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96.娘


「サリエル。いいか? 起動するぞ?」


「ん……」


 形になったグリゴリを制御するための人工知能の導入だった。

 いろいろ検討をしたけれど、最終的には無垢な赤子を育てるように、事前になんの経験もない人工知能をグリゴリとともに成長させるという結論に至ったからだ。


 人工知能が起動をする。生まれたときから、他人の運命を操る装置を手足のように扱える存在だ。そんな人工知能を私たちは、正しく導く必要があった。


 私は少し緊張をする。


「……あれ? ここは?」


 スピーカーから音声がする。たぶん、正しく起動できたのだと思う。

 それにしては、様子がおかしいような気がする。


「俺の声が聞こえるか?」


「あなたは……? マスターと認識。データと照合が完了しました」


「あぁ、了解。それでこっちはサリエルだ」


 調子がどうも変に思えるが、彼は話を進めていく。

 私の紹介にうつって行って、私は生まれたばかりの彼女へと声をかける。


「サリエル。よろしく」


「サリ……エル? ママ……?」


「ママ?」


 よくわからない。

 確かに無垢な人工知能だ。誰が親かといえば、私が母親になるのかもしれない。けれど、そんな調子で言っている様子ではなかった。


「私はアザエルです。よろしくお願いします、マスター。それとママも、よろしくね」


「アザエル……グリゴリの天使か。どうしてその名前を……?」


「大切な人からもらいました。ね……」


 本当にわからない。

 彼女は、今起動したばかり……そんな名前をもらうような過去がないはずだった。


「アザエルには過去も未来もないんだ。たとえば、世界の未来の行く末が一つに決まっているとして、それが全てわかるとすれば時間の流れは静的で、過去も未来も同じになる。そういうことだろ? アザエル」


「ええ、そういうことです。さすがマスター」


「そうなの?」


 途方もない話だと思う。

 ならアザエルは、私たちより一つ上の次元に生きているようなものだ。どう接すればいいのか、私にはわからなかった。


「そして、そんなアザエルはマスターの娘で、ママの娘でもあるわけです」


 ママ、とは私のことを言っているのだろう。彼女を育てるのが私と彼になるのなら、私が母親と呼ばれることは、おかしいことではないのかもしれない。


「うん。よろしく、アザエル」


 家族、といえば私には姉妹たちがいた。それに、私たちを導いてくれたのはマザーだった。

 私はずっと、みんなの後をついてまわる立場だったからこそ、一人、感動を覚えていた。私はママになった。


「マスター。それはそうと、私のボディはないんですか……?」


「あぁ……それなら、お前の自己同一性がはっきりし始めた頃にと思ったんだが」


「それなら、ファイルを作成したので後で見ておいてください。その通りに身体を作ればいいので……」


「あぁ……これか、本当にこれでいいんだな?」


 それを聞いた彼はすぐさま端末を操作して言った。

 私は覗きこむが、どうやら子どもの姿の身体のようだった。


「はい。完璧です」


 よく見ると、目もとなんかがどことなく彼に似ているような感じがする。見比べてもやっぱりそうだ。

 それに髪質や、輪郭なんかは私の姉妹にそっくりだった。


「わかった。発注しておく」


「よろしくお願いします。マスター」


「そうだ。サリエル……お前も何か注文しないか?」


 手元の端末を操作し、どこかにそのデータを送りながら、彼は私に問いかけてきた。


「どのパーツも異常はないから……。大丈夫」


 動かしてみておかしな部分もないし、エラーメッセージもない。まだまだどのパーツも使い続けられる状態だった。


「いや、そうじゃなくてな。たとえばそうだ……食べ物をお前は食べられないわけだろう? だから、味を感じられるパーツや、食べ物をエネルギーに変えられるパーツに変えてみたりとかな……」


「興味ない」


 正直、考えたこともなかった。人間のように味を感じられたところで、特に変わりはないだろうと思う。


「それでも……そう、娯楽は多い方がいいと思ってな……。料理っていうのも、人間が積み重ねて洗練させてきた文化だろう? それが楽しめるかどうかで、きっと人生の質も変わってくるさ」


 そうは言われてもよくわからない。味覚という概念のない私にとっては、それがどのくらい意味のあることなのか想像がつかない。


「ねぇ、ママ。一緒にご飯食べよ?」


「……!? 食べる」


「じゃあ、決まりだな」


 私たちのやり取りを見て、苦笑いをした彼は、追加で端末に操作を加えていた。同時に、私のパーツも発注してくれているのだろう。


「お金……。お給料から、差し引く?」


「いいさ、俺が払うよ。大した額じゃない」


 アンドロイドのパーツは決して安価などではなかった。

 それでも、とんでもないものを幾つも世に創り出してきた彼にとっては、きっとその言葉の通りなのだろう。


 アザエルのボディも含めて、出来上がり、調整を終えて、実際に使えるようになるまで数ヶ月の時間がかかった。

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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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