槍の又左
今川義元
(海道一の弓取り。治部太夫。とにかく偉い奴)
「義元さま!
前方、富永さまが討ち死に!
我らが退路をこじ開けます故、その間に大高城へ!」
近習の者の切羽詰まった声。
ここに伏兵がいたとは。
織田のたわけにしてはようやるわ。
いや。
そんなことを言うている暇はない。儂はここで首を取られるわけにはいかぬ。
まずは尾張を手に入れ、美濃・近江を手中に、そして……
「今川治部太夫殿。その御首、いただき申す!
我が名は服部小平太一忠。
見知り置かれぃ!」
後ろから追ってきた徒武者が坂を降りる勢いを駆って、槍をつけて来た。
儂は槍を防ぐとともに、この武者の膝頭を太刀で割った。
「おう。
小平太。大丈夫か?
隣にいるは新介か?
この獲物は俺に譲れ!」
「犬千代!
貴様なぜここに!」
儂をはさむように、坂の下から攻め上って来た伏兵の大男が、儂を包囲しようとしている者と呑気に話をしている。
おのれ。
海道一の弓取りと言われた儂を軽く見るなよ!
太刀で愛馬の尻を叩き、坂下に向かい突進した。
大男は槍を扱いて突き出してきたが、太刀でそれを跳ね上げすれ違いざまに首を狙う。
ぎゃりんっ
脇差で防がれたか。
だがもう誰も目の前にはいない。
このまま大高城へ……
ずががが~ん!!
愛馬が前へもんどりうって倒れる。
地面に投げ出され、息が詰まる。
背中に衝撃。
槍か。
ごふっ……ごれは助から、んか。
「前田又左衛門利家。
海道一の弓取り、今川義元を討ち取った!!!!」
ああ。
軍勢を率いて瀬田の大橋を渡って、京へ入りたかっ……