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道場の仲間が考えた披露宴の出し物  作者: きつねあるき
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第2章~飲みながら最後に出した案は

「あのさぁ、今度同じ道場に通っている松坂先輩(せんぱい)から結婚披露宴(ひろうえん)に呼ばれたんだけど、そこで道場の仲間と一緒に出し物をして欲しいって頼まれたんだけど何がいいと思う?」


 それを聞いて、自分らはかなり意表を()かれました。


 井沢さんは、現場長と()りが合わないので、現場での(なや)みや不満を打ち明けてくるとばかり思っていたからでした。


 日野さんと大貫さんは、出し物についていろいろと質問をしました。


「誰かゲストを呼ぶと結構(けっこう)な金額になるよね」


「売れているアイドルだとかなり高いらしいね」


「列席者で演奏(えんそう)するとかもあるよね」


「でも、楽器を借りるにしてもピンからキリまであるけどね」


「ところで、その出し物ってどのくらいの予算で考えてんの?」


 大貫さんがそう言うと、井沢さんは困った顔をして、


「それがさぁ、道場の仲間はそんなに持ち合わせがないんだよ」


「ご祝儀(しゅうぎ)を出すだけでかつかつなんだけど何とかならないかなぁ?」


 と、苦渋(くじゅう)の表情で言ってきました。


 それを聞いて、自分は即座にお金のかからない出し物を思い付きました。


「道場の皆さんは日頃から(きた)え上げているから、迫力(はくりょく)のある腕相撲(うでずもう)を披露するのはどうかな?」


「トーナメント方式にして、優勝者は新郎と決勝戦をやるというのはどうかな?」


「もちろん、最後は新郎が圧勝するという流れでね」


 個人的には渾身(こんしん)の案を出したつもりでしたが、どうもいまいちだったのか、誰も首を(たて)には振りませんでした。


 皆さんが難色(なんしょく)を示した理由は、余興(よきょう)としては楽しめるものの、お祝いの場としてはふさわしくないと思われたからでした。


 思い付きが早いという点と、お金がかからないという点では評価されましたが、あと一捻(ひとひね)り足りないとの事でした。


「確かに、練習生の鍛え抜いた肉体を披露しない手はないよなぁ」


「何かいい案はないのかなぁ…」


 筋トレ仲間の日野さんが片肘(かたひじ)を付いてそう言うと、それを聞いて井沢さんはゆっくりと2回(うなず)きました。


 どうやら、道場の皆さんの鍛え上げられた肉体を披露するという事には賛成のようでした。


 そこで、日野さんがポンと手を打ちました。


「道場の皆さんが、新婦(しんぷ)と御両親をお姫様抱っこをして登場するのはどうかな?」


 自分はその発想は無かったので(おどろ)きました。


 すると、その案に便乗して井沢さんは、


「それいいねぇ!高砂(たかさご)に着く前に仲間をチェンジして、2人がかりで脇の下を片方ずつ持ち上げるリフトに移行するのも面白(おもしろ)いんじゃないの!」


「何せ、彼奴(あいつ)ら力だけはあり余っているから!」


 と、威勢(いせい)よく言い放ちました。


 自分は、道場の皆さんにとって、これほど肉体を生かしてお金をかけない演出はないと思いました。


 しかし、そこで大貫さんが水を差してきました。


「確かにいい案だけど、新郎(しんろう)も相当鍛え上げているんでしょう?」


「だったら新郎が新婦をお姫様抱っこをした方がいいでしょ!」


「それに、練習生が新婦をお姫様抱っこしちゃうと、新郎は気分を害するんじゃないかな?」


 その指摘(してき)が余りにも的を得ていた為、自分は胸をえぐられたような気分になりました。


 そこで、自分は残りのサワーを一気に飲み干して言いました。


「そこは前以(まえも)って松坂先輩と綿密(めんみつ)に打ち合わせをしておけばいいんじゃないの?」


 そう言うと、井沢さんは、


「そこはサプライズにしたいから言えないよ」


 と、頭を()きながら答えました。


「でも、それじゃあ大貫さんの指摘が何も改善されないじゃん」


「確かにね、道場の皆さんは新婦を軽々と抱き上げる力があっても、それを後からセクハラだとかクレームを付けられたらぶち(こわ)しだもんね…」


 この時、一通り食べたい料理は平らげていたので、皆さんも残りのハイボールやサワーを(しぶ)い顔をして飲み干しました。


 満腹になったのと()いが回ってきたのもあって、段々と思考能力が低下してきました。


 せっかく出された案ではありましたが、もうこれ以上新しい発想は浮かびそうにありませんでした。


 そこで自分は残り時間をチラッと見ました。


 あと17分あったので、とりあえず全員で温かいお茶と水を注文しました。


「さて、これからどうしたものか?」


「2人がかりのリフトは、新郎新婦の御両親だけにするとか?」


「でも、それだと主役が引き立たないよな…」


「ですよね~」


「どこかで皆さんの力を生かせる最適な機会はないものかね?」


 話しがいい方向に進んだと思ったところで、思わぬ手抜かりが見つかったので、しばらくの間沈黙(ちんもく)が続きました。


 そこで、何かを思い付いたのか、日野さんが口元を(ゆる)めてこう言ってきました。


「だったらさ、お姫様抱っこやリフトをするは男性限定でやったらどうかな?」


「それだったら、男同士だからセクハラには当たらないんじゃない?」


 その一言で井沢さんが再び活気付きました。


「そうだな、ありがとう!」


「他にないならその案でいくよ!」


 井沢さんはとても(うれ)しそうに笑いました。


 最終的には異論なくその案で決定したので、3人は井沢さんに拍手を送りました。


 そろそろ会計をしなければならないタイミングで、最後に起死回生(きしかいせい)の案が出たので、やっと胸を()で下ろす事が出来ました。


 飲み会の帰り道に井沢さんは、


「今日は相談に乗ってくれてありがとう!」


「この事は道場の皆さんにも伝えておくよ」


 そう3人にお礼を述べると、機嫌よく帰って行きました。

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