97.団らん
「マスターの料理。見た目はいいんだけど、美味しくないよね」
「はりぼて……」
「そんな、ばかな……!? 計量は完璧なはず……」
「サリィがやるから……」
料理を作るようになって、思った以上に毎日が楽しかった。
私の作る料理に関していうならば、データベースから情報を汲み上げ、その通りに作るだけだが、彼よりも美味しいものができあがるから不思議だった。
「マスター。そんなふうにそわそわしてないで、座って解析の続きでもしたらどうですか?」
「いや、だがな……」
「下手くそはできることがないので、黙って座ってましょう」
「……はい」
後ろからは、そんな会話が聞こえてくる。
彼にできないことが私にはできるという実感が湧いて、それがとても嬉しかった。
だから、時間をかけて手もかける。
焼きたてのピザに、人工肉で再現をしたローストビーフ、ポタージュに、シーザーサラダ。
お皿をテーブルの上へと並べていく。
「食べよ! 早く早く……!」
「ん……」
「あぁ、そうだな」
三人で席について、食前の祈りを捧げる。
そうして、料理を口に運ぶ。
「やっぱり、ママの料理が一番美味しい! はむ……」
目を輝かせて、アザエルは私にそう伝えてくれる。幸せそうにピザをほうばっている。
「料理を作るロボットと、大して変わらないと思うけど」
一応、そういう機械がここにはある。料理を作る暇がないときは、それを使うことにしていた。
「それでも、私はママの料理がいいのっ!」
アザエルはそう言った。味はそこまで変わらないだろうに、私は少し不思議に思う。
「美味しいかどうかは、人間は脳内物質の分泌量で判断しているわけだろう? 誰と食べてるか、誰が作ったかとか、状況によって、その量が変わるのは当然だ。そんな人間の仕組みはアンドロイドにも引き継がれてる」
「マスターはなかなか味気ないこと言いますね」
「……すまない」
まぁ、彼はそういう人間だ。弱々しくアザエルに謝る彼が、なんだか私には微笑ましく映る。
「ううん。納得した」
それに、私にはそういう説明の方が合っていた。私の料理が一番美味しいというのは、とても嬉しいことだと思えた。
「マスターのことは好きですけど、やっぱり最低基準をクリアしてないので、ママの料理みたいに美味しいとは思えないんですよねー。無能な働き者ほど迷惑なものはないというか……」
サラダをフォークで取り分けながら、アザエルは彼のことを貶していた。
さすがに言い過ぎだと思う。
「アザエル。そこまで言うのは失礼」
「はーい」
ただ私も、休みなく働く彼には、料理に気を取られたりせずに、ゆっくりとしていてほしいと思っていた。口が少し悪いけれど、アザエルはそれを伝えたかったのだろう。
「いや、ほんとに申し訳ない。サリエルも……お前だけに押し付ける形になって……」
「ううん、大丈夫。サリィは一生、ここで料理を作って暮らすの」
「…………」
眉間に皺を寄せて、彼の表情は優れなかった。
彼はきっと勘違いをしている。二人のために料理を作ることが、私にとっては幸せなことになっていたからだ。
「どうしたんですか? マスター。食べないんなら、マスターの分まで食べちゃいますよ?」
「ん? あぁ……欲しいなら、わけてやるが」
「美味しくなかった……?」
確かに彼は、あまり食事が進んでいない様子だった。
私の作った料理が口に合わなかったかと、不安になる。
「いや、そうじゃなくて……。自分の好きなものって、そうだな……子どもに分けてやりたいって思うだろう? ほら、アザエル」
「やったー、ありがとう。……あむっ」
彼が切り分けて与えたピザを頬張るアザエルを、彼は微笑ましげに見つめていた。そんな彼を見て、どうしてか私の幸せがどんどんと積み重なっていくような気がした。
そうやって日々が続いていく。
私はとても幸せだった。だからこそ、私は幸せを確かなものにしたくなった。




