源氏物語〜中流の女性達〜
こんにちは。
今回は「源氏物語」の女性達について書きたいと思います。特に私が好きなのが中流の女性達ですね。まずは末摘花の君。
主人公の光源氏が若かりし頃に一夜を共にした女性の内の一人なのですが。けど光源氏は一度は関係を持ったのに後は末摘花の君と夜を共にしようとはしませんでした。
何故なのかと言うと。実は末摘花の君、あまり美人ではなかったんですね。顔立ちは不器量でしかも鼻が長く垂れていて。その先がちょんと赤かったと作品中でも書かれています。
末摘花の君の顔を光源氏は一夜を共にした朝方にバッチリ見てしまい、逃げるようにして帰ってきたともありますね。光源氏は邸に帰ってきてからすぐには後朝の文を送りません。夕方になってやっと送ります。それでも彼女は怒りませんでした。光源氏は数日後に若紫の君と絵を描いて遊んでいましたが。不意に若紫の君が着ていた紅色の着物を見て末摘花の君を思い出します。そして一首の和歌を詠みました。
なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖にふれけむ
意味は「何であんな人と関係を持ってしまったのか」という失礼な意味ではあります。数年後に末摘花の君は光源氏が須磨や明石に流れていってからもずっと彼を待ち続けました。源氏が偶然にも彼女の邸を訪ねた際に末摘花の君の一途さに心打たれます。こうして彼女は二条東の院に引き取られて穏やかな日々を送ったのでした。
二番目は夕顔でしょうか。というか、以前にも書きましたね。
……気を取り直して。夕顔も光源氏と真夏の短い間の恋の相手になりました。彼女に対しては本気の恋だったようです。何年かして光源氏本人が「今も生きていたら。明石の君と同じくらいの扱いをした」と言っていた程でした。
夕顔が光源氏と出逢ったのはほんの偶然の出来事です。ある日に彼が正妻の葵の上の邸に行く途中、白い珍しい花が咲く邸の前を通りかかりました。光源氏が家来の惟光に何の花かと尋ねると。
「ああ。これは夕顔の花ですね。珍しいから一輪もらってきましょうか?」
惟光はそう答えます。光源氏は「だったら。もらってきてくれ」と答えました。主の言葉を聞いた惟光は邸に行って声をかけてみます。すると中から可愛らしい女童が出てきました。
「……一輪どうぞ。花がなよなよしているから。蝙蝠に乗せたらいいですよ」
にっこりと笑いながら言います。惟光は礼を言って戻ってきました。蝙蝠には一輪の夕顔の花が乗せられていてよく見ると一首の和歌が書かれています。
心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花
意味は「当てずっぽうであなた様だと思います。私は」という感じでしょうか。要は「あなたが光の君だと私は思っています」と夕顔は言いたかったようです。光源氏はなかなかに風流な女主人だと歓心したのでした。そうして夕顔と名付け、通うようになります。
真夏になりある日に光源氏は夕顔を無理に某の院――寂れた邸に連れ出しました。そこで二人は甘い時を過ごします。ところが夜中になり不意に夕顔が苦しみ出しました。それに気がついた光源氏は夕顔の肩を揺すり起こそうとします。そうしたら風が吹き、灯明が消えてしまいました。源氏が目を凝らすと枕元に後ろを向いた女性の姿がぼんやりと見えます。その女性はゆっくりと振り向くと源氏に向かって言いました。
「……わたくしという者がありながら。何故、そのような身分軽き女と一緒におられるのですか」
女性はそう告げると何と夕顔の首を絞めようとします。源氏はとっさに枕元に置いていた太刀を抜き、女性――生き霊に切っ先を向けました。生き霊は太刀を見たらすっと消えてしまいます。源氏は急いで付き添いで来ていた夕顔付きの女房の右近を呼び立てました。右近は泣いて酷く怯えていましたが。無理に主人の側にいさせます。次に従者達を呼びに行きました。彼らの部屋に入ると皆、眠ってしまっています。源氏は両手を叩き、従者達を起こしたのですが。最初に起きた惟光に問いただすと。彼はいつの間にか寝入ってしまっていたと言います。源氏はため息をつきながらも灯りを急いでつけるように命じました。
灯りがともされ、源氏は改めて夕顔の様子を見に行きます。ところが右近がいくら呼びかけても夕顔は意識を失い、ぐったりとしたままでした。源氏も夕顔を抱きかかえ、揺さぶったり声を何度か掛けましたが。目を覚まさず、顔色も悪いままです。しばらくしてやっと彼女が亡くなっている事に皆は気づいたのでした。
ある小さな尼寺で夕顔の亡骸を供養してもらい、源氏は弔います。馬に乗っていた彼でしたが。悲嘆のあまり落馬しかけました。それくらいには夕顔に本気になっていたのが伺われます。
夕顔は亡くなった時、まだ十九歳でした。ちなみに彼女には一人娘がいましたが。この一人娘が後の玉鬘です。
三人目はこの玉鬘について書いてみましょうか。
玉鬘は父が頭中将でかの葵の上の兄です。母は先述の夕顔になります。三歳にして母を亡くした玉鬘は乳母達と一緒に九州の太宰府近辺に行き、こちらで育ちました。幼い頃は天真爛漫に振る舞っていた彼女ですが。成長するにつれて乳母からあまり外に出ないように言われます。玉鬘が年頃になり美しさに磨きがかかってくると。噂を聞きつけた男性達がこぞってやってくるようになります。
大夫の監という近隣の名士と名高い男性も来て玉鬘を自分の妻にと乳母達に頼み込むようになりました。和歌のやり取りもしましたが。乳母達にしてみたら気が気ではありません。
表向きは乳母の孫娘として玉鬘を扱っていたので男性陣はならばと余計に熱心に結婚を申し込んでいたのでした。太夫の監が二度、三度と来るうちに乳母達は危機感を抱きます。このままでは玉鬘が実父と再会すらできなくなると。
乳母達は一計を案じて九州から都へと船で行く事を決めました。玉鬘を都に連れて行くためです。夜中に乳母や息子、付いて行くと決めた娘達とで玉鬘を守りながら船に乗り込みました。一路、都を目指します。荒波などに揉まれながらも玉鬘一行は長谷寺にまでたどり着きました。参詣した後、泊まっていた宿屋で偶然にも夕顔のお付きの女房であった右近と乳母達は再会します。玉鬘を見て右近は喜び、実は現在は光源氏の邸に勤めていると告げました。
さらに右近は光源氏が夕顔の娘である彼女を長年探していたとも話します。最初は戸惑っていた玉鬘達でしたが。右近の説得により光源氏の邸宅――六条院に行く決意をしたのでした。
六条院にて玉鬘は姫としてお作法などを習い、徐々に馴染んでいきます。ところが義父であるはずの光源氏にしつこく言い寄られて玉鬘は非常に困惑する毎日を送ります。それに加えて義理の弟でいとこにも当たる夕霧にすら横恋慕される事態にもなってしまいました。
玉鬘は悩みながらも最終的には髭黒右大将と結婚します。周りは非常に驚きましたが。玉鬘は右大将の邸宅に移り女房から先妻の病などの事情を聞きます。それがわかると彼女は義理の息子達を受け入れ、右大将に理解を示すようになったのでした。翌年には実子も生まれ、玉鬘はやっと幸せを掴み取ったのです。
いかがだったでしょうか。これくらいにしますね。では、お読みいただき、ありがとうございました。