操り人形(マリオ・ネット)
簡単のため、蜘蛛型の魔族のセリフを『 』で表記しています。
日常から逸脱した異形を目にした一行。
電流の様な緊張が流れ...一瞬か二瞬、体が硬直する。
「──走れッ!!!」
ジョンさんがいち早く勇を振るわせ、俺たちに向かって声を発する。
「こいつは私だけで相手する!!」
「「!!?」」
「君たちは私の車で、先に街へ逃げるんだ!!」
「「えっ!?」」
蜘蛛型の魔族は瞬きもせず、俺たちを見定めるように静止している。
「...はい!!」
ガッ
「うぇっ!?」
僅かな躊躇いを経て、俺はすぐにリントの手を取り森の出口へと駆け出した。
「ちょい、ヒール!!」
ダイキは戸惑った様子で、俺とジョンさんを交互に見るが...
「...クソッ!」
「サヤカっ!!」
「...うん」
ダイキもまたサヤカと共に、魔族に背中を向けることを決めた。
「ジョンさん...すみません」
ダイキは魔族と対峙する彼の背中を見て、それからは脇目も振らず走り続けた。
『...............』
青年は静かに剣を構え、魔族と向き合う。
(こんな剣なんかが通じるはずは無い...)
(お前を倒すなんて、考えちゃいないさ)
(私のするべきことは...)
チャキッ
(...お前に少しでも、傷をつけることだ!)
ザリッ...!!
─
──
───
タッタッタッ...
「ヒール、ちょっと...離して...よ!」
「僕らも加勢しなくちゃあ!!」
強引に連れ出されたリントは、戦いの必要を叫ぶ。
「....」
「おい...バカ言うなよ、リント」
黙ってリントを引きずる俺に代わってダイキが口を開く。
「分かるだろ?あれがマジに魔族なら...少なくとも今のオレらじゃどうしようも無い」
「邪魔ンなるだけだろ...?!」
ダイキは自分自身を含めて、ハッキリ邪魔だと言い切った。
走り続け...前後に振れる彼の両の手は、強く握りしめられていた。
「...ああ、ダイキの言う通りっ。それに向こうの狙いはリントだからね」
「弱ったお前を守りながら戦えない」
「...!!」
俺がそう言うと、リントの目が大きく開かれた。
...が、すぐにそいつをギュッと引き締めると、
「...分かったよ」
「じゃあ、守らなくていいから...!」
「あ、おい!」
リントは俺の手を振り解き、そのまま魔族の方へ向かう...
...と思ったが、むしろ出口への道に加速して、
「すぐに車に乗って!助けを呼ぶ!」
それだけ言うと、タタッと速度を上げていく。
「...ああ!そうだなっ!」
リントは合理的...もしくは、そうと思われる決断をした。
森の出口が近づく。
「...ねえ、車っていってもさ」
そこでサヤカが疑問を口にする。
「それ、誰が運転するの?」
「あ──」
「──運転はオレに任せろ」
俺が何か言うより速く、ダイキがすかさずそう答える。
「ダイキがっ!?」
驚きがリントの口を衝く。
「何さ、不安か?」
「安心しろ、できるよ...多分な」
「多分って...アンタ、やりたいだけじゃない!?」
「違えよッ!」
「よく助手席で、親父の運転見てきたから...自信はある!!」
「そ、そっか...」
そういえばダイキは、結構な車好きだったな。
「...じゃあ頼むぜ!」
「アクセルとブレーキ間違えるなよ!!」
「余計なお世話だ──」
───ギッ
「「!!!!」」
離れて聞こえなくなったはずの音が、再び耳の後ろに届く。
ギッ
ギッ
メギッ...!
「なんか、すっごい近づいてない!!?」
「そりゃあ...つまりジョンさんが殺られたって...」
ダイキの顔に悲壮が漂う。
ギシッ...
「...無視されただけかもしれないだろ!?」
ギッ
ミシッ
メシッ...!!
「──それより、どうすんだ!?追いつかれるぞ」
「どうするって...」
「...チッ!!」
ボオオオッッ!!!
ダイキは手を後ろにかざし、闇雲に闇に火を放った。
「少しは足止めになんだろ!」
『...!?』
『おい...!』
或いは燃える火の音にかき消されたか...確かに激しい軋みの音は聞こえなくなった。
「──よし、出口だっ!!」
ズザアッ...
4人は同時に、暗闇の森から抜け出した。
「車...車...」
皆で焦って車を探す。
一面真っ黒な風景から一変...瞳に優しく染み込む暖色の陽が、空を美しく彩っていた。
...だが残念今は、そんな光景に馳せる余裕は無い。
「──あった!」
「急げ!乗れ!!」
俺たちは素早くジョンさんの車に...ダイキが運転席に、リントが助手席に、俺とサヤカが荷台に乗り込んだ。
「ああ...よし、いける!」
ダイキが何やらガチャガチャやると、すぐにエンジンがドルリと鳴った。
「しゃあ...いくぜ!!」
...とダイキが、ペダルを踏み込もうとした瞬間──
──ビキイッ!!!
「「...ああっ!!」」
ついに蜘蛛の方も、木々の間から飛び出してきた。
『ふざけるなッ!!!!』
「「!?」」
...魔族は出し抜けに怒りを露わにする。
『無闇に森を燃やすな!』
『環境への配慮は暗黙の了解のはずだ!!』
「「!!?」」
大型の蜘蛛が、声を大にして環境保護を訴えている。
どうにも追う音が聞こえないと思ったら、火消しに尽力してくれたのか...
「...とか言ってますけど〜?ダイキっ」
「──知るっかよ!テメェで仕掛けた戦争だろがッ!!」
ギュイイイッ!!
ダイキが力任せにペダルを踏み込むと、俺たちを乗せた車は急加速して道路を進み始めた...!
『おい!!』
魔族もワンテンポ遅れて脚を働かせる。
───
──
─
ゴオオオオオ...
「オイどうだ!?乗り心地はッ!!?」
ダイキはおどけるような口調で、荷台の俺たちの安全を確認する。
「サイアク!!!」
「ええっ!!?」
サヤカから予想外に辛辣なアンサーを返され、ダイキはビックリ!する。
まあ、しょうがない事ではあるが...とんでもなく酷いガタつき具合だ。
この辺は交通量が殆ど無いから、道路の舗装が荒いというのもあるだろう。
「...でも、スピードはこっちの方が上みたいね」
「このままなら簡単に振り切れるよっ」
「そうかい、よく見えねえけど...ならいいや!」
ダイキはサイドミラーを活用しようと試みるが、やはり危ないので正面だけ見ることにしたようだ。
「ねえダイキ、これ...逮捕されたりしないよね?免許ないし...」
「リント、お前...ふざけてるのか!?」
「ああっ違うよ!ちょっと気になっただけで...」
「呑気かっ!世の中そんな理不尽じゃねえから!」
「──ちょっと2人ともッ!!!」
「「!?」」
サヤカが声を刺し、盛り上がってしまった2人を落ち着かせる。
「...来てるから...」
「?...今、何て──」
「──飛んで来てる!アイツ!」
「「!!?」」
ヒュンッ
巨体が風を切る音。遠く離れたこちらまで容易に伝わってくる。
ビッ
ビッ...
奴は背中の孔から糸を出し、道路両脇の背の高い木に引っ付ける。
ギッ...
ギッ...
ギュンッ!!
そしてそれを支点とし、糸に手繰り寄せられるようにして、自身を宙に吹き飛ばす。
「なっ!!?」
加速し切った段階で糸を切り離すと、そのまま信じられない程の速度でカッ飛び、開いたはずの距離を詰めてくる...
「...サヤカ、お前の念力であいつ撃ち落とせないか!?」
現状無力な俺は、サヤカを頼みの綱とする。
「もうやってんだけど...ムリ!」
「ええ!?」
「ほら、見える?アイツず〜っとさ、全身に魔力を纏ってるでしょ!?」
「そんなのされちゃあ、どうしようもないから!!」
「くッ...!」
どうやら、ああして魔力で保護されては指1つ...イヤ、脚1つか...?
...とにかく、全く動かせないようだ。
「全身って...そんなの、おかしいよ」
リントがサヤカの言葉に反応する。
「いくら魔族だからって、そんな贅沢に魔力を使ってたら、そのうち...」
「──そのうちが来る前にカタをつけようってコトでしょう!?」
「それで実際、ウチら何にも出来なくなってんだからさあ!」
緊迫した状況からか、どんどんサヤカの語調が荒くなる。
だが確かにあれはヤリすぎだ。超絶短期戦を狙ってる時、くらいにしかやらないような...
そんなにリントが欲しいのか...それとも、何か急ぎの用事があるのか...?
何にせよ、奴は俺の魔法を知らないだろう。
魔法...あと少しで──
「──待てよ...?」
何か思いついた様子のサヤカ。
ビッ...
ビッ...
勢いを失ってきた蜘蛛が、再び木に糸を取り付ける。
ヒュンッ!!
ヒョオオオオ...
奴は糸に引き寄せられ、大きく風を押しのけるように加速を始める。
恐らくはこの一回で、もう追いつかれてしまうことだろう。
「おい、来るぞ...!」
「黙ってて...ちょっと...」
サヤカは真っ直ぐに敵を見据える。
─振り子の軌道を描いて加速する蜘蛛。
その速度ベクトルが、下を向いた瞬間に─
「──そこっ」
ベ
キィッ!!
サヤカは蜘蛛が糸を引っ付けた木の方に狙いをつけ...そちらを破壊した。
『!!?』
そうして、空中で支えを失った魔族は...
ヒュオオ...
ド
シャ
アアアッ!
...と、勢いよく路面に衝突した。
「うおおおっ!!」
俺は思わず声を上げる。
「やったな!サヤカ!」
ダイキも後ろを向いてガッツポーズを決める──
「──アンタは前向いて!!!」
「あ、はい...」
ダイキはシュンとした。
「つーか、別に終わりじゃねえし...」
ズ、ズズ...
「..だよな...」
体勢を大きく崩した魔族だが...やはり魔力の防護は厚く、キズ1つついてはいない。
いくつかの流血は見られるが、それは先程からあったもの...
おそらくはジョンさんが与えたダメージだろう。
よく傷なんてつけられたな...あの人だけで、2分くらいアイツの時間を稼いでいた。すごいや...
...すごいけど、それでも奴は──
──奴は何事も無かったかのように、悠然と道路に立ち直った。
「チッ...まあいい、もう一回食らわせてあげ...」
ビ
ビ
ビ
ビ
ビ
ビ
ビ
ビッ
「...は?」
「......はあ!?」
「んなっ...!」
──奴の孔は、2つだけではなかった...!
グ
グ
グ
グ
グ...
四方八方に張り巡らせた糸が、収縮を始める──
「──ッざけんな!!メチャクチャしてんじゃねえよッ!」
「──サヤカ!!聞け!」
「この****の*****」
「...サヤカ!!?」
「...何!?ヒール」
「頼むから集中させて──」
「──魔力が貯まった...!」
気に入っていただけたら幸いです。
宜しければ、評価、感想など、いっぱい欲しいです!!!




