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カラフルな時間

「いや、別に良いけど。友達ってなにするの」

 これは本心であった。渡とは友達と呼べる関係かも知れないけども、その関係は学校内だけのもので一緒に出掛けたりなんてものはない。僕は学校と家はまさに通学路。路でしか無い。そう考えると確かにモノクロの人生かも知れないな。そんなことを考えている僕をよそに彼女は考えている。友達とはなにをするのか。シンプルだが難しい質問だったらしい。酷く唸っている。

「あ、そうだ」

 何か浮かんだらしい。左手を右手拳でポンと叩いている。昔ながらの行動というか漫画でだけの行動だと思っていたから少し面白くもあって笑ってしまった。

「なになに?私何か面白いことした?」

「そのポンってやつ。する人居るんだなって」

「えー。やるでしょ。思いついたんだよ?行動で示さないと」

 彼女はどこまで行ってもカラフルだ。そんな彼女の友達とはなんなのか、という命題の答えはこうだった。

「教室でお話ししたりお弁当を一緒に食べたり。後は放課後に一緒に遊んだり」

「なんだか僕が二人になったような感じだな。全部一緒にやるのが友達なのか?」

「うーん……。なんか違うかな。同じようなことをしてても人それぞれに価値観があるじゃない?だから同じ事をしていてもズレが生じて、そこに感情が入り込んで……」

「なんか面倒くさいな」

 わざわざ違いを感じるために友人は作るものなのだろうか。そしてそれに合わせるような。それもルーティンになれば非日常から日常に変わってまたモノクロの人生に戻るのでは無いか。だったらその面倒くさい事はやらない方がいいのではないか。僕はそんな風に思ったけども、彼女は違った。

「面倒くさくないよぉ。気持ちが入り交じるんだよ?考えるんだよ?相手がなにを感じてるのかとか、自分の考えはどうなのかとか。モノクロになってる暇なんて無いって」

 そう言われて僕は興味を持ってしまった。カラフルな人生とは一体何なのか。モノクロの人生と比べてみたくなった。

「じゃあ、そのカラフルな人生ってやつ、教えて貰えるか」

「カラフル?いいねその呼び方。モノクロの人生の反対。カラフルな人生。なんか楽しそう」

 僕は食べ終わった食器をトレーに乗せて片付けて鞄も店の奥の部屋に投げ込んでから彼女の元に戻る。すると彼女は行きましょうか、とばかりに立ち上がってスカートの裾を直している。

 そして僕よりも先に出口に向かって歩き出したので、僕はそれに続いた。非日常の再開だ。

「ええと。どっちが駅の方向?」

「ここからまっすぐ行って商店街が見えてきたら右に曲がれば駅かな」

「なるほど。私の家は駅の反対側なの。公園側?でっかい公園があるでしょう?」

「ああ。井の頭公園だな」

「そう。それ。その公園に面したところに私の家、っと、おばあちゃんの家があるの」

 公園に面した家は比較的大きな家が多い。その中の一角なのだろうか。

「公園の北と南、どっち側?」

「うーんっと……。池がこっちに見えたから……。北側!」

 人差し指をチョイチョイやりながら考えて北側と言ったけども。方向音痴気味な彼女を見ていると違うような気もしないではない。まぁ、とりあえず駅前まで行こう。

「ね。できるだけ人通りの多い路で行かない⁉その方が色々あるだろうし。というよりも、私もこの町になにがあるのか知りたいし」

「普通の街だと思うぞ。駅前は普通の駅よりも少し栄えているとは思うけど」

「あーんもう。なんでそんなにテンション低いの?あ、そうだ。さっき商店街って言ってたでしょ?そこに行きたい」

 サンロードのことか。確かにあそこは人通りが多い場所だな。なので自分は滅多に通らない。人を避ける「作業」が面倒くさいのだ。通りに面したお店にも用事は無いし。だからモノクロの人生なんて言われるのかも知れないが。少々気が進まないが、カラフルな人生っていうものに興味が湧いてきたので珍しくその意思に従うことにした。

「わぁ、すごい。私の田舎にも商店街あるけど、いわゆるシャッター商店街だからこう言うの初めて!」

 彼女の中でのサンロードはカラフルなものに見えたらしい。彼女にとっての非日常的風景。僕から見ても非日常的風景。見え方は違えど、同じ非日常的風景だ。

「ねぇねぇ、あのお店は何のお店?あっちは?こっちは?」

 サンロードにあるお店を飛び回る彼女を見て自分以外のものに興味を持つ事がカラフルな人生なのかも知れないなと思ったりした。

「なぁ、家、どっちの方か分かったか?」

「あ、家……。そう言えば駅はあっちで合ってる?」

「そうだな」

「じゃあ、向こうかな。行こう?」

 僕も行く前提になっているらしい。これは家まで送る事になりそうだ。なんて考えながら非日常的風景を眺めて歩く。

「ちょっと公園、寄っていかない?ここまで来れば家、分かるから」

「そうか。家まで送っていくのかと思ってた」

「そんなことしたらおばあちゃんビックリしちゃうよぉ。いきなり彼氏連れてきたー、とか言って」

「気の早いおばあちゃんだな」

「田舎ではそんな感じなの。一緒に帰るのだってそういう感じだし。あ!アレって買ってそのまま食べられるの?」

「まぁ、そうだな。焼き鳥だぞ」

「いいじゃない。焼き鳥。甘いものを食べたから今度はしょっぱいもの。塩味で頼もう」

 彼女はズンズン進んでいって焼き鳥を注文している。そして僕に一本手渡してきた。

「ぽんじり。塩味だよ」

 彼女もモグモグしながら公園に降りる。買い食いなんて何年ぶりか。小学校の頃にお祭りでやったのが最後じゃないかな。思えば小学校を卒業して中学に入ってから僕のモノクロの人生が始まった気がする。何故か馴染めなかったのだ。みんなで集まって話をする。なんか価値観が違う気がして一度輪から抜けたら、他の輪にはバリアが張られてるようで入りにくくて。結局一人で居ることを選んだ。クラスには数人村なのが居たから、なにかのグループ分けとかで苦労したことは無い。その時も互いがそのような存在だと分かっているから干渉もない。僕にとっても相手にとってもそれはそれで良かったのだろう。

「ちょっと座らない?」

 彼女は公園の池に面したベンチを指さして先にとてとてと歩いて行って座った。僕も後に続いて隣に座る。すると、彼女のほうから僕の方に距離を詰めてきた。

「なに」

「いや、なんとなく。あんまり離れてると他人行儀みたいだし」

「まだ他人だけどな」

「えー、さっき友達になろうって言ったじゃん。友達はそんなに距離離れないの」

「そうなの?」

「そうなの」

 周りを見回すと友達というよりも恋人という感じの人たちが多い。端から見たら僕たちもそんな風に見えるのだろうか。

「なぁ、なんであんなこと言ったんだ?」

「?」

 何のこと?と言わんばかりにキョトンとした顔をしている。

「今日屋上で『あなたが死ぬなら私も死ぬわ』っていったやつ。自殺願望でもあったの?」

「そんなのあなたには言われたくないですぅ。本当に心配になったからよ。千石君、自分が思っている以上に背中に影、あるわよ」

「背中に影?」

「そう。なんて言うかなー。何かを背負い込んでいるような。そう。空気がよどんでる。これ。これだ」

 また彼女は手をポンと叩いて僕の方を見る。

「その淀んでるものを無くすには?」

「かき混ぜる!そして絵の具を入れる‼」

「黒になにを入れても黒だろ」

「あーそうか。じゃあ、浄化しちゃおう。透明にしちゃおう?」

 そう言って見せた僕への笑顔は本当に屈託の無いものでなんか心にふわっとしたものを感じた。心を透明に、か。具体的になにをすれば良いのか分からないけどもカラフルな人生になるにはモノクロの人生を一度リセットして透明になる必要がある。

「透明、か。それってどうやるんだ?」

「わかんない!」

「そんな自信満々に言われるとは思わなかったよ」

 透明な人生。言い換えれば空気みたいなものか?それなら今も変わらないと思うが。それをそのまま彼女に聞いてみる。

「空気と透明は違うって。空気は……なんて言うかそこに無い……あるんだけどないじゃない?透明はちゃんとそこにあって。でも透き通ってて向こう側が見えるって事かな」

「なんか分からんが、人生をリセットしないと難しそうだな。別人になりそうだ」

「そこまでしなくても良いと思うけど……。でもある程度は考え方を変える必要はあるかもね」

「具体的には?」

 さっきからそればかり聞いてるな。自分でも少しは考えた方が良いか。そう思って自分でも考える。今までは極力何かに関わろうとしない人生を送ってきた。これを透明なものにするには……。何かに関わる?でもそれはモノクロの人生に色を加えるだけで、それがルーティンになればモノクロの日常に取り込まれてしまう。

「自分を見つめ直す……」

 僕はそう呟いた。それを彼女は聞き逃さなかった

「そう!それ!自分が何色なのかを考えればいいんだよ!今までの日常を取り払って非日常を取り込んで考えるの。そうしたらモノクロの人生は徐々に薄まって透明になれると思う。で、取り込んだ中から好きなものを選べば色が付いてカラフルになると思う!」

 非日常を取り込む、か。今まさにそれをやってるけどね。これが透明になる一歩なのかな。

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