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道場の仲間が考えた披露宴の出し物  作者: きつねあるき
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第1章~偶然見付けた格安な料理店

 皆様は、先輩の結婚披露宴に呼ばれた事はあるでしょうか。


 そこで出し物を披露して華を添えたり、盛り上げたりした経験はあるでしょうか。


 楽器の演奏が出来たり、一芸がある方にとっては、特技を生かすチャンスなのかも知れませんが、特段お披露目するような特技がない人にとっては、何をしたらいいか分からないのが本音ではないでしょうか。


 それと、人前に出るのが苦手な方にとって、結婚披露宴の出し物を依頼されるのは悩みどころではないでしょうか。


 このお話は、格闘技の道場に通う練習生が先輩の結婚披露宴に呼ばれた時に、どういう風に盛り上げたのかという流れで進んでいきます。


 因みに、実際に先輩からの直々の招待を受けて断る練習生はいなかったそうです。


 練習生の中には、高額なアルバイトをしている人もいたので、何とかご祝儀は工面出来たのですが、問題なのは先輩から依頼された結婚披露宴の出し物に予算が立てられない事でした。


 歌の披露も候補に挙がっていましたが、皆さんの本職は会社員なので、練習する時間も場所もありませんでした。


 そこで、どんな披露宴にしていったのでしょうか。


 一応、案は出たものの、あとはぶっつけ本番で、ノリと勢いでささっと終わらせる手筈でした。


 先輩の晴れ舞台に、4人で考えた計画と練習生一同で行った出し物は一体どうなったと思いますか。


 トラブルだけはならないよう慎重に意見を出し合ったので、きっと計画通りに乗り切れるだろうと思っていました。


 当日、出し物に参加した練習生達はドキドキしていて、飲み仲間の3人は何となくその事が気になっていました。


 披露宴の出席者になった気分で、気軽にお読み頂ければと思います。


 今回のお話は、2017年(平成29年)の時の事で、当時の飲み仲間から聞いたお話になります。


 その人は井沢さんといい、短気なところもありましたが気さくで礼儀(れいぎ)正しい方でした。


 井沢さんは、2011年(平成23年)に入社して、2018年(平成30年)には同業他社に転職してしまったのですが、当時仲良くしていた4人の飲み会メンバーの一員でした。


 井沢さんは趣味で格闘技(かくとうぎ)をしていたので、常日頃(つねひごろ)から欠かさず筋トレをしていました。


 食事についても(こだわ)っていて、タンパク質を多く含む食物を好んで摂取(せっしゅ)していました。


 なので、ガッシリとした体型をしていました。


 井沢さんは顔つきが童顔(どうがん)なので、それを軽く見た相手からよく(から)まれる事があったようですが、ムキムキになってからも同じような事が続いたので、()ぐに肉体を見せられるような格好(かっこう)をしていました。


 職場では部署によって会社が違うので、トラブルを()ける為に他社の方とはあまり関わらないのがセオリーでしたが、井沢さんは格闘技をしているのもあって、(きた)えている人や強そうな人を瞬時(しゅんじ)に見分けて積極的に話かけていました。


 同僚で、筋トレが趣味の日野さんとは、年がら年中トレーニング方法や食事について熱く語っていました。


 オーナー側の若手にも、筋トレが趣味という武藤さんがいたのですが、井沢さんと2人でたまに事務所から抜け出すのです。


 何をしているのかと思って後をつけたら、2人は機械室のストレージタンクの間の(せま)い通路で(おもむろ)に上半身裸になりました。


「な、何だ!喧嘩でも始めるのか?」


 と思って、固唾(かたず)を飲んで見守っていると、


「いいね~、その大胸筋(だいきょうきん)!」


「また大きくなったんじゃない」


「いやいや、その三角筋はなかなか見ないよ!」


「何キロのベンチプレス上げてんの?」


 といった感じの会話で、2人で恍惚(こうこつ)の表情を浮かべていました。


 そして、お互いにペタペタと上半身を(さわ)り合い、鍛え抜かれた筋肉を(たた)え合っていました。


「もしかしたら何かのトラブルがあったのか?」


 と思って、2人の後をつけていったものの、見てはいけない物を見てしまった感に(さいな)まされ、気付かれないようにそっと事務所に戻って行きました。


 筋トレが趣味の方は、やはりストイックなまでに追い込んでトレーニングをするので、その境地(きょうち)を知った者同士とは話が合うようでした。


 ある日、自分が日勤帰りに運動の為に一駅先までぷらぷら歩いていると、格安で食べ飲み放題のオーダー式中華料理の店がありました。


 その店は、税込み2700円にもかかわらず品数も豊富でした。


 同じ様な形式の店は、駅の近くだと4000円前後はするので、歩くのさえ我慢(がまん)すればかなりの穴場でした。


 最寄り駅から歩いて中華料理店に行くと、およそ15分はかかりますが、職場からだとそれほど遠くはありませんでした。


 ゆっくり歩いたところで、7~8分といったところでしょうか。


 自分は、でかでかと掲げられた看板を見て、次の仲間内での飲み会はここにしようと思いました。


 翌日、早速その事を井沢さんに話すと、


「丁度いいや、いつもの仲間と一緒なら近いうちに相談したい事があるんだよ」


 と、言ってきました。


 いつもの仲間とは、筋トレ仲間の日野さんと同期入社の大貫さんでした。


 勤務表を見ると、4人共日勤に当たる日は1週間後だったので、早速2人にも声を掛けました。


 すると、2人は二つ返事で参加を表明してくれました。


 1週間後、日勤が終わってから予約した中華料理店に行くと、3人は井沢さんから何を相談されるのか落ち着かない感じでいました。


 皆で乾杯をしてから、既に出されていた1品目の料理を食べ終わるまでは、他愛(たわい)もない話をしていました。


 それから、道場の話題に移っていきました。


 格闘技の道場で鍛錬(たんれん)を積んで戦えるようになると、小さい大会には出られるようになりますが、優勝賞金は数万円だと言っていました。


 賞金稼ぎで強くなろうとする人もいるにはいますが、井沢さんが通っている道場では趣味やダイエットでやっているの方が大半で、大会に参加しようとする事自体が珍しいそうです。


 ですが、日々道場で鍛錬している方々は、一般には出回らないアルバイトがあるんだとか…。


 それは、キャバ(じょう)がお客さんとトラブルになって殺害予告を受ける程になると、道場の代表に護衛(ごえい)のアルバイトを直接依頼してくるそうです。


 そのアルバイトとは、格闘家がキャバ嬢の前後に1人ずつ護衛について、自宅からお店まで細心の注意を払いつつエスコートするのです。


 大概(たいがい)、何事も無く終わるのですが、お客さんの中には刃物を持って(おそ)ってくるケースもあるので、高額なアルバイトではあるものの、やるかやらないかは半々だそうです。


 危険性があるからといって、武装してはいけないルールがあるので、何か起きても生身で対応しないといけないそうです。


 致命傷にならないよう、急所をガードする物を大ぴらに付けると、(うら)みをもつお客さんの反感を買ってしまう事があるので、なるべく自然に護衛しなければならないそうです。


 日本では、(じゅう)()たれる事はほとんどないとはいえ、殺傷能力の高いナイフを所持していると厄介(やっかい)なので、特別な護身術(ごしんじゅつ)を習得する必要がありました。


 井沢さんも、1回は護衛のアルバイトをした事がありましたが、プレッシャーが半端ないのと丸腰(まるごし)で対応出来るか不安を感じたのでもうやらないと言っていました。


 何せ、建物の角や死角になる部分に差し掛かる度に、緊張が増していったからだそうです。


 それに、シュミレーションをしていくと、相手が1人なら対応出来ても複数なら分が悪いと言っていました。


 キャバ嬢の方とは数メートル距離を置かないといけないし、前衛が後方から襲われた場合は後衛がフォローしますが、後衛が後方から襲われた場合は、前衛は後衛に(かま)わずにキャバ嬢を護衛しつつ逃げなければなりません。


 なので、後衛はベテランが担当するそうです。


 前衛は、向こうから(あや)しい通行人がやって来たら後衛に合図を出すのですが、咄嗟(とっさ)にそれが出来るかどうかが問題でした。


 そこで、オーダーした3品の料理がテーブルに並びました。


 ぞわぞわする話が一旦(いったん)途切れたので、皆さんで大皿料理を小皿に取り分けていると、そこで井沢さんは唐突(とうとつ)に相談を持ち掛けてきたのでした。

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