エピローグ① 夏の愉しみ
──人と人を繋ぐ、運命の糸ってのがあるなら...オレがこの前ずっこけたのは、そいつに足引っ掛けたせいじゃねえか?──
ダイキ・バルンダ 990〜
灼けちまうような日差しを逃れ、オレは傘のある椅子に座る。
ぬるい夏の風が、快と不快とを同時に与えてきやがるっ!
ガリッ...!
「──ッ〜!!」
冷てぇ〜っ!
オレは氷のようなアイスを...いや、アイスは氷なんじゃ...とにかく、味のついた氷の塊を一口かじった。
うん、ブドウの味だな、うん。うめえな。
こいつは疲れた体に、よく染みるぜ!
「あぁ〜...」
オレはほっと、十分に冷えた安堵の息をはく。
色々あったな〜、まったく!
いきなりヒールのヤツが、リントが攫われたとか言い出して...
そんでマジの魔族が現れて...しかも死体で?
で...ジョンさんの車ぶっ壊しちまって...イヤほんと、あの人が無事で良かったよ。
...そっからはお国の方々に、なんべんも調査されてよ〜。大変だったな。
あとは...そうか。
リントが、魔族だって?...イヤ正確には、魔族と人の混血だったか。
なんだかんだ、アイツとは長い付き合いなのによ...全然知らなかったな...
んなこと皆にバレたらマズイだろうから、黙ってやってるけどさっ。
でもあの魔族は、リントのことを知ってたんだよな?...なんで?
いや、なんかまあ知ってたとしても...攫う理由あるか?
...ヒールが言うには、
『魔族は、魔族と人の単純な二項対立にしたがってるから、混血のリントは厄介な存在で...』
『だからリントをとっ捕まえて、魔族たちの前で見せしめに処刑するつもりなんだと思う』
だそうだが、うーん...
魔族さんでも、そこまでするか?と。
まあ、いいか。
アイツが魔族の血だろうと、なんだろうと...アイツは悪いヤツじゃねえ。
むしろバカみてえに、バカなやつだ。バカ正直!
ガリッ!!
ゴリッ!ゴリュッ!
「ふう...」
ごちそーさま、と。
「ああ...」
そんなことよりも、一番のクソは...
シラキが通報したけど、無視されたって...?
しかも事件が解決した後、通報があった事実そのものがなかったことにされた。
分かっちゃあいたが、いざ身近でそのクソさを見ると、ホントやんなるぜ...
『治安保護組織』...通称『チ◯◯』、あるいは『アソコ』。
その怠惰な仕事ぶりから、憎しみを込めてそう呼ばれている。
最初からそうだったのか、時間をかけてそうなったのか...知らんが、マジに腐った組織だ。
なぜそんなことが起きるかって?
本当に強い人や、本当に正義のある人は...みーんな戦士になるからさ。
アソコにいるのは、中途半端に人より強え面倒なやつら。
実際オレという強者も、戦士を目指してるわけだしなっ!
...オレ1人がどうこうしたって、あの組織を変えられやしない。
そんなことは、オレの父さんを見ればすぐに分かった。
あの正義に燃えるような瞳が...今やあんなになっちまってよ...
そんなオレのやるべきことは、戦士になって戦争を終わらせることだ。
そして真の強さと、真の正義を持った戦士の方々を上層に返し...この国を、あるべき姿に戻すのさ!
...そっちの方も、途方もねえ道に見えるがな。
ああ..やめだ!
こんなコトばっか考えてもしょうがねえ、もっと楽しいことを考えよう!!
「...ヘッ」
そーだそーだ。何も最近あったのは、悪いことばかりじゃねえ。
サヤカとは、あの魔族との戦い以降、なんだか距離が縮まった気がするんだよな。
ま〜ったく、こればっかりは、あいつらに感謝だなっ!
オレは空っぽになったアイスのカップを持ち、軽快に立ち上がる。
「なんだなんだ...楽しいじゃねえか!」
オレはそんなことを1人呟いて、傘から飛び出した。
「...いい天気だなっ」
射殺すような真昼の日差しも、今は陽気の表れに見えた──
―――
――
―
ザッザーン...
「んん〜...!!」
サヤカは陽気なお日さまに向かって、大きな伸びを見せる。
「っは〜...」
「ここも、たまに来る分には、最高ねっ!!」
「ウチはリゾート地じゃねえんだが...」
全身で光を浴びるサヤカに、俺は冷ややかな目を送る。
...俺の先走りのせいで、サヤカには俺の本当の魔法...この島のことを知られてしまった。
まあその、口止め料ってかんじで...サヤカにゃ、たまの息抜きに俺の島で羽を伸ばさせることになった。
「ってか、いいじゃん、リゾート地」
サヤカは上体を反らして、こちらを向いて言う。
「ここリゾート地にすれば、大儲けでしょっ」
「なんでナイショにしてんの?」
「ええ〜?」
「......」
俺は木造りの小屋の方を見やる。
「スヤァ...」
その中では、リントが呑気にお昼寝していた。
「この島はな、俺とリント...だけの楽園なんだよ」
「だから誰にも使わせない」
「...ハズだったんだがなっ」
ジト〜っとした目つきで、俺はサヤカの方に向き直る。
「へっ!」
「お互い、ちょっと早とちりしたってことで...あれは不幸な事故ねっ」
そう言いながらサヤカは、海水を念力で持ち上げる。
「それ〜に、リントは喜んでたでしょ?島での話し相手が増えた〜!って」
「まあ、そうだけど...」
相変わらずあの欲張りさんは、俺だけじゃあ満足してくれないようだ。
...まあ、昔は3人だったしな。
......そのせい、なのかな──
「──くらえっ」
ピシュッ!
「!!?」
「ッつめってぇ!!」
俺の思考を遮るように、サヤカが理不尽にも水滴をぶつけてきた!
「うわ〜!冷たそ〜!」
奴はケタケタと、ふざけた笑いを浮かべてやがる。
「...フンッ!」
俺は仕返しに、足で浅瀬の水を蹴り上げるっ!
「うわっ!」
サヤカは塩っからい冷水を顔から浴びる。
「大人げね〜ぞ反撃とか〜!」
「...俺ら大人か?」
「あ〜、まだ成人はしてないかっ」
現在俺たち17歳。だがあと少し経てば、大人向けの世界に入れるようになるだろう。
「でもヒールはリントのパパなんだし〜っ?」
ピシュッ!
「アアッ!?」
頭上から水が降り注ぎ、髪からざらついた水が滴る。
「いいね〜、そのジジくせえ加齢臭も洗い流してやるよっ!」
「サヤカ...お前はその毒舌を、もっと表に出していくべきだと思うぞ...?」
俺は濡れ髪の妖怪のような面持ちでサヤカを睨みつける。
「ええ〜、これぇ?」
「学校での、あの良くわかんねえキャラより...今のがウケが良いんじゃねえかな」
「ダイキとか、特に...」
「んっ...アイツ、Mなのっ?」
サヤカは吹き出しそうな口で聞く。
「ああ、断言できる」
「へえ〜...」
「......」
サヤカは口をつぐみ、揺れ動く波に向かって立ち尽くす。
「...でもな〜」
「私のこの性格、大っキライな母親とそっくりなんだよねっ」
ペイっと、吐き捨てるように小石を海に放る。
「ああ...そういうのもあるのか」
「そう...血は争えない〜、てヤツ?」
サヤカはそう言うと、滑らかな白砂に尻をつき、大きく息をはく。
「ひどいよねっ」
「私も頑張ってるつもりだけどさ〜...根っからの性格なんて、やっぱ変えらんないって」
...サヤカのあの、妙に浮いてるように見える言動は、サヤカなりの普通を演じたものらしい。
犯罪一家で生まれ育ち...どうにも手遅れなほどに、感性を歪められてしまったと。
「...別にお前は、悪いのは口だけで、性格は良い方だろ」
「...えぇ?」
サヤカは頬杖をつき、悪態を極めた様子でこちらを見る。
「お前なんて、全然まともな方だぞ...」
「実際俺も、リントとお前を結婚させようとしてたし」
「...は?」
頓狂な声と共に、頬と手が離れる。
「ああ...それに、最近になって気づいたんだがな」
「あまりにお前とリントが仲良しだから、俺は嫉妬してたみてえだ」
「???」
俺は当惑するサヤカに対して、さらに言葉を続ける。
「でも、もう大丈夫だっ」
「お前になら、リントをやってもいいんだぞ!?」
「...キモいよ!!?」
「なんだって!?」
ザッ
「お前言ってたじゃねえか!リントに運命感じたとかっ」
俺は砂浜に跡を残しながら、サヤカに詰め寄る。
「まあ、それは...」
「それらしいものは、ホントに感じたしねっ」
「おっ、マジで!?」
「リントは私と違って、ホンモンのいい人だからね〜」
「羨ましかったのかもっ」
サヤカは、ちらりとリントの方を見やる。
「スゥ...」
リントはがっつり寝てた...
「にっ」
「......?」
「何、その顔っ」
「わかってるじゃねえか!」
ガッシと、俺はサヤカの肩を掴む。
「!?」
「つまり聞きたいってことだな!?」
「リントのいい子エピソードが〜よお!!?」
「...ッ!!」
「いらんわっっ!!!」
くわっとサヤカが目を見開くと、俺の体は宙を舞い...
「...んんっ!!?」
ザッパーン!!
俺は心地良い、真夏の海水浴を楽しんだとか...




