を貫いた。
人生で、幾度となく聞いた、聞かせてきた音...
手と手を合わせ、鳴らす音。
『拍手』...その手にサヤカは挟まれて...
...彼女の頭が、宙に舞った。
「「うわああああ!!!」」
その光景の間近の者から...伝染するように戦慄が走る。
残された首から鮮血が迸り、それはトレスティアの髪から顔まで赤く染め上げる。
...これも、彼女の魔法か...その血は新品の傘を伝うがごとく、ことごとく地面に流れ落ちる。
程なくして、再び白ざめた仮面が表出する。
...まるで、仮面。人を殺して、あれほど平然とした顔を貫けるものか。
やや置いて、モニターに映された波が止まる時──
ぱっ
──全ては元通りとなり、サヤカも開始の位置に直っていた。
「...えっ、私死んだ?」
「全然わかんなかっ──」
『──退場してください』
「うっ...」
何の感慨もなく、言い放つ放送と共に...2人は控室の方へと消えていった。
会場は...気味の悪い沈黙で満ちていた。
戦士という職業は、どうにも死を身近とする。それを我が身で味わうこの試験は、まったく合理的なものであろう。
しかし...いざ叩きつけられた、この非情なる非常は...あるいは俺たちの脳を、全く作り変えるほどの──
『──1分後に、再開します』
...クソみたいな過密スケジュール...別にトイレで席外すのは許されてるけど。
『お手洗いは、時計台の左手側に』
『お出口は、時計台の右手側にあります』
「「!!」」
...いやらしい、お出口の案内。
当然ながら...出た者はもう、入れない。その時点で、不合格とされるのだ。
「...」
リントは、暗い顔をして黙りこくっている。
「リント」
「ん...?」
「大丈夫?頭痛...とか」
「いや...別に」
「...帰る?」
「!」
バッと、顔を上げて背を伸ばす。
「いや...僕は最後まで、見届けるよっ」
「そっか」
俺は背もたれに身を預け、はるかに空を見上げて眩む。
隔絶された、青い空...俺たちは今、悪夢に囚われている...
この試験において、勝敗は合否に影響しない。
ただこの一日を通して、彼らは問うだけだ──
──戦士を目指す、覚悟はあるか。




