クサい仲
「うおっ!」
俺が生き残り仲良し戦略を、脳内で完璧にシミュレートしていると、後ろで叫び声。
「光秀殿! お助けを! 拙者、肥溜めにハマりまして!!」
見ると肥溜めの様子を見ていたはずの、秀吉、ああまだ藤吉郎ね。
くみ取り口から上半身だけ出して立っている。というか、これ以上落ちないように頑張っているらしい。
こんなドジな奴だったんかい! 秀吉。
太閤記とか、いいように美化して書いているからなぁ。
でもドジな方がみんなに好かれるよね。
「よし。手を伸ばせ。俺の右手につかまれ」
ここは恩を売るのに絶好のチャンス!
この右腕はクサい肥溜めにはまった者をつかんでいるのではない。大事な金づる。
いや、未来のお城。
上級国民駅行きプラチナチケット。
決して離すべきではない!
ズルッ!
ひ、秀吉。むやみに引っ張るな。
俺も落ちちまうじゃないか!
肥溜めから、強烈な悪臭。
令和の時代には、ほぼ経験しないであろう人糞の腐ったニオイ。
思わず身を引いてしまう。
あ、右手。
俺のプラチナチケットが!!
ずぽん。
秀吉、完全にハマりました。
見事に頭まで。
俺と同じくらいの背丈の小男だからな~。全部ずっぽり行きました。
「ま、まあ。こんなこともある? 藤吉郎。すまぬ、手を放してしまい。勘弁じゃ。一緒に川原で体を洗おう」
藤吉郎は猿顔を、クシャっとゆがめて大きく笑った。
「滅相もない! 某は信長さまに、明智殿の代わりに奔走せよとの命を受けております。身代わりに肥溜めにはまるのは仕事の内。お気になさいますな。はっはっはっ!!」
さすが秀吉だな。
猿が、いや、人が出来ているなぁ。
ここで一緒に落ちてクサい仲になっておけば、親友になれたかもしれないが、令和育ちの俺には到底無理だったよ。
近くの川で体を洗う事にした。
俺も少しだけ、手や足にクサい奴がくっついてしまったので、行水をすることにする。
「寧々殿ではござらぬか! これは奇遇。今日はついておりまする! 寧々殿のお顔が見られるとは。この藤吉郎、生きている甲斐があるというもの!」
ふんどし一枚になった秀吉が大声で話しかけている少女。
年のころは十三くらいの娘が土手の道を歩いていた。
俺たちより少し背が高いかな?
きれいな長い黒髪を背中で束ねて、腰まで垂らしている。
高価ではなさそうだが、小ざっぱりとした小袖を着て、野菜の入ったカゴを小脇に抱えている。結構美人。大人になれば引く手あまたじゃね?
秀吉の笑顔に笑顔で返す……はずだったんだろうなぁ。
笑顔は一瞬にして、瞬間凍結。
鼻をつまんで向こうを向いてしまった。
「これは失態! 今日は藤吉郎、新しき仲間が出来申した。クサい仲と申しましょうか。これから切っても切れない仲になるやもしれませぬ。某同様、仲良くしてくだされ」
利家よりも遥かに気がきく未来の天下人。
きれいな女の子を紹介してくれた。
「まあ。それは大変な目に合っても只では起きない藤吉様らしいわ。わたくし杉原定利の娘で、寧々と申します。以後良しなに」
歳は俺の一つ下、十三だという。
あ~。早い話が秀吉の正妻か。
おっとりとしているけど、しっかり者の雰囲気。
関ヶ原の戦いの行方を左右したほどの実力者になるんだよね。秀吉の領地経営もしていたらしいし。
ここは最大級の笑顔であいさつしないと、俺の未来が危うい。
「寧々殿。某、この度織田家に仕官した明智十兵衛光秀と申します。現在、藤吉郎殿と一緒に、この清洲の街をきれいにしていく命を授かり働いている所。
これをきっかけに織田家が天下を大掃除できるような大大名にと思っておりまする。見ていてくだされ」
普通に言うよりもちょっと大げさでインパクトのあるセリフを選んだが、外しても好印象になるように秀吉に負けず劣らずの明るい笑顔で大げさな身振りつけて言うことにした。
お手本が近くにいると勉強になるなぁ。
よく見て見習おう。
寧々はにっこりと笑い、俺たちがクサいのを気にしないような態度で長屋へ帰って行った。女子らしき配慮。
人が、いや、娘が出来ている。
「明智殿。寧々殿は譲りませぬぞ! 某のあこがれ。現在、何度も求婚中につき。そろそろ色よい雰囲気となっており申す故」
そうか。
もうそこまで行っているんだな。正史通りに結婚したら大々的に祝ってやろうか。利家と一緒にな。
「わかり申した。
拙者も後押しいたす」
これが、まさかまさかの結果になるとは、夢にも思いませんでした、はい。
お読みくださり感謝です!
「この光秀。笑える」
「ヲタクの世界だw」
「これからどうなる?」
そう思われた方は、ぜひブックマークと評価をお願いいたします。
「これは笑える作品だ」と思われた方は★5つ。
「まあまあなんじゃない?」と思われた方は★1つで、ぜひ評価してください♪
あれってクサいんですよね。
平安時代の肥溜め調査したことあるけど、1000年後になっても肥溜めの遺構はクサいです。
ついでに寄生虫の卵とかも生きているし。
次回は、秀吉君出世します。
もちろん、あの役職です。
「アゲハ、独り身の寂しさ知るです。★上げっこするです。にぱ~♪」




