最強のお守り?
さきほどの合戦場のすぐ脇のあぜ道。時間はちょっと前。
明智光秀
(サビ残の嫌いな奴)
「前田利家って、槍の名手だろ?
正史で義元討ち取った毛利新介も、義元うち洩らしそうだし。
手助け必要?
世話の焼ける連中だねぇ」
さきほどの狙撃場所に戻った俺は、アゲハと一緒に弁当を食っていた。腹ペコです。戦闘前に食べちゃうと腹やられた時、助かんないのよ。
もちろん俺が作った弁当だよ。
アゲハは毒見役しかできない。
毒を食っても平気でいそうだけど……
しかし握り飯は塩に限るな~。
他は邪道だよ。
アゲハも隣で両手で大事そうに持ったおにぎりにかぶりつき、「うまうまです」と言って食べている。
2人で並んで腰かけて見る戦場。
こっちへ矢弾が飛んでこなければ映画のワンシーン。
見ごたえがある。
これでポテチがあれば、文句はないんだが。
いや、おにぎりには味噌汁も捨てがたい。
しかし、ドラマ鑑賞時には、やはりピザか……
俺が天下分け目の戦いの作戦を決めるような大事で難解な思考をしていると、のほほんとしたアゲハの声。
「ご主人様~。
このままでは義元は逃げちゃいますねです」
それもまずいな。
もう仕事は済んだのだけどなぁ。
手も洗って甲冑も脱いで、気軽な戦さ見学者だったんだが、そうも言っていられないか。
就職活動はまだ終わっていない。
自己PRの材料は多い方がいいし。
ただ利家の分は取っておかないとコネが使えない。
俺は指についていた米粒を名残惜しむように全部舐め終えてから、4丁の鉄砲の内、ライフリングがしてある1丁を取り出し、構えた。
幼馴染のヘンタイ的凝り性の技術者、冬木頼次がたった1丁だけ作った芸術品だ。
ライフル彫るのに1年かけやがった。
人間、好きなことは何時間でもやってられるよな。
因みに俺は、ガンプラや自作フィギュアに占領された部屋の片隅でひっそりと暮らしていた。ああ、天国だったんだよ。本当に。
サブカルはいい。
それがないと息が出来ない程、サブカルをいとおしく思っている自分を誇りに思う今日この頃。
ずが~~ん!
弾は義元の乗馬に命中。
さすがに50間(100m)を超えると、ライフリングをしていても命中精度はあまり望めない。丸弾だもんな。
安全策を取り、お馬さんに犠牲になってもらった。
「さすがは私のご主人様なのです。見事な狙撃!
前田様が無事、首級を上げたです♪」
よし。
就職へ向けてのエントリー表は完成した。
これで残るは面接試験。
……面接官。やっぱり、あの魔王信長だよな。
数々の圧迫面接を潜り抜けてきた俺も、ラスボスに挑む勇者の気分だ。
勇者には旅の友が必要。
利家君。
宜しく頼む!
手伝ったんだから、今度は逆にお手伝いしてね。
「ご主人様。
これ、お守りです。
10日かけて作りました~。
宜しかったら身につけていってくださいませです♪」
アゲハの差し出す掌の上に、意味不明の物体が。
よく寺の門に張られている御札のような紙。
それが複雑怪奇な形に折られている。
「こ、これはなにかな?」
「はい! ご主人様は神社やお寺が大嫌いと聞き、アゲハ自作の御札を用意しましたです。にぱ~」
太陽のような笑顔と共に、差し出す両手。
「この、もじゃもじゃした紋様は?」
「アゲハの笑顔です。うふっ」
マスキングを失敗したスプリッター塗装のような、滲んだ墨痕が迷彩柄になっている。
何も言うまい。
だがその気持ち、顔に出てしまったようだ。
「だ、ダメです? やっぱりわたくしはお役に立てないダメ忍び……」
白目の顔にザザッと縦線で雨のような効果線。
宇宙の終わりのような表情。
「よ、よくできているな。アゲハ。
これなら第六天魔王の圧迫面接にも耐えられそうだ」
途端にアゲハの背景にヒマワリが咲く。
よく考えてみればこいつに何度命を助けられたことやら。
最強のお守りじゃないか。
アゲハの頭をポンポンしてやり、こちらへ向かって来る利家に手を振った。
果たして魔王信長に採用されるのか?
いったいどんな採用条件なのか?
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「アゲハ、お守り上げるです。しおりつけてくれたらあげるです。にぱ~♪」