魔王の圧迫面接:その1
1560年6月
尾張国鳴海城
首実検(取った首を確認して勲功を決める)の間
「犬! なぜ帰った!?」
言葉少なは信長のテンプレだなぁ。利家に対してのかんしゃく爆発! 甲高い声が、この場の空気を引き裂く。
「は! 某、あの茶坊主よりも有用な存在と実証いたしたく。今後、二度と織田家を混乱させるようなことは致しませぬ。信長さまの征く手を阻む者を蹴散らすべく、帰参いたしました!」
まあ、社内のルールを守らず、同僚を殴り飛ばしたら、そりゃクビだよね。
いくら稼ぎ頭だと言っても、許してしまえば規律が乱れる。
「帰参を叶えるために、この犬千代。吉法師様の仇敵を成敗してまいりました!」
いいよね。
幼名で呼び合える仲は。
結局、許してもらえるんでしょ?
そのおこぼれに預かりたいな。
「犬! 貴様、勝手働きをしおったくせに、まだ言うか!」
信長は腰かけていた床几を蹴って立ち上がった。
うん。
そうだね。
ルール違反だよ。
でもルール守ってちゃ、功名は立てられない。
抜け駆けは武士の嗜み。源平合戦の富士川の戦いも、そのお陰で源氏は勝てたんじゃない。
そのくらい信長は知っているだろう。
正史と違うこの状況。
どう転ぶか……全くわからん♪
楽しんでみましょう。
世の中楽しまないと。
その位の気持ちでいないと、このあとの圧迫面接に耐えられませ~ん。
「これが親父殿の宿敵の首か……」
ちょっと冷静になったのか、信長。
三宝に載せてある、みっともなくないように白粉で化粧を施された生首を見下ろした。
あれかな。
「ドクロを取り出し金色に塗り、皆で祝杯」
とか、言わないでね。
あれは浅井朝倉の時だけで十分だから。
「丁重に保管せよ。今川から返還の使者が来るまで塩漬けにしておけ」
あ~、たしか岡部さんが使者で来たはず。
ちょっとよく覚えていない。
俺の知識は主にゲームだからなぁ。ゲームに出ていないことはあいまいだ。
えっ、信長はしかめっ面を急にほころばせた。
イメージと違が~う!
良い奴そうじゃん!
「帰参を許す。励め!」
「はっ! この犬千代、一層、忠勤にはげみまする」
良かったね。利家君。
3年も時間を短縮できて。
だが、この信長。
正史ではこんなにいい笑顔をするんだ。
「その者は、誰じゃ」
さあ。
これからが面接試験本番だ!