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夕闇の使者

 ゴオオオオ......


 ジョンさんが運転を務め、助手席にはダイキが、荷台には俺とサヤカが乗っている。

 車は事故を起こさぬよう細心の注意をはらいつつ、その中で出せる最高速度で道路を駆け抜ける──


「─しかし、なんともまあ...大変なことになったね...」

 ジョンさんが口を開く。



「私はまだ、正直状況を飲み込みきれてないよ...」


「大丈夫ですジョンさん!オレもよくわかってないッス!!」

 強引に巻き込まれたダイキも、困惑を口にする。



「...で、よくわかってねえから確認するけど...」

「まず、サヤカんちの使用人()()()()()()()()()()()()()()...」


「そうそう」

 サヤカが相槌を打つ。



「そいつらが...リントを連れ去って?」


「うん」

 合わせて俺も頷く。



「...で、今はあの森にいると」


「そうみたいね...」


「っかー!メチャクチャだぜ、オイ」

 ダイキは両手を投げ出し、お手上げのポーズをとる。



「引き渡しは、本当に20時からなんだよね?」

 ジョンさんも念を押して確認を取る。



「あ、ハイ、間違いないです」


「まあ、よっぽど19時には着くと思う...」

「しかし、それまでリントが無事で居てくれるか...」


「うーん...取引の対象を、ぞんざいに扱うことは無いでしょう」

 それは単に、俺の願望でしかないのだが...



「どうだか......せいぜい水だけ与えられる...ぐらいかもよ?」

 サヤカは俺を横目で見つつそう言った。

 


 ...サヤカ......ある程度は家の奴らのやり口を知ってるみたいだが...


 つーことはガチなのか?

 ...水だけ?...昨日の夜から?


「...クソッ......」


(...ごめんね)

 つい悪態が出てしまったところに、サヤカが小さく耳打ちする。



(実行犯は、私が始末するから)


 ...コイツもコイツで、とんでもねえな...

 一応は自分の使用人だろ?


 ゴオオオオオ......


「──しっかしよお」

 頭の整理が済んだのか、しばらく口を閉ざしていたダイキが話を切り出した。



「引き渡しって...一体誰にリントを渡すんだ?」


「...?フツーに人身売買でしょ?」

「そこらじゅうにいる内臓愛好家じゃない?」


「─ンなんがいくらもいてたまるか!!」

「いや、そうじゃなくて...」

 ダイキはサヤカに熱いツッコミをこなし...すぐに冷静になる。



「なんか、こう、裏路地とかじゃなくて...ワザワザ魔物のいるあの森で取引って、さあ...」

「...ただモンじゃなくねえ...?」


「あ~、たしかに...」

「実は取引されるのはリントだけじゃなくて、たくさんの人を巻き込んだ大取引とか?」


「もしそうならヤベェだろ...オレらだけでどうにかなんのか......?」


「あぁ、怖いか?別に降りてもいいんだぞ」


「──ッテメェ、ヒール!!勝手に巻き込んどいて!!!」

「...チィッ!」

 腰を浮かしたダイキは、ドカッと座り直す。結局最後まで付き合ってくれるらしい。



 ダイキも戦士を目指す男だ。

 燃える正義の心は、確かにあるのだろう。

 勝手ながら、頼れる奴だよ。


「頼りにしてるからね〜ダイキ」


「ッああ!任せろ!!サヤカ!!!」


 元気になった......


「フー...」

 ジョンさんはもう、運転に集中しきっている。



 ゴオオオオオオ...


 ...実のところ、リントの誘拐を依頼したヤツには心当たりがある。

 だが、それを口に出すことはしない。



 ...それは、ともすれば一笑に付されるような妄想であり...


 ......またそれが現実であったら...


 .........俺にとって、この上なく最悪の事態だからだ。


 言霊の力なぞ、信じちゃいないんだが...

 この時だけは、その可能性を口にするのが怖かったんだ──


 ―――

 ――

 ―



「......っは〜〜」

 闇が支配する森の中、大きくため息をつく男がいた。



「あと、1時間ってとこか」

 男はそう言って、相方に目を向ける。



「そうだな、あと少しの辛抱だ」

「もう少し踏ん張るとしよう」


「ああ。...ったく、運ぶのが早すぎたな」

「舐めてたよ、この森」

 そう言って男は辺りを見渡す。

 山と積まれた魔物の死体が、2人の苦労を物語っていた。



 対象を取引地点まで、なんとか引きずった後では遅かった。


 2人が森深くに踏み入るのを待っていたかのように、次々と魔物が襲い掛かり...

 彼らは人身を抱えたままに戦い続ける羽目になった。



「依頼人の方は、ここがどんなに危険か分かってんのかね?」


「さあな。ここまで来る途中で、やられてないといいが...」


「ああ、何せ報酬はたんまりだもんなっ」

「くくくっ、たまらねえぜ」

 期待を膨らませ、男はヨダレを垂らす。



「汚ねえよ、オイ......」


「ああ、悪い...」

「...でも、しょうがねえだろ?あれだけの金を提示されなきゃ、こんなイかれた依頼受けねえよ」

「正気じゃねえぜ...何だってこんなガキ1人に、あれだけの金を...」

 そう言いながら、男は自身らが拉致した子供を見つめる。

 


 皮肉にも、自分を拉致した相手に守られている彼は、安易な抵抗はせず、落ち着いて脱走の糸口を探すことにしたようだ。



「オイ...依頼人への詮索はナシだろ」

 相方は家の規律に従い、厳しい言葉を返す。



「でもよお...こんな森を、集合地点にするなんて...」

 男は懲りずに話を続ける。

 


「なんかもう、相手は...」

 言いながら、相方の方に向き直る。



「...ん?」



 ぬっ...


 ゴコォッ!


 2人の頭は、空中で鈍い音を立てて衝突し...

 そのまま倒れ込んだ。



「─ふぅっ」

「おけっ、やったよ〜」

 宣言通りに、実行犯を打ちのめしたサヤカ。



「ナイスだ、サヤカ」

 そんな彼女に、ダイキはグッドマークを送る。



「...!」

「ん〜!!」


「...リントだ!!」

 俺はすぐさま、声の主の元へ駆け寄る。

 


「んーっ!!」


 間も無く俺は、木に縛り付けられたリントを見つけた。



「っはは!なんだ、思ったよりは元気だな」

「良かった......」


「ん...」


 俺は安堵の声を漏らしつつ、縄を解こうと試みる。

 ...が、解けない。



「あー、それ...剛糸だね」

 ザクザクと地面を鳴らしつつ、サヤカも歩み寄ってくる。



「ウチ特製の超硬いやつ...でも多分、ダイキのアレなら切れる」


「おう、アレな?」

 ダイキはそこで、おもむろに厚いナイフを取り出し...



 ゴオッ


 炎の魔法で、鮮やかに赤熱させた。


「ちょっち熱いだろうが...我慢しろよ」


 ジュウッ


「...ッ!!」

 ダイキが剛糸に刃を下ろすと、熱はリントにも伝い、苦悶の声が漏れ出す。



「リント...」


 生物のみを転移させる俺の魔法なら、安全にリントを救出できるのだが......

 実のところ、サヤカの家を調べ回った際に、殆どの魔力を使い果たしていた。


 オマケに俺の早とちりで、サヤカにも魔法を使ってしまって。

 今の魔力の状態としては、肝臓の備蓄したグリコーゲンまで全部使いきっちまったような...そんな気分。


 だが、車での休憩を挟んだ分、あと少しで...



「あと少し、で...ヨシッ!!」


 ブチィッ


「―んっ!!」

 ダイキによって、ついに全ての拘束が解かれた。



「ケホッコホッ...」

「皆んな...ありがとう...」

 ゆっくりと立ち上がったリントは、深々と頭を下げる。



「おう、礼はまた今度、たんまりもらうから...」

「とりま、脱出だな!」  


「うんっ」 



(...リントは助けられたみたいだね)

 索敵をしてくれていたジョンさんの声が、全員の頭に響く。



(とりあえず、周りに他の人は見当たらない)


「わお、それはラッキー」

 サヤカがそう言ったところで、暗がりの向こうからジョンさんが合流してきた。



「ジョンさん!」


「リント...無事で良かった」

 彼もリントの状態を確認し、暖かな声をこぼす。



「しかし、当然だが魔物はいる」

「急いでここを離れよう」


「はいっ!!」

 そうして5人揃って、森の出口へと走り出した。




 感傷的な夕焼け空とは対照に暗がりのみが溶け出す森で、場違いに揺らめく五つの光。


 それは、先の見えない道に光明を見出す希望の光か...

 あるいは、光に飢えた闇の住人を導く誘蛾灯か...



 ...現実には、その両方、だったのだろう。


 ザッ

  ザッ



「...にしても、さっき見たか?スゲー量の魔物が死んでたぜ」

 ダイキは先の光景を思い返して言う。



「うん...あの人達、凄いよ」

「たった2人で、僕を守りながらもあれだけの魔物を処理してた...!」


「よく、自分を拐った相手を褒めれるね......」



「...ねえ、サヤカ」

「僕、よく分からないんだけど...」


「ん?何が...」


「僕、サヤカの家の人に拐われたと思ってて...でも、サヤカは僕を助けに...」


「あ、あ〜それはね!...うん、ちょっと後で...」

「今はちょっと、さ〜!」


「そ、そうだね.!」


 サヤカは露骨に話を逸らす。



 ...ギッ......


「...あ?」

 リントが微かに口を開く。



「え、何?リント、まだなんか...」


「あーいや!そうじゃなくて...」

「後ろの方で、木が軋んだような感じが...」


「木だあ?...いやあ...」

「びっくりするぐらい静かだぜ」

 ダイキも耳を済ますが、何も得られなかったようだ。



「...というか確かに、すっごい静かねっ」


「確かに......」

 確かに今日の森は、いつもの様子とは何かが違う。

 あの2人組が、魔物を殲滅したからか?




 ギッ


   ギッ...



「あっ!私も聞こえた...」


「オイオイ、サヤカもか...」


 ...嫌に不気味だな...

 だが、ただの魔物なら別に──


 ギッ

  ギッ

   ギッ...



「えっえっ...ああ、なんか近づいてる...!!」

「うん、来てる...!」

 サヤカとリントが、共に声色を上げる...!



「...!?...そりゃあつまり、狙われてんのか?オレら...」


「え...そう、かも...」


 ギッ


  ギッ

    ギッ


「...!」

 ここでようやく、俺にも軋みが伝わった。



 かなりの速さで、木々を伝っているような...一体なんだ?



 ギギィッ!


 一際大きな、乾いた木の歪む音が聞こえる。


「ッッ!!オレにも聞こえたッ!」


「ああ、来てるな...!!」


「逃げられそうにないなら、戦う準備をするぞ」

 そう言うとジョンさんは、腰の剣に手をかける。



 ザリッ...


 それに応じて、俺たちも走るのを止め、迎え打つ姿勢をとる。



 ギッ


  ギギッ


   ギシッ

      ミギィッ...!


 相手もこちらの思惑を悟ったか、異音は徐々に大きく、大胆なものになる。



 ギッ


「「...!!」」

 何か影のようなものが、うっすらと暗闇の向こうに見える。



「今、いた─」



 ─ビキィッ!!!


「!!」

 ...と、木の皮が砕ける音と共に、影は姿を消した。



「オイ...見えなくなったぞ...!」

 5人は辺りを見渡し、影を追う。



 先ほどまでとは一変、辺りは不気味な静寂に包まれる。


「クソ、来るならこいよ──」

 口調を荒らげつつ、ダイキが目を向けた先には...



「──ッッ!!」

「オマエらッ!!上だあああ!!」



「「...!!」」

 反射的に、顔を向けた先...

 そこで俺たちは、ついに異音の正体を捉えた......



 ギッ


 それは巨大な、蜘蛛のような異形──



 ギギッ...



『そいつをよこせ』



「!!?」


 ──異形が、言葉を...発している......



「魔族だ......!!」

気に入っていただけたら幸いです。

評価、感想など、たくさんもらえると嬉しいです!!

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